××が消えた日。
朝起きて歯磨きをし、学校に行く準備をする。
テーブルに着いて食卓を見ると、カケルがいなかった。
「…カケルは?」
マシュマロ入りのココアを飲んでいたヴァーデに訊くと、寝ぼけ眼で「そういえば朝からいないわね」と苦笑した。
何時もの事だけど……なんだか嫌な予感がした。
学校から帰り皆でおやつを食べる時も、カケルの姿はなかった。
「何処へ行ったのやら…」
用途不明の棒状の物とか、怪しいノートとかが錯乱するカケルの部屋に入ったはいいものの、全ての荷物が置きっぱなしで変わった所なんかなかった。
本当に何処にいったんだろうか?
…もしかして記憶が蘇って…私を嫌って…帰って行ったのだろうか…。
溢れ出る涙を拭い取り、布団にくるまる。
「おー…かけるのにおいがする…」
「それ、なんだかやらしい」
「クォッ!?」
「うん、ぼくクオリ!」
キャーッと言いながら抱き付いてくる大きなわんこを受け止めて、二人してカケルの布団の中に入った。
クオリと向き合って横になる。
クオリはやっぱり子供体温なので、とても暖かい。
「ぬくいねー」
「本当にねー」
犬みたいにぺたーとしたクオリが「カケルの布団、お父さんのにおいする」と言い、くんくん匂いを嗅いだ。
本当に犬か君は。
「加齢臭はないと思うんだけど…」
むしろクオリとは違った種類の良い匂いがする。これだからイケメンは狡い。匂いまでイケイケなんだから。
「あのね、車とこーすいの匂いするの」
「だからお父さんの匂い!」とキリッとした顔で言う。
そんな無駄にキリッとされても。
「ねえクオリ…カケル何処行ったんだろうね…」
「カケルそこ居る」
「そうよね…カケルそこ……」
漸く言葉を飲み込めて、そこと指さされた所…背後側を見た。
居る。
いつの間にか一緒に布団に入ってる…!!
「な、何故居る」
「私の布団でございますから、居るのは当たり前ですよ」
そんな無駄にキリッとした顔で言われても…。
其処でハッとなった。
表情が普通にある?
あの無表情がデフォルトっつーかそんな感じのカケルが!?
「もうヤになりますね、あのシカクの奴は」
そう言って実に嫌そうなな顔をしたカケルをまじまじと見ると、不思議そうな顔して「なんでございますか?」と首を傾げた。
表情がコロコロ変わってるーー!!
頬や薄い眉毛に咽喉もとや耳等を探りまくり、可笑しな所が無いか確認する。
…特に何もない!
「あれ?カケル、シカクじゃなくて□□って言ってた筈だよ。なんでシカク呼び?」
クオリがひょいと私の横顔に頭を乗せてカケルを見た。
お陰でクオリの結構逞しい胸元に収まってしまい、息が苦しい。
それになんだか甘いデザートのフルコースみたいな匂いがする。
いや、それは元々か。
どうでもいい事に意識を飛ばしていると、カケルが実に気分悪そうな声でこう言った。
「どうやら私、神のあるぐぁ…失礼。カケルとしての身体を紛失してしまったようなのでございます。気付けばただの人間の身体に入ってしまっているようで…探してはいるのでございますが」
お陰で神の名がまともに発音出来ませんとしょぼくれるカケル君。
…そう…彼はいま人間なんだ。
ならば。
「あの、なんでございますかそのワキワキとしたおてては」
「天誅!」
「ひ、ひぁぁあああん!?くすぐったいでございます!!お、お止め下さいまし!」
「ぼくも!てんちゅー!」
「ひっ!ひぃんっ!そんな2人掛かりとは姑息です!脇も腰も脚も擽らないで下さいませぇぇええ!!」
とりあえずすっきりした。
これでゲームの件は水に流してあげるわ。