××はゲーム好き
「私、暇は嫌いで御座います」
煌びやかな場所の一角に、それはいた。それは影のように真っ黒であった。髪も左目も服装も真っ黒であった。ただ、右目だけが星を散りばめたような虹色をしている。
容は神秘的でいて、細工師が魂を削ってまで作ったのではと思う程の美貌をしていた。
そんな神秘的な美貌を持つ黒い男は――ゲームをしていた。
「ちょ、だからといって乙女ゲーって」
「暇を潰せるなら私、糞ゲーでもやり込みますがなにか?」
ぼんやりとした羽根を生やした天使(顔はどう見てもヤ〇ザ)の突っ込みにも、黒い男は怯まなかった。むしろ不機嫌そうな黒い男に、天使は若干怯えていた。どうやら黒い男の方が立場が上のようである。
「小説にもゲームにもトリップというものが御座いますが…私、王道より邪道を好んでおります」
「は、はあ…」
「ある日主人公である者が目覚めますと、なんと其処は異世界でありました!しかしながら主人公はそれを望んではおりません…。だというのに逆ハーでは御座いませんか!私耐えられません!!………そんな展開を、私は望んでおります」
「で、ですか…」
「私あんなにもアグレッシブに狩りをなされるとは…予想外で御座いました」
「え…狩り?」
コントローラーをぐっと握り締めた黒い男が、むっすりとした顔で叫んだ。
「私の送った女性は、何故か最初からサバイバル技術がMAXだったので御座います!!あれではキャラクターと絡めないではありませんか!!」
「どんな女性なんすかそれ!!」
「無駄に逞しい女性で御座います」
天使は絶句した。黒い男は天使を無視をして、やっていたゲームを消す。そして先程のゲームとは違う機械を起動すると、画面には鮮やかな世界が広がった。
「…ふむ。どうやら進んだようで御座いますね。YES、と」
ぽちぽちとコントローラーのボタンを動かすと、ステージクリアの文字が浮かんだ。そして、違う場面が映る。
「――典型的な男好きの偽女主人公…はてさて、貴方様はどの様にして欲望を満たされるのか非常に楽しみで御座いますが、私の選んだ主人公は貴方様では御座いませんよ。貴方様では役不足です」
召喚された女勇者がモンスターを屠るメインキャラクターを応援する場面が映っていて、画面横には恋愛イベントを進行中な事をハートマークで知らせていた。カッコ良い事を言っているような気がするものの、下界の人物を乙女ゲーに見立てて遊んでいるだけである。乙女ゲー…それは女主人公が男のメインキャラクター達を陥落するゲームのこと。黒い男にはとても似合わないゲームである。
「うわぁ…。これ、自分はお姫様なのよ!とか喚く典型的な我が儘娘じゃないすか。流石にちょっと…キモイっすわ」
「気持ち悪いお方であるからこそ、私としましては当て馬にするのに罪悪感等は感じずに済むので御座いますよ」
真顔で言い切る黒い男は本当にそう思っているようで、天使はそれはちょっと酷過ぎないかと思うも、賢明にも黙っていた。
「…そろそろ貴方様にも魔王討伐(笑)騒動に巻き込まれていただきますよ
荻原凛子様」
(うわあ…凛子ちゃん全力で逃げて!!逃げてぇ!!)
「っくしゅん!!風邪かな」
「風邪?大変!君、寝てて!ぼく、栄養満点、ご飯なる!たべて!」
「そんな自己犠牲な友愛はいらん!」