生肉は食べれない
「今日は曇り空ですな…」
朝日の差し込まぬ空を見上げながら、私は欠伸をした。今日も詰まらない日常の幕上げだ。小五月蠅い(見た目は鷹だが身と卵の味が鶏っぽい)鶏共に餌を投げ入れて、釣り竿を掴む。
「魚魚魚~さかな~を食べ~よう~」
誰にも聴かれていないと断言出来るので、自作曲をハミングする。歌は偶に差し込む光の綺麗な山中に響き渡り、吸い込まれるように消えていく。その風景を見て湧き上がる孤が付く感情を知らんぷりして、竿を振った。青と少量の多色が混じった泉の、木陰に隠れたそのコントラストの美しい水面がぽちゃりと鳴る。
私の今やるべきことは、魚の事で頭をいっぱいにすることだ。決して『知らない天井だ…』『もしやトから始まりプで終わるものか!?』『とうとう我が輩は召喚されてしまったというのか』なんて方面で考えてはいけない。きっと夜眠れなくなり、昼に爆睡する羽目になるのだから。
私は気付けばこの場所に建つ家の中のベッドにいた。ベッドの近くのテーブルには紙が置いてあり、こう書いてあった。
『おめでとう!君は一等賞になりました!!此処は“永久の愛獄”の世界!!君を何でも出来る超絶チート美少女にしました!!後から召喚されるちょいチート気味普通系主人公に成り代わって、楽しい恋愛イベントを独り占めしちゃいましょう!!!!』
私は紙を燃やした。今思うとあれが初めての魔法で所謂無詠唱魔法だったのだけど、頭の中にはこれしかなかった。
『此処の物を食べても大丈夫なの電気ガス水道無いと無理なんだけど多人数の男に好かれても面倒だしキモイんだけど』
女として終わってると思わないで欲しい。此処の果物を食べる事にすら多少の不安があるのに、此処の生きてる物の粘膜なんかに触れたりしたら気が触れてしまいそうだもの。私か弱い乙女だから。此処の男性が幾ら美形でも、得体の知れないもの(生物と共同する微生物を主に寄生虫等私に害悪になるもの)があるかもしれないのに無理だ。蟯虫がいるかも知れないと思うと、恋愛というものに現を抜かせないに決まっている。
忘れかけてた竿が、しなった。これは大物だ。前食べたマグロ的な魚かも知れない。私の楽しみは食べることのみ。享受出来そうな予感にそわそわしてきた。
ザバア
針の先の物体が露わになった。
轟っ嗚呼っ
私は釣り竿を燃やした。
今日は魚は無しだな。
不満に思いつつ、私は帰路に向かった。
「ねえ。釣って、焼いたなら、食べてよ」
何か聴こえた気がする。美しい声だったから、金糸雀(っぽい声の見た目カラス)の囀りかもしれない。味が妙に豚肉に似ていたので是非とも仕留めたい所だが、何故か急に布団にくるまりたくなったので諦める。何処へ行こうと布団は親友であり、強敵でもあるのだ。
「ねえ、食べて。ぼく、美味しいから」
しつこい。何時もなら逃げる金糸雀は、今日はやけにしつこい。私はリリアンヌ(布団の名前)の為に走る事にした。
家のドアを閉め、妙に良い匂いがする布団に飛び込む。至福の瞬間である。
「食べて…ねぇ…」
「ふおぉぉおぉお!?!?」
いきなりの低い美声に鳥肌が立った!!視界に入れないようにしたのに無駄だった!!せっかく誰もいない森に引きこもってたのに超無駄だった!!
いろいろとひたすらに白い男?が、私を凝視していた。
あ、こいつ魔界の宰相だ。
…攻略キャラの一匹じゃないか!!
魔王の双子の(HPMPチートの所謂倒せないキャラな)弟じゃないか!!
にこりと楽しそうな嬉しそうな表情で、彼はまた囀った。
「食べて」
嗚呼…そういえばこのキャラって、好きな人に(食材として)食べられる事に快感を得るゲーム中一番病んでいるキャラだとあの例の紙に書いてあったような…
「不味そうだから断る」
さぶいぼだらけの腕をさすりながら、私は魔法で奴を飛ばした。そして直ぐに広範囲に高度な結界を張り、場所を知られないように沢山転移をした。
これが私こと荻原凛子と、白い変態クオリの、初めての邂逅であった。
今ある連載小説はまだ整理したりないので、更新出来ない状態だったりします。結構書き直したりしていますが、納得の出来るものになっていないのです。
という理由で、お詫び代わりになればとこの小説を書きました。
設定は…荻原凛子は若い日本人でクオリは白い変態というのしか決めてません。
後は勢いでいきます。