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Engagement Ring  作者: 風花
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フリッツは力の限り走った。走って走って、村人を引きずってでも走った。

村の大きな広場に集まっていたリヒャルトの調査隊のところまで駆けた。

必死の形相で現れたフリッツに一同がどよめく、ただ事ではない雰囲気にリヒャルトが声をかけた。


「何があった?」

「ゼェー……せ、せん……くっが」

「イリスがどうした」


息の上がり酸欠状態になりながらも、フリッツは必死に言葉にした。

それにリヒャルトは耳をそばだてて聞きイリスに何かあった事を感じ取った。


言葉に出来ないからかフリッツは懸命に森の入り口を指差した。

さきほど部下からイリスが森の入り口に行ったと聞いていた。それはフリッツを伴って。


「……」


リヒャルトは森の入り口がある方角を静かに見つめた。

ぽつり、ぽつりと次第に雨が頬にあたり強くなってきている……。


「ここにいる部隊は村の警備にまわれ。オイゲン、私について来いイリスを探す」

「オッケイ……大丈夫だフリッツ。お前のせいじゃない」

「っ!ふっくっ……」


フリッツはその場に崩れ落ちて、ボロボロと涙を流した。

オイゲンは泣き崩れるフリッツの肩を叩いて、リヒャルトと共に森の入り口へと走った。

森の入り口へと行く二人を見守ることしか出来ないフリッツは、悔しさで地面を叩いた。


雨音は強くなっていく。入り口についた頃には土砂降りとなっていた。

地面は水を吸いふやけて足跡がくっきりとあった。イリスの足跡だと思われる跡は森に続いている。


「イリス……」


イリスとは別に多くの魔物の足跡がありオイゲンとリヒャルトは胸がざわつかせた。

嫌な予感を拭い去るように森を睨みつけ、足跡を辿って森の中へと入っていく……。



魔物を引きつれたイリスは森の奥へと来ていた。

幾度となく奇襲してくる魔物をかわして、村から全力で離れた。

騎士団のモットーは国民の安全を優先すること。元騎士団だろうがイリスもまた変わっていない。


「ふぅはぁ……っはぁ」


イリスは立ち止まった。これ以上離れても意味がない。

ウンディーネを二体も出している時点で、いつまでも逃げるわけにもいかない。

立ち止まったイリスを囲むように四体の魔物がじりじりと迫る。


召喚術士は自分自身では戦うことは出来ない。

それはイリスも同じで自分自身では戦えず、召喚した精霊を頼るしかない。

残りの魔力も少ない一気に決着をつけなければ……。


ぎりっと唇を噛んで、イリスは苦しげに呪文を唱えた。

すると新たに二体のウンディーネを呼び出し、それぞれに対峙するように攻撃させた。


「うぅ!!ぐっ」


がくっ足に力が入らずイリスは地面に膝をついた。

ウンディーネ達は中型の魔物と戦い、激闘を繰り広げている。

それを見つつ、消耗する魔力の残量を感じて笑いが込み上げてきた。


「は……はは」


並みの魔力しかもたない今の自分では満足に召喚も出来やしない。

後悔はしてないんだ。俺の魔力で人の命を助けられたんだ、これほど名誉なことはない。


ウンディーネ達は魔物を浄化しはじめた。

一体ずつ駆逐されていく魔物を擦れゆく目で見つつ、最後の魔物が浄化されるのを見た。


仕事を終えたウンディーネ達が心配そうにイリスを見ていた。

イリスは地面に力なくうつ伏せに倒れて、魔物の縄張りだって言うのに立ち上がれないでいた。

このままここに居れば新たな魔物に出くわして、今度こそ死んでしまう。


わかっているのに動けない。

魔法使いは魔力が底をつくと体が休息を欲しがり気を失う。

今がその状態で、まったく体が言う事をきかない……体内の魔力がなくなっていた。


召喚したウンディーネ達が次々と精霊界へと帰ってゆく。その顔は悲しげに歪んでいた。

そしてその場にイリスだけが残り、土砂降りの雨の中虚ろな瞳で森の景色を見ていた。


雨で体温が奪われていく。魔物に殺される前に死ぬかも知れない。

体に当たる土の冷たさに雨音しかしない森の中……ゆっくりとイリスは意識を手放した。



森の中をイリスの足跡を追った二人は次々と遭遇する魔物を退治していった。

狩が盛んになる時期なのか複数で群れをなし魔物が襲ってきた。


森の奥へときてはいるが、村は数分走っていける距離にある。

やはり魔法陣の影響で活発化し人里まで降りてきたのだろう。中型のはずの魔物が力を増している。


六本の剣を生み出し瞬殺していくリヒャルト。そして強力な攻撃魔法で戦うオイゲン。

二人は一掃すると注意深く見逃さないように地面を凝視した。

どしゃぶりで足跡も流れつつある、魔物のせいで時間がかかり足跡が薄い。


「こっちだリヒャルト。足跡がある」

「あぁ」


消えつつある足跡を二人は必死に辿ったが……ついにそれが途絶えた。

周囲を隈なく探すが、雨で流れてしまったのか見つからない。

苛立つようにオイゲンは近くの木を蹴りあげた。リヒャルトも同じように唸った。


「イリスどこだっどこにいる!?」

『こっち……』

「「!?」」


途方に暮れる二人の耳に、雨音で消え入りそうな小さな声が聞こえてきた。

二人はお互いを見合って首を振った。


「何もいってない」

「私もだ」

『……こっち』


今度こそはっきりと呼ぶ書ける声が聞こえた。

警戒を強くして周囲を探るようにすると、森の奥の方から声が聞こえてくる。


『こっち……はやく』

「リヒャルト罠だと思うか」

「……わからないが、嫌な気配ではないようだ」

『こっち、はやく』


焦れるように声の主は訴えてくる。

二人は迷った末に声に導かれるままに進むことにした。

無闇に探すより、何処かへと案内しようとする声に希望を託した。


『ちがう、こっち』

「どこまで行くんだ……」

「さぁねぇ~これでレディに会えなかったら殺す」


間違った方向へ行こうとすると、きちんと言ってくる。

明らかに何処かに案内しようとしている声に黙ってついていった。

雨は激しく降り続いていて土をドロドロにして行く。もう足跡は残っていないだろう。


『このさき、いる』

「はぁ?なんなのさ何がいるって??」

『はやく、はやく』

「……行くぞ。オイゲン」


抑揚のない声に導かれて言われるがままに駆け出した。

半信半疑のオイゲンはやる気なさそうにリヒャルトの後について行った。

バシャバシャと足音を立てて走ると、目の前にいるリヒャルトが急に立ち止まった。


「どうしたんだ」

「……っ!」

「何だよなにみて……れ……れでぃ?」


少し開けた場所に出た二人の目の前に、地面にうつ伏せで倒れるイリスがいた。

雨に長い時間打たれていたのか全身を濡らし、服から除く素肌が青白く血の気を失っていた。


「そんな……」

「イリスっ」


二人は急いでイリスの元に向かった。

リヒャルトがずぶ濡れになって倒れていたイリスを抱き起こした。

イリスの体は冷え切り、ピクリとも動かない。ぐったりと腕の中でただ浅い呼吸を繰り返した。


「イリスっ起きるんだイリスっ!」

「駄目だ……リヒャルト戻るぞっ」


呼びかけに答えないばかりか、イリスの呼吸が弱弱しい。

抱き起こした体がだんだんと体温がなくなっていく、二人は急いで村へと走った。

帰りの道も、謎の声に導かれて最短で村に帰ることができた。


二人とも同じように雨に打たれたが、気にも留めずにイリスを介抱した。

団員の守護魔法使いを呼び寄せてイリスの治療をさせ、着ている服を脱がせた。

体を温めるためにオイゲンにお湯を沸かせ、その中に服も脱がずにリヒャルトが一緒に入った。


「イリス……」


守護魔法により体力を回復させて、全身をゆっくりと暖めた。

そうすると守護魔法の効果もあってイリスの頬に赤みが差し、体が温かくなった。

火照るイリスの体に泣き出しそうな顔をしてリヒャルトはイリスを抱きしめた。


体を丁寧に拭き、湯冷めしないように部屋に暖房を入れた。

皆が見守って眠り続けるイリスの傍にリヒャルトは目覚めてくれるのを待った。



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