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Engagement Ring  作者: 風花
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村長の家を二人で訪ね、お茶を頂きながら村長から村の伝承を聞く事になった。


「この村には昔から伝説がありまして、森の奥にある聖なる泉が元になっていると聞いています」

「泉か。龍脈の事は知っていたのか?」

「いえ……ですが、伝説によると大いなる力により森は繁栄を極めたとされております。

 私どもは代々その話を信じ、毎年泉を祭る行事を行っております」


その時の祭りの写真を見せながら村長は喉を潤すためにお茶を一口含んだ。

リヒャルトとイリスは出された写真を見て、そこに写る美しい泉に感嘆の溜息を吐いた。

イリスは今の泉の様子はどうなのかと村長に尋ねた。


「それで泉の様子に変わったことは?」

「……それが泉には近づけないのです」

「どういうことだ」


リヒャルトは俯いた村長に聞いた。がっくりと肩を落としながら話し始めた。


「ここ数日の事なんですが、村人が森の奥で大きな魔物を見たというのです」

「……それで」

「はい。被害は今のところないのですが、泉に住み着いているらしく近づけません。

 今、泉の様子もみれなく大型の魔物と言う事で私どもでは手立てがありません」

「なるほど……困ったことになったな。魔法陣の解除と小型の魔物としか聞いていなかった。

 大型の魔物がいるとすると準備が足りないが……魔法陣の事もある……」


リヒャルトは考え込んだ。

大型の魔物は気性も荒く凶暴だ。いつ村を襲ってくるかもわからない。

精鋭を連れてきてはいるがまだ不慣れな者も多く、大型の魔物と対峙したことがある人物も少ない。

私やオイゲン、そしてイリスくらいだろう。他の者はせいぜい中型の魔物ぐらいだろう……。

魔法陣は少しだけ効力を弱らせているだけの状態で、時間が過ぎれば効力を取り戻す。

さて、どうしたものか……国に指示を仰ぐか、それとも泉の調査を優先するべきか。


答えが出ないのか気難しそうな顔をしてリヒャルトは黙り込んでいる。

それを不安そうに村長は見てそわそわとしている。

イリスはリヒャルトの様子を見て、少し考えてからある提案をした。


「まだ情報が足りなさ過ぎると思います。

 大型の魔物に関しても村人の目撃談だけですし、まずは森を調査するのが得策かと」

「……だが居たとしたらどうする。魔物の力量もわからずに調査をするのは危険だ」

「例の魔法陣の場所も森の奥にありましたが魔物に出くわしませんでした。

 縄張りから外れている可能性が高いですし、俺は龍脈が見えるので源の方角ぐらい特定できます」


リヒャルトを見上げながら、自身が出来ることを言った。

すると神妙な顔をしてリヒャルト考えて、一つ大きく頷いた。


「わかった。森の調査はイリスに一任しよう」

「はい」

「村長。第一騎士団の半数以上を村の警備に当たらせるが問題ないか」

「ありませんとも。よろしくお願い致します」

「承知した」


それから警備について村長と話し合い、日が沈みかけた時に村長の家を離れた。

宿に帰りガヤガヤと五月蝿い食堂で夕食を済ませるとイリスはどっと疲れたようにベットに寝転んだ。


タフなリヒャルトは明日の警備について部下に話すべく部屋にはいない。

すごいなと感心しつつ、落ちてしまった体力に嘆いた。昔はもっと体力があったのに。

ベットに寝転んでいると眠気も襲ってくる……イリスは逆らえずそのまま寝入ってしまった。


イリスが眠っている頃、指示を出し終えたリヒャルトが部屋に帰ろうと廊下を歩いていた。

時刻は真夜中になっており明日の朝も早いと真っ直ぐに廊下を進んでいた。


「リヒャルト」

「……ミーティアか」


後ろから艶を含んでミーティアに呼び止められた。

かつての恋人。いやもしかしたら今でもそれは変わっていないのかもしれない。


平民であったミーティアと結婚をしようとしたところ、家により関係を絶たれた。

そして強制的に体裁を気にしてイリスと婚姻を結んで一年と少し……。

彼女に会うこともなく別れ、いつのまにか彼女は首都からいなくなっていた。


ミーティアはそっと寄り添うようにリヒャルトの体に触れた。

熱い女性特有の肢体を押し付けて、潤んだ目で見上げてくる。

艶やかな唇から、話がしたいと促され拒むことはせずミーティアの部屋を訪れた。


「彼があなたの妻だなんて……」

「イリスの事か」

「やめて、貴方の口からあの人の名前なんて聞きなくない。

 逢いたかったのよずっと、ずっとっ……私からは会えなくてっリヒャルトッ!」


ミーティアはベットに腰掛けるリヒャルトに抱きついた。

感情が高ぶっているのかうれし涙を零しつつ厚い胸板に顔を押し付けた。


「ミーティア、駄目だ」

「なぜ?私たちは愛し合っていたじゃない……今だってそうでしょう?」

「だが……」

「彼を愛しているの?そうは見えない。

 それとも知ってしまったの……?だから彼と結婚したの!?」

「何を、言ってるんだ?」


抱き返してくれないリヒャルトに焦れたミーティアはうろたえた。

そして失言をしたことに気づいて、ハッと口を閉じて頭を振った。

一度、軽く呼吸を整えてミーティアは熱く潤んだ瞳でリヒャルトを抱きしめた。


「……私を愛しているなら一緒にいて」

「っミーティア……」


両手を細く小さな手が頬を挟み、美しい顔がだんだんと近づいてくる。

あの日の出来事からミーティアと出会い、会ううちに恋慕を抱だいた人だった。

数年前の某日、暴雨の中で道を踏み外し怪我を負って倒れた私を見つけ介抱してくれた彼女。

その優しさと暖かさに触れて、言葉を交わしていき恋人になって……離れ離れになった。


ランプの光だけに照らされた部屋で、二人の影が重なってゆく。

部屋から見える空は雨雲のような灰色の雲が覆っていて、外を一層暗く染めている。


あの日は本当に酷い雨だった。視界が効かない夜の道を歩いていた。

そして足を踏み外して……私を呼ぶ必死な声にぼんやりと目を開けたのだった……。

暗く冷たい雨が降りしきる中、私は青空を見た。美しい青い晴天を。



次の日の朝。

イリスはいつもどおり、一人で起きた。相変わらずリヒャルトはいないらしい。

身支度を整えて食堂に赴くと、いつものようにオイゲンとフリッツがイリスの横を陣取った。


「おはようレディ」

「おはようございます先生」


ちょっと寝すぎて頭の痛いイリスは、小さな声で挨拶を交わした。

そして何となくまたリヒャルトの姿を探すと食堂にはいないようで首を傾げた。


「オイゲン様リヒャルトは?」

「あん?リヒャルトぉ~……さっきまでいたんだけどな」

「ならいいんです。頂きます」


朝食をとってるようなら気にする事もないとイリスは朝食を食べ始めた。

食べ終わると、今日の森の調査に使う道具を小さなカバンに入れてベルトにつけた。

一応、武装して宿から出て出発の時間まで、森の入り口まで行くことにした。


「先生!どこに行くんですか?」

「少し森の様子を見たくて、入り口に行こうと思うんだ」

「でも大型の魔物が徘徊してるんですよね?」

「心配しなくても森には入らないさ。ただ様子を見るだけだし何なら一緒に来るか?」

「いいんですか?」

「森の入り口は村のすぐそこだ。人里近くに魔物も降りてこないさ」


フリッツは嬉しそうにイリスの後について行った。

森の入り口は目と鼻の先で、イリスの言うとおり近い所にあった。


「イリス様?」

「あっお勤めご苦労様です。森の入り口に行くところなんです」

「そうでしたか。わかっているとは思いますが、森の中は危険ですので……」

「心配しないでください。森の中には入りませんから」


途中で村を警備する騎士団に会い、忠告されると笑顔でイリスは頷いた。

騎士はわかりましたと言って気をつけてと一言付け加えた。

イリスたちが森の入り口へと足を進めると、警備を再開した騎士があっと声を出した。


「しまった交代の時間を過ぎてる」


交代の時間を勘違いしていた騎士は、急いで部隊に戻っていってしまった。

森の入り口付近には偶然にも人はいなくなった。空は相変わらず雨雲が覆っている。

出発を渋る原因の一つが天候もあり今にも降り出しそうな気配が漂っていた。


森の入り口に到着したイリスたちは、生い茂る木々に目を向けた。

天気が悪いせいか森は暗く湿っているようだ。森も微かにざわめいているような気がする。


「今日は止めておいた方がいいかもしれないな」

「俺もそう思います。森の中は暗いですし魔物が活発になるんでしたよね?」

「そうだね……負の気も心なしか強いようだし」


正の気が強いイリスは森から漂う負の気配を敏感に感じ取った。

森の様子を見に来て良かったと思った。やはり天気がいい日を狙った方が良さそうだ。

そしてぽつ、ぽつと地面に水滴が落ち始めた、イリスとフリッツは顔を見合わせた。


「降ってきた」

「この様子だと中止になる。帰ろうフリッツ」


本降りになる前にと森に背を向けたときだった。

イリスは何者かの気配を感じ、咄嗟にフリッツの手を掴んで横にそれた。

二人が居た場所に複数の大きな狼の姿をした中型の魔物が二体、躍り出ていた。


「まっ魔物!?」


フリッツは驚いたように目を見張った。

そんな声に耳を傾けずイリスは、森の入り口付近で様子を伺っている三体の魔物に気づいた。

目の前にいる二体の魔物と同じ種類だろう。まさか人里まで降りてくるとは思わなかった。


イリスは魔物たちに睨みを利かせつつ、フリッツを後ろに隠した。

そして素早く召喚術を唱え水の精霊ウンディーネを呼び出して魔物を威嚇した。


「先生、戦えますっ」

「……経験は?」

「あります」

「魔法剣を出せ。召喚術は使うな」


素直にフリッツは頷き、手に魔力を溜めて炎の剣を生み出した。

それを三本作り上げて二つは空中に浮かび、もう一つは利き手に持った。


学生の身でありながら剣を三つも出せる者は少ない。

フリッツの才能は本物で、イリスと同じように戦闘態勢になった。


イリスとフリッツは呼吸を合わせるように見合い、フリッツが二体の魔物目掛けて飛び出した。

瞬時に切りつけるが相手も素早く退けて反撃してくる。それを上手くかわしてまた近づいた。

地を蹴りフリッツは二体の中型の魔物と互角以上に渡り合っていた。


「やっぱりそっちの方が似合ってる」


魔法剣で戦うフリッツの姿にイリスは呟いた。

森の入り口に隠れる三体をウンディーネで押えつつ、もう一人ウンディーネを呼び寄せた。

呼び寄せたウンディーネをフリッツのサポートに回して身を守った。


二体のウンディーネを扱うにはイリスの魔力はすぐに底をつく。

ごりごりと減る体内の魔力の残量を考えつつ、フリッツが一体を浄化していたので間に合うと思った。

フリッツも一体目を撃退したことにより自信が上り、残った魔物とさっき以上の実力で捻じ伏せていった。

けれど、魔物の方が一枚上だった。

突進してくるフリッツをかわすと、騒動に気づいた村の住人目掛けて走っていった。


「しまったっ!」


フリッツは急いでかけて村人の前に躍り出たが防御が間に合わない。

鋭い爪がフリッツに襲い掛かろうとしていた時、水の精霊ウンディーネが立ちはだかった。

ウンディーネは魔法で障壁を作り二人を守りつつ魔物を退かせた。


「フリッツっ無事か!?」

「は、はい先生っ村人も無事です」

「そうか……っ」


くっとイリスは苦しげに胸を押えた。魔力が予想以上に減っている。


「せ、先生」

「大丈夫だ……それよりフリッツは村人を連れてリヒャルトの所に行くんだ」

「そんなっ俺はまだまだ戦えますよっ」

「いいからっフリッツお前は村人を庇いながらなんて戦えないっ。

 このまま戦えば俺たちのどちらか死ぬっだから行けっ俺を死なせたくないなら行け!」

「っっ!!」


強い口調で命令するイリスに、悔しそうにフリッツは顔を歪めた。

そしてすぐに村人の手を握って走り出した。離れるフリッツを狙ってくる魔物を阻止して逃がした。


「ハァ……ハァ……」


追えなくなるまで妨害すると、矛先はイリスへと移っていく。

魔力はウンディーネを出してる限り消耗する。フリッツが帰ってくるまで持つはずがない。

もはや肩で息をしている。魔物にもわかるんだろうイリスが弱っていることに。


ゆったりとした動きで四対の魔物はイリスを伺う。

ちらちらとイリスの後ろにある民家を見ているところを見ると襲うつもりなのだろう。


「これでも騎士団に居たんだ。舐めるなよ」


イリスは走り出した。魔物にではなく森の中へと。

魔物たちは一斉にイリスを追いかけた。森の中は彼等の縄張りだった。

飛んでい火にいる夏の虫。得物を確実にし止める為、イリスの後をついていった。


ぽつり、ぽつりと雨は降り出し、ザァーッと音を変えた。

雨が降りしきり土を湿らせていく……森の中は暗く、あの日のように土砂降りになっていた。



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