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Engagement Ring  作者: 風花
2/9



「イリス」

「え?」


オイゲンのおふさげの後、学園の仕事を終わらせたイリスは自宅でリヒャルトに呼び止められた。

思わず呼びかけられた声に疑問の声を出すとリヒャルトは怪訝そうな顔をした。


「私に呼びかけられるのがそんなに不快か」

「いやそんなことは……何かあったのか?」


少し怒りも滲んでいてイリスは居たたまれなく、目線を外して問いかけた。

あの端正な顔が歪むとかなり怖い。黒目黒髪だから何だか夜の帝王のような雰囲気で何だか苦手だ。


「……オイゲンが尋ねただろう」

「あぁ夕方に」

「魔法陣の見解を見せてもらった。そこで国から要請が出た。

 五日後、第一騎士団を派遣し魔法陣の解除に向かう……イリスお前も同行する事になった」

「俺が?どうして」

「あの魔法陣を解読したのはお前だ。不足の事態を想定しての事」

「そっか……わかった」


随分久しぶりの魔物討伐に行くって事だろう。

昔は第六騎士団に所属してたからなぁその関係もあって同行することになったんだろう。

騎士団を離れた数年は経ってるから、体力に自信ないな……。


地方遠征になるから、体力持つかなと考えていた。

そうしたらすっと大きなリヒャルトの手がイリスの顎を持ち上げた。


「リヒャルト?」

「……」


呼びかけには答えず、ただイリスの首筋をじっと見ていた。

状況が理解できないイリスは疑問符をただ浮かべるだけで見上げていた。


しばらくして、ようやく顎から手が離れて何も言わずにリヒャルトは去っていった。

置いてかれたイリスはリヒャルトの後姿を見て首を傾げるだけとなった。


「何だったんだ?」


見られた首筋を摩ったが気になるようなものはない。

ますますわからなくてイリスは首を捻った。



五日後……出発の朝、城に上がり第一騎士団の屯所へイリスは赴いた。

着替えや道具を預けて出発を待っていると、どんっと背中から誰かに抱きつかれた。

驚いて振り向くと、やたらと背の高い魔法学園の制服を着た男子生徒がいた。


「フリッツ!?なんでお前がここにるんだ」

「先生についてく」

「は?まてこれは野外学習じゃないんだぞ」

「許可は貰った。先生の助手として行く」

「えっ……聞いてない」


大きな体で抱きつかれながら困惑していると、べりっと剥がされた。

首根っこを掴まれて剥がされ、それをした人物に非難の目線を送った。


「酷いなレディそんな目で見ないでっ」

「オイゲン様五日前の事、俺は許してませんよ」

「また敬語……まぁいいけど。つか何このガキ」

「ガキじゃないです俺の科目の生徒です。名前はフリッツ・ブラント・ギーナ。

 二等貴族です。専攻は召喚術ではありますが魔法剣士としての素質があります」

「聞いてないし……」


フリッツから何故か守るように立ちふさがっている。

わけがわからないとオイゲンの前に出て、引き剥がされるときに投げ捨てられたフリッツを起こした。

服に付いた土を払ってやり、あれた髪型を整えてやるとオイゲンに挨拶をと促した。


「……嫌です」

「オイゲン様は一等貴族ですよ。それにこれからお世話になるのだから。

 先生を困らせないでくれ。フリッツはいつもいい子じゃないか」

「うぅ……先生の助手として同行する事になったフリッツです。よろしくお願いします」


物凄く不服そうに大きな体でペコリとお辞儀をした。

オイゲンはフリッツの態度が気に入らないのかピクピクといつもの笑い顔が引きつっていた。

けれど腹を立てるのも大人気ないと思ったのか、いつものへらへら顔で挨拶を受け取った。


「はいよろしく。レディもうすぐ出発だから馬車に乗りな」

「わかりました……あ、フリッツも同乗してもいいですか」

「……何で?」

「彼の保護責任は俺にあるようなので」

「……団長に聞いて」

「そうします。フリッツ、今からリヒャルト様にお会いするからきちんと挨拶をするんだぞ」


イリスは軽くオイゲンに会釈するとフリッツを連れてリヒャルトの所へ向かった。

リヒャルトは着飾った馬の横に立ち部下に指示を出していた。

近づくと部下がイリスに気がついてリヒャルトに声をかけていた。


「お忙しいところすみません。少しいいですか」

「あぁ構わない」

「すみません。まずは後ろにいる生徒ですが、私の助手として同行する事になりました」

「そうか。名はなんと言う?」

「お初にお目にかかります。二等貴族フリッツ・ブラント・ギーナです。

 今回イリス先生の助手として同行します。若輩者ですがよろしくお願いします」


オイゲンとの挨拶とは打って変わってフリッツはきちんとした態度で挨拶をした。

流石にリヒャルトには下手な態度を取るつもりはないらしい……オイゲンも一等貴族なのになぁ。

フリッツが顔を上げたところでイリスは口を開いた。


「それで彼の保護責任もあるので、馬車を一緒にしたいと思うのですが」

「わかった。一緒に乗るといい、用はそれだけか?」

「はい」

「ならばすぐ馬車に乗り込め、出発はすぐだ」

「はい。では失礼致しました」


フリッツと一緒に頭を軽く下げて少し離れると、また背中から抱きつかれた。

ぎゅうっと強めに抱きついてくるものだからよほど緊張してたんだろう。


「大丈夫。粗相はなかった」

「……」


前にある腕をポンポン叩くが、余計に力がこもり身動きが出来ない。

どうしたんだと肩に埋まるフリッツを見ながら優しく問いかけた。


「ん?どうした」

「あれ先生の夫?」

「あぁそうだよ。俺には勿体無い人だ」

「……先生。好き?」


落ち込んだような声でフリッツは弱弱しく呟いた。

弱る生徒をほっとけるわけもなく、わしゃわしゃと頭を撫でた。


「んー?俺はフリッツも好きだよ。

 だからそろそろ魔法剣士の科目に移ってくれないかなぁっても思ってる」

「先生ぇ……」


ぱっとフリッツは体の力を抜けたので、するっとイリスは抜け出した。

あっとした顔をするフリッツの頭をまた撫でてやり、クスクスと笑った。


「慕ってくれるのは嬉しいけど才能を潰すのはどうかと思うぞ」

「……」

「魔法剣士を専攻したほうがいい。きっと強くなる。

 将来は第一騎士団に所属するのも夢じゃないさ、な?今回の遠征の時間を使って考えてみてくれ」

「……はい」


ポンポンと肩を叩いてやり、真剣に頷いてくれたフリッツに笑いかけた。

何で言っても頷いてくれなかったのに、何か心変わりすることがあったのかな……?

気落ちしているフリッツを連れて、馬車に乗り込むとトントンと扉を叩かれた。


「オイゲン様?」

「さっきの目立ってたよ」

「え?」

「……いつもあんな感じなの?学校でも?」

「あぁこの子は抱きつき癖があって、いつもあんな感じです」

「へぇーふーん癖ねぇーほぉー?」


オイゲンはジロジロと突き刺さるようにフリッツを見ながら言った。

するとフリッツは何故かふっと鼻で笑い。むしろ挑発的な顔をした。こいつら何やってるんだ。


「生意気なガキだな。レディ気をつけろよ男は狼だ」

「俺も男ですけど」

「あぁもう心配だなぁ……まぁレディはクソ真面目だから大丈夫だと思うけど」

「??はぁ……」


苦虫を噛んだような顔をするオイゲンに曖昧な返事で返すと溜息をつかれた。

全く持って意味がわかりません。どうして溜息をつかれてるんだ。


やれやれと首を振られて、オイゲンを呼ぶ声がすると念を押すように言ってきた。


「無防備に抱きつかれてんじゃねぇよっ」

「えぇっ!?」

「あれっリヒャルトも見てたぞ。じゃぁ俺いくから」

「……見てたから何?」


最後まで理解していないイリスに呆れつつオイゲンは持ち場に帰った。

少しすると馬車は動き出し、首都を出て行く……遠征の始まりだ気を引き締めないとな。

移り行く景色を眺めつつリヒャルト率いる第一騎士団一行は地方を目指した。


半日かかりでの移動なり、目的地に付いた頃は夕方になっていた。

カタンッカタンッと揺られつつ、森がすぐ横にある田舎町にやってきた。

馬車がゆっくりと止まると、自分に寄りかかるフリッツの体を揺らした。


「フリッツ。着いたぞ起きなさい」

「んー……」


余りにも退屈だったのかフリッツは寝てしまい、起きようとしない。

大きな体がさらに寝ているからか体重がかかって重い……イリスは動けないでいた。


「フリッツっ起きてくれっ」

「んーせんせ……イリスせんせ?」

「お?起きたか。着いたぞ、シャキッとしろ」


まだ眠いのか目を擦りつつ寝ぼけたているように舌ったらずになってる。

イリスは笑いながらフリッツの背中を叩くが、じっと顔を見つめられた。


「フリッツ?」

「……」


じぃっと見つめられて居たたまれない。ぐっとフリッツの体を押すがビクともしない。

フリッツは何を思ったのか顔を近づけてくるのでとっさに横に向いた。

するとぷちゅっと耳に唇の感触と吐息が掛かって、大げさに体が跳ねた。


「ぁっ」

「っ……顔赤い」

「やめっフリッツ寝ぼけるのもいい加減にしろっ!」

「いてっ」


フリッツが耳を舐め始めたのでイリスは渾身の力で頭を殴った。

するとフリッツは離れて頭を抱えて唸った。うっすらと目に涙がたまっている。


「起きたかフリッツ。まったく俺を彼女と間違えるんなんて」

「……ち、ちが」

「もういいから出ろっ」


ほらほらと馬車から強制的に出て行かせて、赤い顔を冷やすように手で扇いだ。

馬車からでると妙な顔したリヒャルトとオイゲンがイリスを見ていた。


「あ、すみません出るのが遅くなって」

「「……」」


じっと未だに少し顔の赤いイリスを二人は見ていた。

そして何も言わずにリヒャルトはイリスの手を掴み、宿屋へと向かった。


「えっり、リヒャルト」

「遅い」

「ご、ごめんさない。でもあのっ手を」

「あの男は良くて私では嫌なのか」

「え?え?」


ぐっと力強く手を握られて、何が何だかわからなくて後ろに付いて来る二人を振り返った。

すると面白くなさそうな顔をしている二人の顔があって、ますます意味がわからん。

第一騎士団の人たちからも奇異の目で見られて、ずるずるとそのまま宿屋に入った。


リヒャルトの部下たちは宿屋に入っていて、ようやく四人は宿屋入りをした。


宿の受付に手を繋いだままリヒャルトは手続きをしようとした。

だが宿の奥からきた女性を見たリヒャルトは咄嗟に手を離した。


「ミーティア……」

「っリヒャルト!?まさかあの騎士団は貴方の部隊なの?」

「あ、あぁ久しいな……元気そうだ」


女性はとても美しくて眩しいくらいの美貌の持ち主だった。

すごい美人だなとイリスは考えてふとリヒャルトの顔を見ると目元が優しく細められていた。

そんな顔を見たことがなかったイリスは驚いて、思わず凝視した。


「えっと私いまここで宿を営んでいるの」

「そうか……」

「ふふ本当に奇跡みたいまた会えるなんて……あ、部屋に案内しないとね。

 団長のリヒャルト様は一人部屋で後ろの方たちは三人部屋でいいかしら?」


間取りが描かれた紙と鍵を出して微笑みかける。

しかしリヒャルトはらしくなく目線を外して、いやっと呟いた。


「あら、他の組み合わせの方がいいのですね」

「……二人部屋だ」

「誰と誰がペアになりますか?」

「俺と……」

「え?」


リヒャルトは隣に立つイリスを見た。

それにミーティアは酷く驚いてイリスを見つめた。

何故か話しの矛先が代わり二人に凝視されるものだがすごく緊張した。


「あのリヒャルトの妻イリスです」

「……妻ですか」

「はい。そうなんです見えないと思いますけど」


ミーティアはイリスとリヒャルトの顔を交互に見て俯いた。

手を見てみると握り締めていて震えていた。それにイリスは目を張ると目線があった。

先ほどの社交的な視線じゃない、燃えるようなギラギラとした感情が見える瞳をしていた。


「え?あの……」

「すみません。そうでしたかご夫婦ですものね部屋は同じにしますね」

「……ミーティア」

「お気になさらないでリヒャルト様。係りに部屋を案内させますわ」


案内係を呼ぶとミーティアはぎこちなくお辞儀をして下がってしまった。

隣のリヒャルトの横顔を盗み見ると追いかけるようにミーティアを見ていた。

何だか居たたまれない。それに心臓が痛くて……疲れたな。


係り者が来るとイリスはさっさと部屋へと赴いた。

リヒャルトの方はまだ仕事があるのか宿の外へと出て行った……。



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