父と息子
「ふ〜、今回は長旅だったな。」
1人の男が里に入ってきた。里の者にしか通れない結界をどうやって入ってきたかは、答えは1つしかない。
彼はこの里の者だからだ。黒髪に赤眼、その背には身の丈ほどもある大太刀。そして、その素性は
「―――ん?おお、長!」
里の1人が帰ってきた存在に気付くと、他の者たちもその方に視線を向ける。
「ガイル様、おかえりなさい!」
ガイル
「おう、戻ったぜ。」
「今回の遠征はどうだったので?」
ガイル
「ああ、今までよりもなかなか手ごたえがあったぜ。」
質問をしてくる者に一人一人答える彼の名はガイル。素性は前述の通り、一族の長である。
彼は先程まで外の世界で別の一族の問題を解決させてきたのであった。
狼である彼がこんなことをするのは疑問があるが、ガイルは気さくな人柄でその上、他人の問題を放っておけないという一族の変わり種だからである。
ガイルは道なりに里の中を進み、やがて長が住むのにふさわしい大きな屋敷が見えてきた。見た目は日本の寺のようである。
ギイィ・・・
ガイル
「帰ったぜ〜・・・」
どんっ!「うおっ!?」
屋敷の戸を開けた途端、いきなり何かがぶつかってきた。それは7歳ぐらいの少年だった。
ぶつかってきた少年は仰向けにひっくり返っている。
ガイル
「おいおい、大丈夫か?」
「・・・・・・」
ガイルが声をかけるが、少年は仰向けになったまま動かない。
顔がよく見えないので彼は自分の顔を近付ける。すると
がばっ ゴゴンッ!! 「でっ!?」
不意に相手が起き上がり、お互いの額が勢いよく当たった。
やった本人は額をさすりながらニヤニヤ笑っている。顔はガイルにそっくりだが、銀髪で金眼。
そう、この少年はガイルの息子で幼い時のロイである。この頃のロイはかなりやんちゃな子供であった。
ガイル
「こいつ〜・・・よくもやりやがったな・・・。」
額をさすりながら息子を睨みつける。息子はと言うと気にせずニヤニヤと笑っている。そして
「待てやコラぁ!!!ただじゃおかねぇぞ!!!」
「へっへっへー。」
父と息子の鬼ごっこが始まった。2人がその場を走り去った後で
「おーおー、今日も盛り上がっとるのう。」
2人を和やかな目で見る老人。この老人は2人の世話役で、名をゲンライという。
彼はロイが物心ついたときからこんなやりとりを見ているので特に気にしてないのである。
ガイル
「くそ~あのガキどこ行きやがった・・・。」
逃げた息子を追ってガイルはキョロキョロ周りを見渡す。気配を探ろうにもロイは気配を殺すのが上手く、一族の長でも見つけるのは一苦労である。
ガイル
「全く、何だってアイツはああもイタズラ小僧なんだ。俺がガキの頃はもう少し大人しかったのに・・・」
などとぼやきながら歩いていると
バッシャ―――ン!!
突然天井から大量の水が降ってきた。濡れた髪をかき上げて上を見ると
ロイ
「ひっひっひ~~。」
天井裏で桶を携え、意地悪な笑みを浮かべる息子が。それを見た父親は
ガイル
「お~~ま~~え~~・・・・・・」グゴゴゴゴ・・・
目が影に覆われ、背後からは怒りの炎のようなものが見えそうである。しかし、そんな様子の父親を見ても息子は全く動じてない。それどころかまだニヤニヤしている。そして
「よっと」 とんっ 「!!」
ロイは父親の顔を踏みつけ、そのまま下に飛び降りた。
その行為でとうとうガイルの頭の中でブチっという音がした。
「もう許さん!!!覚悟しろクソガキ!!!!」 ドカアァァン!!!
「!!!」 ビクッ!!
怒りが爆発したガイルを見たロイは流石にヤバいという表情になり、一目散に逃げ出した。
しかし、当然そのまま逃がしておくガイルではなくすぐさま息子を追いかけ始めた。
「今日という今日は許さん!!!絶対にシバいてやる!!!」
「ギャ――――!!!」
大の大人が子ども相手にそんな大人げない言葉を言ってもいいのか疑問があるが、2人はその後しばらく館の隅々まで走り回ることになる。
♢♦ ♢♦約1時間後♢♦ ♢♦
「待てクソ坊主――!!!」
「ギャ―――!!!」
ゲンライ
「やれやれ、よく飽きないでやっとるのう。」ズズ・・・
ゲンライは自室でお茶を飲みながら2人の鬼ごっこを静観している。2人はさっきからこの部屋を行ったり来たりしているのでいつ自分にとばっちりが飛んで来てもおかしくないのだが。
そして「ふぅ」と一息ついて湯呑を床に置いた瞬間
ガチャン
何かが割れるような音が。その音を聞いた2人はピタっと走り回るのを止め、音のした方へ顔を向けた。
するとそこには壁のそばで真っ二つになった湯呑が・・・。
「「・・・・・・」」
2人は顔を見合わせ、冷や汗がたらたらと垂れ始めた。そしてその場をそ~っと去ろうとした。
が、
「おっと何処へ行こうというのかな、小童共・・・。」ゴゴゴゴ・・・
「「!!!」」ギクッ!!
――――――――――――――――――――――
「「すいませんでした」」
ゲンライ
「これに懲りたら、ハデに暴れないことじゃ。」
2人の頭にはコブが1つずつ出来ている。あの後ゲンライのゲンコツを喰らい、3時間ぐらい説教されたのだ。あの湯呑は別に珍しい物という訳ではないのだが、ゲンライが気に入っていた物だったので2人は弁償することになった。
ガイルとロイのやりとりはこんな派手なものではあるが、決して親子関係が悪いという訳ではないというのは言うまでもない。
しかし、月日が経つにつれこのような父子のやりとりは見られなくなっていった。