表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

掌編置き場

掌編【普通】

作者: 冬木香
掲載日:2026/04/25






 僕は白い廊下を歩いている。一本道の廊下の先には両開きの扉が立っているのが見える。この廊下はあまり長くはないはずなのに、その扉はなぜかとても、とても遠く感じた。いつまでも辿り着かないような、そんな錯覚を起こしてしまいそうになる。

 これは普通じゃない。時間の流れすらも、とても遅く感じる。

 一歩、歩くたびに何故か過去の記憶がよみがえる。

 きっと僕は普通じゃない。


 一歩。僕は友達と遊ぶために靴を履いて家を飛び出す。玄関ではお袋が心配そうに手を振っている。それに僕は虫取り網を持つ手とは逆の手を振り返す。

 僕は普通の小学生だった。


 一歩。初めておしゃれな美容院に髪を切りに行った。次の日に、学校で冷やかされて友達と喧嘩をした。けれど結局すぐに仲直りをして笑いあう。

 僕は普通の中学生だった。


 一歩。バイト先で彼女ができた。毎週日曜日にはデートをして食事代はいつも僕が払う。見栄を張らなくてもいいのに、と彼女は笑っていた。

 僕は普通の高校生だった。


 一歩。居酒屋で酒を飲みながら、彼女に振られたと泣いて友達になぐさめられた。悲しみを紛らわすために酒を飲み続けた。結局飲み過ぎて、次の日は学校を休んで家で寝て過ごした。

 僕は普通の大学生だった。


 一歩。平日は働いて、休日に子供と遊ぶのが一番の楽しみだった。世界で一番かわいい嫁と子供と過ごす日々はとても幸せだった。それだけでつらい仕事もずっと頑張れた。

 僕は普通のサラリーマンだった。


 一歩。黒い礼服に身を包み、涙を流していた。目の前には愛する嫁と子供の写真が置かれている。耐え難い悲しみに打ちひしがれていた。

 僕は普通の……。


 一歩。もう何も記憶はよみがえらない。あと一歩の距離まで扉は迫っていた。僕はすでに気づいていた。

 僕はずっと普通だった。


 一歩。扉に辿り着く。


 僕は普通の死刑囚だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ