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六月の花嫁

八百万の神々がいる国、日本。

山、川、木、岩、鏡、刀

神が宿っていない物を探す方が難しい国、日本。

そんな国に人々に知られていない神様がいても不思議はありませんよね?


一月。二月。三月はその昔、睦月。如月。弥生と呼ばれていました。

人の名前みたいだなと思ったことはありませんか?

それもその筈。これらは神様の名前なのですから。

これはそんな神様達の誰も知らないお仕事の話。



「あー。働きたくない」

人と変わらぬ姿で人と変わらぬ愚痴を溢しているのは水無月。六月の神様だ。

中肉中背。美形という訳でもないが、醜形でもない。至って平凡な容姿をしている。

「愚痴ってる暇あったらさっさと手を動かせ。

一ヶ月なんてあっという間に終わるぞ」

小柄で可愛らしい、子どものような姿をしている如月。

二月の神様が呆れながら苦言を呈した。

「嫌だ!!もう働きたくない!!神様なんて辞める!!」

「辞めたきゃさっさと子作りして、後任を育てるんだな」

「俺みたいなのの子どもを産んでくれる人なんているはずないでしょ!?」

「水無月は代々そう言うけど、なんだかんだで早くに結婚してるから安心しろ」

「うぅ。仮に早めに結婚出来たとしても俺は今働きたくないんです。神様辞めたい……」

「なにがそんなに不満なんだよ。僕達、神がしっかり仕事しないと人間界で何が起こるか分からないんだぞ?」

「分かってますよ!?そんなことは!!でもどれだけ頑張っても嫌われるんだもん!!

やれ梅雨でジメジメするだの。やれ祝日がないだの。やれ母の日に比べて父の日の影が薄いだの。

……知らねぇよ!!梅雨以外は全部人間の匙加減だろうが!!全部六月のせいにするな!!」

「気持ちは分からなくもないけど、仕事は仕事って割り切るしかないだろうが」

「如月さんには俺の気持ちなんて分からないですよ!!節分にバレンタイン。28日しかないのに令和になって祝日が二つに増えたし、四年に一度の閏年の特別感。俺にないもん全部持ってるじゃないですか!?」

「……僕だって」

「え。なにか言いました?」

「いや。なんでもない」

「とにかく俺は働きたくないんです!!

あー!!早く人間になりたい!!」

「神が人間になれる訳ないだろ。

仮になれたとして僕達は1ヶ月しか仕事ないけど、人間は一年中働かないといけないんだぞ」

「……もうミジンコとかになりたい」

「馬鹿言ってないで働け」

「嫌だ!嫌だ!嫌だ!!

せめて六月じゃなければもうちょっとやる気も出そうなのになんでよりにもよって六月なんだ!!それに水無月ってなんだ!?梅雨なのにおかしいだろ!!当て字にしたってもうちょっと考えやがれ!!」

「名前にまで文句言い出しやがった。

六月だって悪いことばかりじゃないだろ。ジューンブライドとかもあるし」

「あんなの梅雨時に式を挙げる人間がいないから、結婚式場業界が考えた企業戦略にすぎませんよ。本当人間って馬鹿ですよね」

「……馬鹿?」

「大した根拠もないのにそんなのに踊らされるなんてものすごく滑稽ですよね」

「滑稽?……水無月。お前バレンタインに対しても同じこと思ってるだろ?」

「へ?」

しまった!!二月には企業戦略の最たる行事、バレンタインがあった!!

「や、嫌だなぁ〜。如月さん。そ、そんなこと思ってないですよぉ」

「顔に嘘って書いてんだよ。

企業戦略のなにが悪い!!殆どの行事、何かしらの戦略から始まってんだよ!!」

「いや。そんなのジューンブライドとかバレンタインくらいでしょ」

「違えよ。土用の丑の日だって鰻が旬以外に売れないからって平賀源内がでっち上げたんだよ」

「そ、そうだったんですか。そんな昔のことよく知ってますね」

「は?何言ってんだ?

平賀源内なんてついこの間だろうが」

「平賀源内がこの間って……。

如月さんって何歳なんですか?」

「可愛いは年齢不詳なんだよ」

「そんなこと言わず教えてくださいよ〜」

「ダメだ」

「えー。まあ、言いたくないならしょうがないですね。じゃあ俺はちょっとお手洗いに」

「おい。待て。昨日もそう言って逃げただろうが」

如月は水無月の肩をガシッと掴んだ。

紅葉に例えられそうな小さな手から出ている力とはとても思えない。

あと少し力を加えられれば肩の骨が粉砕骨折しそうだ。

「きょ、今日の俺は昨日の俺とは一味違うのでご安心を」

「駄目だ。今日という今日は逃がさないぞ。ちゃんと働け」

「……い、嫌です……」

如月さんに逆らうのは正直怖い。

でもここまできたら意地だ。

これで言うこと聞いたら如月さんにビビったみたいで恥ずかしいじゃないか。

いや。実際ビビってるけどさ……。


俺だってちゃんと働かないといけないのは分かってる。

明日は絶対働くから今日は見逃して欲しい!!

昨日も思ったけど、明日こそは絶対働くから!!

「……はぁ。こうなったらしょうがない」

「え。俺の代わりに仕事してくれるんですか?」

「そんな訳ないだろ。調子に乗るのもいい加減にしろよ。ただ働けって言っても働きそうにないから、やり方を変えるんだよ」

「ふっふっふ。

俺は子どもの頃から怠惰の申し子と呼ばれてきた男。如月さんに俺をやる気にさせるなんてことができますかね?」

「……手取り早くボコして、強制労働させてやろうか?」

俺は全速力で逃げたが一瞬で捕まった。

「いやー!!離してー!!暴力反対ー!!」

「冗談だよ。そんなんで働いても三日坊主で終わるだろうし、毎回殴ってたら僕の紅葉のような可愛い手に傷が付いちゃうだろ?」

岩を粉砕しても傷一つ付かない拳を持ってるのになにを言ってるんだろうこの人は。


「今日結婚式をする一組のアベックがいる」

「ア、アベックって……」

「なんだ。ハイカラな横文字を使うから驚いたか?日本の神だからって日本語だけ使ってたら駄目だぞ。神だからこそ新しい物は積極的に取り入れていかないとな」

ドヤ顔をする如月を見て、水無月は必死に笑いを堪えた。


「てか今日雨降ってるじゃないですか。

ジューンブライドなんて根拠のない物に縋るからこんな曇天の中、結婚式する羽目になるんですよ」

「そこでだお前が晴れにしてやれ」

「はぁ!?なんで俺がそんなこと!!絶対嫌です!!」

「やりたいかやりたくないか聞いてるんじゃねぇ。やれって言ってんだよ」

「横暴だ!!ていうか神が一組の夫婦の願いだけ叶えるなんて不公平でしょ!!」

「誰の願いも叶えないよりはマシだ。

それにそのアベックのために叶えるんじゃない。お前が仕事に前向きになる為のきっかけ作りだ」

「……もう分かりましたよ。働けば良いんでしょ。働けば。そんな面倒なことするくらいなら大人しく働きますよ。どうせ月内には全部終わらせないとですし」

「いや。駄目だ。アベックの願いを叶えろ」

「なんでですか!?」

「今日嫌々働いたって、どうせまたすぐサボるだろ」

「そ、そんなことないですもん」

「顔に図星って書いてんだよ。ほらさっさと行くぞ」

「嫌です!!絶対に行きません!!」

「はぁ。しょうがねぇな」

「諦めてくれたんですね」

「……ああ。諦めたよ」

「あー良かった。じゃあ、如月さんの気が変わらない内に仕事を」

水無月は自分の体が突然宙に浮いたことに、脳の理解が追いつかなかった。

「え、は、え、何々!?」

下を向くと自分よりもずっと小柄な如月に軽々と持ち上げられていた。

「諦めたって言ったのに!!嘘つき!!」

「お前が自分の足で来るのを諦めたって言ったんだよ」

「恥ずかしいから降ろしてください!!自分で歩きますから!!」

「駄目だ。逃げるだろ」

如月はまるで何も持っていないかのような足取りで人間界へと向かった。


「着いたぞ。ここが式場だな」

「うぅ……。帰らせてください……。ちゃんと真面目に働きますから」

「往生際の悪いやつだな。諦めて晴れさせろ」

「簡単に言わないでくださいよ!!

本気で叶えたいって思わないと叶えられないんだから無理ですよ!!」

「叶えたいって思えば良いだけだろ。

お前はまだ神として誰の願いも叶えられてないんだから、一石二鳥だろ」

「会ったこともない夫婦の結婚式で晴れて欲しいなんて願える程、綺麗な心は持ち合わせてないです」

「なら知ってる夫婦になれば問題ないな」

ものすごく嫌な予感がする。

「ど、どういう意味ですか?」

「結婚式場のスタッフになって仕事すれば、薄情なお前でも晴れて欲しいと思うはずだ」

「そんな面倒な仕事絶対に嫌です!!」

「お前に拒否権なんてないんだよ」

「ぎゃーーーー!!!!」

抵抗虚しく結婚式場のスタッフに変装させられた。

「服変えたくらいじゃバレませんか?」

「安心しろ。神力を使って認識阻害してる」

「なんでそこまで……」

神とはいえ認識阻害は簡単に出来るものじゃない。

俺よりずっと長く生きてる如月さんといえど、それなりに疲れるだろう。

「事あるごとに仕事放棄されるより、今日お前の根性叩き直した方が楽だからな。ほらさっさと行くぞ」

如月に腕を引っ張られ、水無月はいよいよ観念し着いていった。


「とりあえず新婦のいる部屋でも探すか」

ぶつぶつ文句を言う水無月を無視して廊下を歩くと、控室の一つからかすかな笑い声が聞こえてきた。

ドアの向こうには、家族や友人に囲まれた新婦の姿があるらしい。

家族や友人が席を外し、新婦が一人になった。

「接触するなら今だな」

「えー。せっかくの結婚式当日に俺の陰気な顔見せて、気分下げたくないんですけど」

「気分下げたくないなら爽やかに笑ってたらいいだろ」

「それが出来たら悩まないですよ……」


如月が控え室にノックをする。

「はい。どうぞ」

「失礼します。何かお困りなことはございますか?」

「いいえ。皆さん良くして下さってすごく助かってます。……ただ……いえ。やっぱりなんでもないです」

「お聞かせください。本日の式が良い式になるよう我々スタッフ一同出来ることはなんでも致しますので」

「……その。やっぱり今日は一日中雨ですか?」

「そうですね。今の所はそういう予報です」

如月はそう答えた後で、水無月に視線を送る。


いや見られたってどうしようもないから!!

こっち見ないで!!


「……そうですよね。ごめんなさい。天気の事はどうにもならないのに」

「いいえ。人生に一度の結婚式ですからね」

水無月は今の時代そうとも限らないだろと思ったが、流石に言ってはいけないことだという自覚はあるので、ぐっと言葉を呑み込んだ。


「……やっぱり六月は雨の日が多いですね」

新婦の言葉に少しずつ溜まっていた、水無月の鬱憤が爆発した。

「六月は雨が多いなんて分かりきってるのに、六月に結婚式する方が悪いんじゃないですか!!」

言った。言ってしまった。

こんな日に絶対言ったらダメなのに。

「え……」

「おい!!この馬鹿!!本当に申し訳ありません!!」

「……いいえ。結婚式場の方も六月は雨が降る可能性が高いって注意してくださったのに、当日になって天気を気にしてたら良い気はしませんよね」

「いやあのその……本当にすみません……。せっかくの結婚式に水を差すようなこと言って……」

「……自信が欲しかったんです。幸せになる自信が」

「え……」

「あ。誤解しないでくださいね!ちゃんと恋愛結婚なので!」

「あ、はい」

「ただ結婚って長い人生の中でも大きな選択だから、少しだけ不安な気持ちもあって。ジューンブライドってだけでそんな気持ちが和らぐんです」

そう言って微笑んだ新婦は本当に幸せそうで、生まれて初めてジューンブライドも悪くはないのかもと思った。

「……今日絶対晴れます」

「え……でも。予報ではずっと雨って……」

「いえ!晴れます!」

「……そうですね。私が晴れるって信じないと晴れるものも晴れませんよね!」


「ご新婦様、まもなく挙式のお時間でございます」

本物の結婚式場のスタッフが新婦を呼びに来た。

「はい!じゃあ行ってきますね!」

「はい!絶対に素敵な式になります!」

新婦とスタッフが退室し、控え室には水無月と如月の二人だけになった。

「どうだよ。企業戦略も悪くねぇだろ?」

「……そうですね。ジューンブライドに関しては。まぁ、バレンタインはまた別ですけど」

「あぁ!?手前ぇあんま調子乗んなよ?」

照れ隠しのつもりだったのに、ガチギレさせてしまった。

「そ、そんな事より晴れさせないと!どうやって晴れにするんですか!?」

「露骨に話逸らしやがって。あとで覚えとけよ」

5、6発殴られるのは覚悟しないといけないかもしれない……。

「どうやってってそら。心から晴れて欲しいって願うんだよ」

「そ、それだけですか?もう願ってますけど」

「もっとだよ。心の底から」

「そんなこと言われたって……」

「結婚式、観に行くぞ」

「え、でも。まだ晴れに出来てないのに」

「百聞は一見にしかずだ。お前人間の結婚式まだ観たことないだろ」

「な、ないですけど……。でも観に行く時間なんて……」

「いいから。行くぞ」

再び如月に腕を引っ張られ、歩き出す水無月。


チャペルに到着し、壁際で控えているスタッフに紛れる二人。

「良いときも悪いときも、富めるときも貧しいときも、病めるときも健やかなるときも、愛し、敬い、支え続けることを誓いますか?」

「はい。誓います」

牧師の言葉に答える、新婦の姿を目にした水無月。


「……如月さん」

水無月が話し出したのに気づいた如月が神力を使い、水無月と如月の声が二人にしか聞こえないようにした。

「俺正直人間はなんで短い寿命で結婚するのか不思議だったんです。わざわざ結婚なんてしなくても繁殖は可能な訳ですし」

「お前。ジューンブライドとか以前にそこからだったのかよ」

「……でも結婚って、悪くないですね」

「……そうだな」

二人の目に映る新郎新婦は、とても幸せそうな笑顔を浮かべていた。


今でも十二分に素敵な式だけどチャペルに日が差せば、さらに素敵な式になるんだろうな。

二人のためにという気持ちも、もちろんあるがそれ以上に、そんな式を俺は観たい。

俺自身の為にも晴れて欲しいと心から思った。


「見て。さっきまで土砂降りだったのに急に」

空が晴れ、新郎新婦を祝福するかのように日の光が二人に注いだ。

「……すごい。本当に晴れた」

新婦と目があい、なんだか恥ずかしくて目を逸らしてしまいそうになるが、そういう訳にもいかずに微笑み返した。

「絶対俺今、キモい顔してる。せっかくの晴れ舞台にこんな顔見せて本当に申し訳ない」

「気にしすぎだ。良い表情してるぜ。少なくとも俺が見た中でのお前の表情では一番だ」

「如月さん……」

「まあ、普段の顔が時化てるだけな気もするけどな」

「如月さん……」

俺も一言多いほうな気がするけど、如月さんも負けてないだろ。これ。


「見て!天井!」

ガラス張りの天井に大きな虹が映り、とても幻想的な光景になった。


「……お前。すごいな」

「いや!偶々ですって!自然現象!……でも本当綺麗だなぁ」

俺は今日という日を一生忘れない気がする。

……あれ。なんか視界が。


「おい。水無月!!しっかりしろ!!」

「……うぅ」

「気がついたか」

「ここは?」

「俺たちの仕事場だよ」

「……結婚式は!?どうなりました!?」

「落ち着け。お前のおかげで大成功だ。よく頑張ったな」

「良かった……」


「それにしても俺は晴れにしろって言っただけなのに、あんなデカい虹出すんじゃねぇよ。そら倒れるわ」

「俺だってあんな虹出すつもりなかったですよ!勝手に出たんですよ!」

「なんて願ったんだよ?」

「あの二人の結婚式がすごく素敵だったから、晴れたらもっと素敵になるだろうなって」

「願いが抽象的だな。それが原因だ」

「そんな事言われても……」

「まぁ、数こなしていくしかないだろうな。ぶっ倒れたら俺がまた運んでやる」

「……人間の願い叶えるのはこれが最初で最後ってことで」

「駄目だ」

「でですか!?」

「だって人の願い叶えるのも悪くないって思っただろ?」

「……そりゃ今回は思いましたけど、今回限りで大丈夫です」

「いいや。その内お前は俺が叶えるなって言っても叶えるね。それが神の本能だからな」

「恐ろしいこと言わないでくださいよ……。

でもやっぱり俺には無理な気がします」

「なんでだよ」

「今回、新郎新婦の願いを叶えたいっていうより、俺が結婚式に日が差すところを観たいと思っただけなんです。

ただの私欲ですよ。そんなの神様失格じゃないですか……」

「はあ?何言ってんだ。そんなの普通のことだよ。俺だってそうだ」

「え……」

「自分に利益が0の願いなんて叶えられる訳ないだろ。慈善事業じゃあるまいし。神だって仕事なんだよ」

「そ、そういうもんですか?」

「そういうもんだよ。本当、水無月は変な所で真面目なやつばっかりだな。

その真面目さを普段の仕事で発揮しろよ」

「うっ。そ、それは……」

「六月のこと少しは好きになれたか?」

「……まあ、前よりは。でも他の月ならよかったのにって気持ちはまだあります。

……如月さんはこんなこと思ったこともないんだろうな」

「あるぞ」

「嘘だ!?如月さんの自己肯定感エベレスト級じゃないですか!!」

「お前、そういうのは富士山で例えろよ。日本の神だろ」

「自分はドヤ顔でアベックとか言ってたくせに……」


「他の月妬んだって、その月になれる訳でもないし、好きでも嫌いでもやる事は変わらないんだ。どうせやるなら好きな方が楽しいだろ」

「……確かにそうかもしれませんね。

すぐに好きになるのは難しいかもしれませんけど、少しずつ好きになれるように頑張ってみます」

「おう。そうしろ。

……ところでお前、人間から嫌われてる月って何月だと思う?」

「せっかく少し前向きになれたのに、なんでそんな意地悪な質問するんですか!?

どうせ俺は嫌われ者ですよ!!」 

「一位は8月だ」

「えー!?意外すぎる!!天下の夏休みがあるのに!!」

「まぁ、子どもだけに聞いたら結果は変わるだろうけどな。

大人にとっては夏休みなんて、子どもの昼食を用意しないといけなくなるだけの期間だし」

「人間は世知辛い……」

「近年の猛暑も影響してるだろうな」

「葉月さんも誰かさんと同じで自己肯定感高いから、知ったらショックを受けるでしょうね……」

「いや。この結果を知った俺は嬉々として葉月に伝えたんだが『人間は軟弱だな』って大笑いしてた」

「そんなんだから嫌われるんじゃ……」


「続いて第二位だが」

「嫌ー!!絶対俺だよ!!

聞きたくない!!棄権したい!!」

「2月だ」

「……へ?

またまた〜ご冗談を〜」

「本当だよ。それに好きな月ランキングでは最下位だ」

「俺は2月好きですよ!イベント多くて楽しいじゃないですか!」

「み、水無月……。

人間もお前みたいに、俺を好いてくれたら良いのにな」

如月さんのことは正直苦手ですけど。という言葉を水無月は必死で飲み込んだ。

「とにかく寒くて体調を崩しやすいし。

仕事や学校の締切が早く感じて、損した気分になるし。

お正月と卒業シーズンに挟まれていて地味だし。

頼みの綱のバレンタインも人によっては、プレッシャーになるから嫌なんだとさ」

「そ、そんな……。

人間は俺らになんの恨みがあるっていうんですか」

「ほとんどの人間にそんなものねぇよ。

ただ人間社会もストレスが多いんだろうな……。そんなストレスの捌け口になるのも俺らの仕事だ」

「神様の仕事、ブラックすぎません?」

「確かにな。でもどれだけブラックだろうが、やる事は変わらないんだ。

例え人間が二月の事を好きになってくれなくても、俺だけは二月の事を好きでいてやりたいんだよ」

「俺もいつか如月さんみたいに、6月を好きになれるように頑張ります」

「おう。また手伝ってやるよ」

「……一人で頑張ります。

でも勝ち目のないと思ってた8月と6月よりも嫌われてないなんて、案外良い順位だったりしますかね!?」

「……三位は6月だ」

「ちょっと調子乗るとこれだよ!!

だから嫌なんだ!!自分のこと好きになると、自意識過剰で恥ずかしい奴になる!!」

「それとこれとは話が違うだろ……」

「一緒ですよ!!で、理由はなんです?人間はなんで俺を嫌うんですか?」

「……聞かない方がいいだろ」

「そういう訳にはいきませんよ!!

このままじゃ気になって仕事が手につかないじゃないですか!!」

「お前はいつだってそうだろ……」

「いいから早く教えてください!!」

「はぁ。俺は忠告したからな。

梅雨でジメジメする。気象病でしんどくなる。ゴールデンウィーク怠けが取れてないのに祝日がない。母の日は祝っていた子どもが父の日は祝ってくれない。虫が増え始める」

「ふっふっふ。如月さん。

あまり俺を舐めないでくださいよ。その程度の悪口なら予想済みです」

「住民税の額は毎年6月に変わるから、特に住民税の取立てが始まる社会人2年目からはめちゃくちゃ嫌われてるな。ボーナスの前月で金欠という意見も多かった」

「……それは流石に人間の都合すぎるだろ!?

天気とかならまだ文句言われるのも分かるけどさ!?」

「まぁそれでも。

2月よりは好かれてるんだから別に良いだろ」

「そ、それは……」

クソ。愚痴りにくい。

こんな事なら、人気ランキングなんて知りたくなかった。

人気な訳でもないのに。何事も中途半端が一番苦しいのかもしれない。

都道府県魅力度ランキングとかで、いっそ最下位の方が美味しいとか言っている人間の気持ちが分かった気がする。

最下位だと嫌われ者が一周回って哀れんで貰えるが、12人中3位とかいうなんとも中途半端な順位だと、俺の努力不足みたいじゃないか!!

それもかなり格上だと思ってた如月さんの方が、不人気だったからやりにくくて仕方ない!!


「……なんかいっその事、もっと嫌われたくなってきました」

「思考が何周したら、そんなことを思うんだよ」

「うぅ……

だって決して好かれてる訳でもないのに、愚痴りにくくなっただけでなんのメリットもないんですもん」

「もっと上位を狙えよ」

「無理ですよ!6月にはどうせ最下位にすらなれない、中途半端な不人気者がお似合いなんですよ!」

「またそんなこと言って。本心じゃないくせに」

それは俺だって本当は……。でも……

「……本心ですよ」

吐き捨てるように言ったくせに、出た声はやけに小さかった。


「……はぁ。まぁ、ゆっくりで良いよ」

「お、怒らないんですか?」

「怒って欲しいのか?」

「そりゃ嫌ですけど。怒られないのもそれはそれで調子狂うっていうか……」

「怒ってどうにかなるんならいくらでも怒ってやるけど、神も人も怒られたくらいで変われるなら最初から悩まないだろ。

水無月自身でどうなりたいかちゃんと考えないと」

「……いっそ怒られた方が楽な気がしてきました」

「せいぜい悩め。それが若者の特権だからな」

「本当如月さんって何歳なんですか?」

「言っただろう?可愛いは年齢不詳なんだよ!」


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