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ノア・アルケイン

図書館の棚の一件から、三日。

学院は、妙に静かだった。

表面上はいつも通り。

授業があり、紅茶会があり、令嬢たちの噂話もある。

けれど。

その噂の中身が変わった。


 

「本当にエミリア様なのかしら」


 

「でも、魔力を感じたって……」


 

「けど棚に糸が……」


 

疑念は、二つに割れていた。


それでいい。

私はそう思う。

完全に信じられる必要はない。

ただ――疑問が存在すればいい。

 

私は中庭のベンチに座り、紅茶を飲んでいた。


令嬢が三人、第三者を置く。

習慣になっている。

すると、その中の一人が言った。


 

「最近、リリアーナ様が図書館にこもっているそうです」


 

私はカップを置く。


 

「そう」


 

それだけ答える。

だが頭の中では、別のことを考えている。

静かな期間――それは準備の時間だ。

演出型は、沈黙に耐えられない。

――必ず次の舞台を用意する。


 その夜。

寮の部屋で、私は日記を開いた。

ページの中央に名前を書く。

リリアーナ

その下に項目を書く。

傾向

・観客を必要とする

・被害者の構図を好む

・事故形式を使う

・証言を重視する

私はペンを止め、少し考える。

そして新しい行を書く。

次の作戦予測

・証人を複数配置

・魔術的証拠を利用

・「恐怖」ではなく「危険」を演出


つまり――


事故ではなく事件。


私はペンを置いた。



「なるほど」


 

静かな部屋で、小さく呟く。

次は――魔術だ。


予想は当たった。

二日後。

魔術実習室で事件は起きた。

今日は上級生と合同の魔術実験だった。

突然、魔力が暴走した。

光が弾ける。

生徒たちが悲鳴を上げる。

そして中心にいたのは――リリアーナ。


 

「きゃあ!」

 


白い光。

聖女の回復魔法。

暴走は止まる。

静寂……そして――

――床に落ちていた魔石。

教師が拾う。


 

「……これは」


 

魔力紋。

それは、私の魔力に似ていた。

周囲の視線が集まる。

私は何も言わない。

その時。

アルベルトが言った。


 

「……エミリア」


 

低い声だった。

――疑念。

それは、確かにそこにあった。

だが――その空気を壊したのは、別の声だった。


 

「殿下」


 

振り向く。

黒髪。

灰銀の瞳。

ノア・アルケイン。

彼は壁にもたれたまま、腕を組んでいた。


 

「質問してもいいですか」


 

アルベルトが眉を寄せる。


 

「何だ」

 


ノアは床の魔石を見る。

そして言った。


 

「魔力紋が似ている」


 

「それだけで犯人ですか?」


 

沈黙。

アルベルトは答えない。

ノアは続ける。


 

「魔力紋の偽装は、初級魔術です」


 

彼はポケットから小さな道具を取り出した。

青い水晶。


 

「魔力残滓測定器」


 

床にかざすと水晶が光る。

ノアはそれを見て、少し笑った。


 

「やっぱり」

 


アルベルトが言う。


 

「何がだ」


 

ノアは答える。


 

「暴走が起きた位置」


 

彼は床を指差す。


 

「リリアーナの足元」


 

――重い沈黙……


ノアは続ける。


 

「普通、暴走魔石は中央に置く」


 

「被害が大きくなるから」


 

「でもこれは」


 

彼は肩をすくめる。


 

「被害が出ない場所」


 

アルベルトの瞳が揺れる。

ノアは静かに言う。


 

「殿下」


 

「もしエミリア様が犯人なら」

 


「自分の魔力を偽装して」


 

「自分の近くに置いて」


 

「しかも聖女の足元で爆発させると思います?」


またも重い沈黙……

ノアは小さく笑う。


 

「そんな下手な犯罪」


 

「エミリア様はやりません」

 


私は思わず彼を見ると彼は肩をすくめる。


 

「だって」

 


灰銀の瞳がこちらを向く。


 

「あなた、もっと賢いでしょ」


 

アルベルトは長く息を吐いた。

そして言う。


 

「……つまり」


 

ノアは答える。


 

「自作自演の可能性が高い」



その言葉で。

空気が変わった。

疑念の向きが、ゆっくりと――確実に反転した。

――その夜。

私は日記を書く。


 ったく……あのお嬢さんは何が憎くて私に嫌がらせばかりするんだ?いい加減面倒になってきたぞ。


 ゲームしてた時もリリアーナの性格はあまり好きではなかったが、実際絡むと面倒臭い女だと確信していた。

 しかし、ノア・アルケイン――彼には助けられた。

 アルベルトの判断を疑念に変えてくれた。

 ちなみにノアも攻略対象だ。

 しかし、悪役令嬢として、喧嘩を吹っかけられた私は呑気に恋愛してる暇などない。

 リリアーナを潰して、バットエンドを回避する。

 それだけだ。

 私は日記帳を広げた。

 

・リリアーナ

 次の作戦:魔術事件

そしてその下に書く。

結果:失敗

私はペンを置く。

窓の外は静かだった。

だが――物語は動いた。

確実に。

そして私は知っている。

リリアーナはまだ諦めない。

演出型は、最後まで舞台を降りない。

だが――

舞台が壊れたとき、観客は――最初に演者を疑う。

エミリア・ヴァレンシュタインは、今日も泣かない。

その代わりに、私はただ静かに見ている。

聖女の物語が、崩れていく音を。

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