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悪役令嬢上等!

「あだっ!」


 

それは決して上品とは言えない悲鳴だった。

気づいたら私はベットから落ちていた。



「お嬢様!大丈夫でございますか!?」


 

「だれか!お嬢様をベットにお戻しして!」


 

誰かの聞きなれない数人の声がして、私は抱き抱えられて、ベットに横にそっとおかれた。

はっきりしない意識の中で、なにか違和感を感じた。

冷たい床は固く、自室のフローリングの木材とは違う石のようなかんじ。

なにより、毛足の長いふかふかの手触りのいいカーペットが敷かれていた。


うちにこんなの敷いてないぞ?


と思いながら、痛む節々をストレッチして解すように私は寝ながら大きく伸びをして目を覚ました。

目に飛び込んできたのは天蓋付きの天井。


……天蓋……天蓋ねー。


なんてぼんやりと考えていると急に意識がハッとする。


ウチのベットは天蓋付きじゃないぞ!ここどこだ!?


私はガバッと勢いよく起き上がる。

私のベットの周りを取り囲んでいた数名の男女が、飛び退き、尻もちをつく。

 


「誰か旦那様を!お嬢様が目を覚まされたぞ!」


 

そんな言葉を耳にのこし、私は状況を把握しようと部屋中を見渡した。

今座っている天蓋付きのベット。

重厚な彫刻が施された柱。

壁には豪奢なタペストリー。

メイド服らしき服装の女性たちと、黒いスーツ姿の男性。

そして――ベットと並行して置かれたドレッサーの鏡。

そこに映る自分を見て、私は息を呑む。

月光のような見事なプラチナブロンドの長い髪。

氷のように澄んだ青い目。

それは見たことある姿だった。

これ、今プレイ中の乙女ゲーム『聖女の祈り』の悪役令嬢、エミリア・ヴァレンシュタインじゃない!?

私が頬に手をやると、鏡の中のエミリアも困ったように眉を寄せ、同じように頬に触れる。

え!?なにこれ?ファンタジーってやつ!?

いわゆる異世界転生ってこと?

昨日のことを必死に思い出す。

会社から帰ってきて。

お風呂入って。

スキンケアして。

夕飯代わりにポテチ食べながら『聖女の祈り』プレイして……。

……そっから記憶がない。

――最悪だ。

だってエミリアって、ゲーム本編だと最終的に断罪されて国外追放エンドか、処刑エンドなんですけど!?

コンコン、と重々しいノック音が響く。

部屋の空気が一変した。

扉が開き、長身の男性が入ってくる。

銀糸のような髪に鋭い眼差し。威厳を纏うその姿。

ヴァレンシュタイン公爵――エミリアの父だ。

その後ろには、優雅なドレスを纏った気品ある女性。

母だろう。


 

「エミリア」


 

低く、しかし抑えた声。


 

「気分はどうだ」


 

私は一瞬固まる。

え、どうする?どう答える?

ゲーム知識によれば、エミリアは感情をあまり表に出さない。

冷静で完璧な公爵令嬢。

下手に挙動不審になったら怪しまれる。

私はゆっくり背筋を伸ばした。


 

「……少し、目眩がいたしますわ。ですが問題ございません」


 

声、出た!

しかもめちゃくちゃ上品!

内心パニックだが、外面はクール。

公爵はじっと私を観察する。


 

「階段から落ちたと聞いた」


 

――は?


それ、ゲーム冒頭で聖女リリアーナがやるイベントじゃない!?待って、時系列どこ!?

母がそっと私の手を握る。


 

「エミリア、無理をしてはなりませんよ。最近、あの平民の少女のことで心を痛めていたのでしょう?」


 

きた。

聖女リリアーナ。

物語開始直前だ。

つまり――断罪ルート、開幕目前。

私は一瞬で理解する。

今ならまだ、取り返せる。

ゲームのエミリアはプライドが高く、リリアーナに冷たく接することで孤立していく。

けれど私は違う。


中身、社会人だぞ?


理不尽な社内政治もくぐってきたんだぞ?


私は父を見上げる。


 

「お父様。ひとつ、お願いがございます」


 

部屋の空気が張り詰める。


 

「何だ」


 

「わたくし……学院での人間関係について、改めて考え直したく存じます」


 

公爵の眉がわずかに動く。

母は驚いたように目を見開く。


 

「これまでの私は、少々視野が狭かったように思いますの。公爵家の名に恥じぬ振る舞いとは何か……もう一度、学び直したいのです」


 

嘘ではない。

私は生き延びたい。

そして、できれば――悪役エンドを回避したい。

公爵はしばらく沈黙し、やがて静かに頷いた。


 

「……良い心がけだ。ヴァレンシュタイン家は力だけで立つ家ではない。誇りと理性で立つ家だ」


 

胸が少し熱くなる。

ゲームでは冷徹な父として描かれていたけれど、目の前の彼は娘を案じている。

母が微笑む。


 

「エミリアは、私たちの誇りです。どう進むかは、あなたが決めなさい」


 

――選択権、くれるんだ。


ゲームじゃなかった設定だ。

私は深く息を吸う。

どうしていくか――答えは一つ。

まず、リリアーナを敵にしない。

そしてアルベルト攻略対象に執着しない。

公爵家の信頼を強化する。

自分の派閥を静かに築く。

そして何より。

悪役という役割を、書き換える。

私は静かに微笑んだ。


 

「わたくしは、ヴァレンシュタイン公爵家の娘として――誰にも侮られぬ道を選びますわ」


 

断罪イベント?


上等。


シナリオは知っている。


ならば、対策は打てる。


悪役令嬢エミリア・ヴァレンシュタイン。


その運命は、今日から――私が書き換える。

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