第6話:一瞥する価値もありませんわね
王都の「ゴミ溜め」の崩壊は、
勇者たちの自爆を機に、加速の一途を辿っていた。
そしてついに、王国が唯一の希望として縋っていた
「新しい聖女」ミナの、
あまりにも滑稽な真実が露呈することとなったのである。
「リリア様! どうか……ミナの身元を確認していただけませんか!」
森の境界線に、ボロボロになった
聖女協会の地方役人が這いつくばっていた。
彼は、ミナが置いていった「聖女証」を、震える手で掲げている。
「……あら。そのような安価な偽造品、一瞥する価値もありませんわ」
リリアはテラスで、しろたま(白虎)の肉球に
保湿クリームを塗り込みながら、冷淡に言い放った。
「その術式構成……聖女協会の正式なライセンスではなく、
数年前に廃止された『初心者向け・家庭用治癒講習』の修了証を、
金粉で飾り立てただけのものでしょう?
専門用語で言えば、『ただの無資格者』……実に見苦しい、経歴の粉飾ですわね」
リリアの言葉に、役人は絶望に顔を歪めた。
ミナには「聖女」としての正式な登録など存在しなかったのである。
彼女は単に、光の演出に特化した初級魔法を、
リリアが密かに維持していた「広域治癒結界」の上で披露していただけの、
いわば「舞台装置の一部」に過ぎなかったのだ。
そして、その当の本人はといえば――
「……ミナ様なら、昨夜のうちに、国庫の宝飾品をいくつか手提げ袋に詰め込み、
王都の北門から手配師と共に夜逃げなさいましたわよ。
私の庭の監視結界に、その無作法な後ろ姿が記録されていますわ」
◆ ◆ ◆
【世界中の井戸端会議(掲示板)】
1:名無しの市民
おい!! 聖女ミナ、まさかの「無免許」だったのかよ!
2:名無しの魔導士
「家庭用治癒講習」の修了者って……それ、擦り傷を治すのが限界のレベルだぞ。
そんなやつをリリア様の代わりに据えてたのか? 王国は。
3:名無しの騎士
聖女様、さらりと「夜逃げした」って言ったぞ!
しかも、監視カメラ(鏡)の映像、今切り替わった……。
見てくれ、ミナが泥まみれで金貨の袋を抱えて、茂みを走ってるぞ。ダセェ……。
4:名無しの商人
勇者レオン、足が腐りかけてるのに、信じてた聖女に宝を持ち逃げされたのか。
あまりにも悲惨すぎて、もはやギャグだな。
5:名無しの賢者
リリア様、しろたまの足をマッサージしながら「掃除の手間が省けましたわ」って。
◆ ◆ ◆
「……ふぅ。肉球の手入れは、こまめにしなくては」
リリアは、しろたまの足を丁寧に拭き上げると、
朱雀(赤い方)が差し出した、温度差コンマ一度以下の完璧な紅茶を口にした。
魔導石の向こうでは、全世界が「嘘に塗り固められた王国」と
「真実の神域(リリアの庭)」のあまりの差に、もはや笑うことすらできなくなっていた。
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