第5話:契約が切れておりますが
王都の「ゴミ溜め」は、いよいよ思考を放棄したらしい。
対話も、買収も通用しないと悟った彼らが選んだのは、
愚かしくも「武力行使」であった。
「リリア! 実力行使だ! 我々を拒むなら、
この『聖剣の輝き』に焼かれるがいい!」
境界線の向こうで、勇者レオンが鞘から剣を引き抜いた。
しかし、その瞬間に響いたのは、凛とした金属音ではなく、
ボロボロと崩れる乾いた音であった。
「……なっ、錆びている!? 国宝の聖剣が、なぜ……!」
当然である。
この国の武器や防具が「不朽」の性質を保てていたのは、
リリアが毎月、「時間停止の維持術式」を
上書きしていたからだ。
彼女が去って一ヶ月。
メンテナンスを怠った鉄屑が、
湿った森の空気で腐食するのは道理であった。
「……あら。あのような粗大ゴミを振り回して、
私の庭の美観を損ねるつもりかしら」
リリアは、朱雀が淹れた完璧な紅茶を、優雅に一口含む。
焦り狂った王都側は、いよいよ禁忌に手を染めた。
「ならば、禁断の究極術式を発動する!
これでお前の庭ごと焼き尽くして――」
勇者と魔導師たちが詠唱を始めた、その瞬間。
魔法陣はまばゆい光を放った直後、
まるで電源を切られたかのように「プツン」と消滅した。
同時に、虚空から無機質な「声」が響き渡った。
『――警告。当該術式のリース契約期間が終了しています。
再更新には、管理責任者リリア様の承認と、
過去一ヶ月分の滞納利息の支払いが必要です』
静寂が訪れた。
勇者たちの顔が、一気に青ざめていく。
「……術式の、リース料……?」
「ええ。あなた方はご存じなかったのかしら」
リリアは、しろたまの柔らかな毛並みを撫でながら、
氷のような微笑みを向けた。
「この国の高位術式の八割は、
私が私財を投じて外部の魔導機関からリース契約していたものです。
先月末の更新手続き……
当然、皆様がなさっていると思っておりましたわ。
まさか、支払いを踏み倒して『不払い』の呪いを受けるなんて、
実に見苦しいコンプライアンス違反ですわね」
次の瞬間、術式の不完全発動による「自爆」が、
勇者たちを襲った。
◆ ◆ ◆
【世界中の井戸端会議(掲示板)】
1:名無しの賢者
……腹が痛い。究極魔法が「未払い」で不発だと!?
2:名無しの魔導士
おい見ろ、術式の座標がバグって、勇者たちの真上で爆発したぞ!
3:名無しの商人
聖女様、紅茶を飲みながら「支払い明細を確認なさい」って呟いたぞ……。
王国、魔法を使う権利すら失ってたのか。
4:名無しの市民
勇者の鎧も錆びて崩れてるぞ! 全裸同然で爆風に吹っ飛んでいった!
聖女様、一歩も動かずに「不渡りを出した方の末路ですわ」って一言。
怖すぎる。
5:名無しの騎士
リリア様がこれまで、
どれだけの事務コストと私財でこの国を支えていたか。
それを「地味」の一言で切り捨てた報いが、これか……。
◆ ◆ ◆
「……ふぅ。騒々しい。」
黒煙を上げて転がる勇者たちの惨状など、
リリアにとっては「不適切なポップアップ広告」が
消えた程度の出来事なのである。
「皆様、よく見ておきなさい……対価を払わず、維持管理もせず、
ただ享受するだけの存在は、いずれ己の無知によって自滅する。
……実に見苦しい、不経済ですわね」
私は、空になったティーカップを朱雀に預け、次の茶葉を選び始めた。
全世界が、リリアという「一人の聖女」が、
実は国家という巨大なシステムの「OSそのもの」であった事実に
震え上がっていたのである。
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