第4話:それを謝罪とは申しませんわ
王都を離れて一ヶ月。
リリアの庭は、四匹の「備品」たちの献身によって、
驚くべき効率で稼働していた。
しかし、外界(ゴミ溜め)はそうもいかなかったらしい。
四神の加護を失った王都は、農作物の不作、水源の枯渇、
そして偽聖女ミナの「光るだけの無能」によって、
いよいよ末期的な様相を呈していた。
「……あら、また扉の外に『異物』が漂着しているわね」
テラスで読書をしていた彼女は、
視線を上げることなく呟いた。
森の結界が、複数の人間の「下劣な焦燥感」を感知している。
今回は勇者ではなく、国王の名代を名乗る特使たちが、
山のような金銀財宝を積んだ馬車と共に現れたのである。
「リリア様! 過去の非礼を深くお詫び申し上げます!
陛下はあなたを公爵令嬢として迎え入れ、国宝の地位を約束すると仰っております!」
彼らの謝罪は、実に見苦しい。
非を認めているのではなく、単に「損得勘定」で
頭を下げているに過ぎないのだ。
その声の響きには、一粒の真実も含まれていない。
「……公爵令嬢? 私をそのような『肩書きという名の重石』で
縛ろうだなんて。実に見当違いな、在庫処分的な提案ですわね」
リリアは溜息をつき、書庫の入り口で
文字通り「文鎮」と化している玄武へ視線を送った。
「黒いの(玄武)。あちらの連中が持ってきた『光り物』ですが、
あのようなものは、海溝の底にでも埋めて、土壌の肥やしにでもして差し上げて」
玄武は、岩のような巨体をわずかに震わせると、
足元から地響きを伴う重力波を放った。
◆ ◆ ◆
【世界中の井戸端会議(掲示板)】
1:名無しの商人
おい!! 王国が必死にかき集めた「国庫の半分」が、
一瞬で地中に飲み込まれたぞ!?
2:名無しの賢者
……今の、玄武様による『大地の裁き』か。
それを聖女様は「ガラクタの在庫処分」と切り捨てたぞ……。
3:名無しの市民
特使の連中、腰を抜かして漏らしてるぞ。
あんなに金塊を積んできたのに、聖女様、
一度も馬車の方を見ようともしねえ。
4:名無しの冒険者
見てみろ、聖女様が今、玄武の甲羅を『踏み台』にして
高い棚の本を取ったぞ!
大陸を支える神獣を……足場に……。
5:名無しの魔導士
「不適切な広告を非表示にしただけですわ」って呟いたぞ、
あの人……。
王国、もう完全に「無視」されてるんだな。
◆ ◆ ◆
「……ふぅ。これでようやく、視界が整理されましたわ」
リリアは高い棚から取り出した古い魔導書を、
玄武の背中の上で開き直した。
「いい、黒いの。あなたは動かないことが仕事。
ですが、踏み台としての『安定感』が、
先ほどからコンマ数ミリほど揺らいでいますわ……
修正されなければ、明日はあなたの甲羅を、最高級のタワシで
三時間かけて研磨して差し上げますから」
「……!!」
玄武は石像のように硬直し、大地の鼓動を止めてまで、
その安定を保とうと必死になった。
全世界が「もう誰も彼女を連れ戻せない」という絶望を
感じた瞬間だった。
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