第3話:返品して差し上げて
“死の森”に住まう四匹の「備品」たちは、
思いの ほか学習能力が高かった。
リリアがテラスで書類を整理している間、
彼らはそれぞれの持ち場で、
彼女の美学に反せぬよう各自の仕事をしている。
「……赤い方(朱雀)。茶葉の蒸らし時間は三分の設定です。
一秒でも過ぎれば、その嘴を事務用のクリップに変えますわよ」
「ピピッ……!」
朱雀は震えながら、体内時計を極限まで研ぎ澄ましているようであった。
膝の上の「白いの(白虎)」も、私の打鍵のリズムに合わせて、
毛並みの温度を微調整している。
機能的な静寂。
これこそが、リリアの求める「隠居」の形である。
だが、その完璧な調和を乱すノイズが、
森の境界線から響いてきた。
「リリア! 戻ってこい!
お前がいないせいで、王都の噴水が止まり、
ミナちゃんの聖なる光も出力が不安定なんだ!」
拡声魔法で叫んでいるのは、勇者レオンであった。
どうやら彼は、自分が「四神の加護」というインフラの上に
胡座をかいていた事実に、ようやく、薄っすらと気づき始めたらしい。
「……あら。あのような低俗な声を耳に入れるのは、
知性の浪費ですわね」
リリアは溜息をつき、庭の池で待機していた
「青い蛇(青龍)」へ視線を向けた。
「青いの。あちらに、清潔感を欠いた『不法投棄物』が
放置されているようですわ。
私の庭に届く前に、すべて……そうね、大西洋のど真ん中
あたりにでも『返品』して差し上げて」
青龍は、私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、
その巨体をくねらせ、森の外へ向けて極太の水圧を放った。
◆ ◆ ◆
【世界中の井戸端会議(掲示板)】
1:名無しの冒険者
おい!! 勇者パーティが、一瞬で水平線の彼方まで吹き飛んだぞ!?
2:名無しの魔導士
……今の、青龍様が放った「神の鉄槌」じゃねーか。
それを聖女様は「返品」って呼んだのか?
3:名無しの賢者
見ろ、あっちの勇者の惨状を。
ミナが必死にヒールを使ってるが、
光るだけでレオンの打撲一つ治せてない。
対して、聖女様の庭では……。
4:名無しの市民
聖女様、仔虎の爪を「専用のやすり」で整えてあげてるぞ。
神獣のメンテナンスの方が、勇者の命より優先順位が高いのか……。
5:名無しの騎士
当然だろ。あんなゴミ同然の勇者より、
聖女様の膝の上で大人しくしてる神獣の方が、
世界にとっての価値は数万倍だ。
◆ ◆ ◆
「……ふぅ。これでようやく、お茶が美味しくいただけますわ」
リリアは、朱雀が完璧な管理下で淹れた紅茶を口に含み、
満足げに頷いた。
「皆様、よくできました……ただし、青いの。
今の水圧、角度が三度ほどズレていましたわ。
お礼に、明日はあなたの鱗を一枚ずつ、
歯ブラシで磨き上げて差し上げますから、覚悟なさって」
「……!!」
青龍は、歓喜と恐怖の入り混じった声を上げ、
池の底へと沈んでいった。
リリアがふと庭の角に目をやると、
ちいさな魔導石が光っているのが見えた。
その石がなぜピカピカ光っているのか、
リリアには秒で分かったが、知らないふりを貫くことにしておいた。
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