第1話:地味すぎて追放?こちらから願い下げですわ。
王都――勇者パーティが築き上げた、輝かしい拠点。
世間ではそう称えられている場所だが、リリアにとっては違った。
彼女にとっては、ただの“淀んだ空気の溜まり場”に過ぎない。
「いいか、リリア。お前の回復魔法は、とにかく地味なんだよ!」
勇者レオンの怒鳴り声が、大理石の天井に無作法に反響する。
「新しい聖女のミナちゃんを見ろ!
彼女のヒールは、黄金の光が降り注ぐ。
これこそが民衆が求める『救済』だ。それに比べてお前は……」
レオンの隣では、派手な香水の匂いを漂わせたミナが、
勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「そうですよぉ、リリアさん。
あなたの魔法って、傷が塞がるだけですしぃ……
見ていて、地味で貧乏臭いんですよね」
この瞬間、リリアはこの国の価値観を完全に理解した。
中身が空洞であっても、表面さえ輝いていれば、
それを“救済”と呼ぶらしい。
実に見苦しい、定義の混同であった。
「聞いているのか! 追放だぞ、リリア。
……靴を舐めるなら、許してやってもいいが?」
その言葉を聞いた瞬間、リリアの胸の奥は、
驚くほど静かに凪いでいった。
「……承知いたしました。謹んで、お引き受けいたしますわ」
「はあ? 今、なんと言った――」
「追放の決定、心より感謝申し上げますと申し上げましたの。
これほどまでに清々しい心地は初めて。
あなた方と同じ空気を吸わずに済む。
それだけで、私の肺が浄化されていくようですわ」
ドレスの裾を指先でつまみ、完璧な角度で、優雅に一礼する。
「“空っぽの器”を修復する術式は、あいにく存じ上げませんの……
ミナ様もお体をお大事に。
中身のない器が無理に熱を持てば、
いずれ無惨に割れてしまうものですから」
去り際の一言に、偽聖女の顔が引きつったが、私には関係ない。
リリアは清々しい気分で宮殿を後にした。
◆
リリアは、人も魔物も近づかぬ禁域――
“死の森”と呼ばれる場所の最奥にある、賢者の庵へと向かった。
数日後。
辿り着いたその場所は、
かつての主を失ってもなお、圧倒的な神聖さを保っていた。
リリアは一振りの魔法で小屋を清掃し、テラスへ椅子を持ち出す。
その時、草むらがガサリと揺れた。
「あら……不法侵入かしら」
現れたのは、四匹の奇妙な生き物だった。
泥にまみれた白い仔虎。
羽の生え揃わない赤い小鳥。
甲羅に蛇を巻き付けた亀。
そして、トカゲのような青い蛇。
世に言う「四神」――白虎、朱雀、玄武、青龍。
一国を千年も繁栄させるという伝説の神獣たちが、
無様に転がっていたのである。
「……不快だわ。死ぬなら、せめて敷地の外でお願いしたいもの。
縁起が悪いと言うか…私の美学に反しますわ」
そう言いながらも、リリアの指先からは、
七色に光る魔力が漏れていた。
「いい? 浄化が終わったら、速やかにお帰りなさい。
ここはあなた方のような『毛玉』や『爬虫類』が、
勝手に入り込んでいい場所ではありませんのよ」
リリアが指を鳴らしたその瞬間、
森を揺るがすほどの浄化の光が奔った。
――それは、世界の魔法碑に映し出される
「全世界配信」の第一歩でもあった。
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