第12話(最終回):OSのアンインストール
「シャットダウン、実行」
リリアがコンソールに最後の一節を書き込んだ瞬間、
世界から「音」が消えた。
空を覆っていた魔法の残滓が霧散し、
不自然に輝いていた魔導の灯が、一つ、また一つと瞬きを終えていく。
「……リリア様! お待ちください!
魔法が消えた世界で、私たちはどうやって――!」
絶望に染まった賢者たちの声。
リリアは、朱雀が温めた最後の一杯を飲み干し、静かに立ち上がった。
「……あら。いつまで私の書いた『補助プログラム』に
依存し続けるおつもりかしら。実に見苦しい」
私は、四神(備品)たちを傍らに従え、
全世界のユーザーへ向けて、最後のマニュアルを提示した。
「魔法とは、世界が未熟だった頃の『デバッグモード』に過ぎません……
自力で火を熾し、自力で水を運び、自力で法を守る。
そのような当たり前の『物理演算』ができない存在に、
これ以上の拡張機能は不要ですわ」
私は扇で魔導石の表面を優しく撫でた。
これが、リリアというシステムがこの世界に干渉する、
最後のコマンドになる。
「――聖女という名の実行ファイルを削除。
これより、世界の管理権限を全人類へ譲渡いたします……
さようなら」
◆ ◆ ◆
【世界中の井戸端会議(掲示板)】
1:名無しの魔導士
……消えた。魔法が……指先から魔力が感じられない。
2:名無しの商人
おい見ろ! 鏡の映像が砂嵐になって……
最後、聖女様が「Delete」って呟いたぞ。
3:名無しの市民
「奇跡」は終わったんだ。
4:名無しの騎士
……不思議だ。怖いけど、何だか肩が軽くなった気がする。
◆ ◆ ◆
魔導石の輝きは完全に失われ、ただの石となった。
同時に、リリアの肩から「聖女」という名の重苦しい権限が、
完全にパージされる。
……ああ、軽い。
もう、世界の脆弱性を探す必要もない。
誰かの不始末を、深夜のサービス残業で修正する必要もない。
「……さて。皆様。
これからは、ただの飼い主としての生活が始まりますわよ」
膝の上で丸まる「元・白虎(ただの白い猫)」
空を飛ばなくなった「元・朱雀(ただの赤い鳥)」
池で沈む「元・青龍」、そして「元・玄武(ただの亀)」。
魔法というOSが消えた世界で、彼らもまた、
ただの愛らしい生き物へと戻っていた。
「静かに、美しく、そして誰にも邪魔されない日々の始まりですわ」
彼女は、四匹の家族と共に、夕焼けに染まる庭へと歩き出した。
――死の森の奥深く。
最後までご覧頂き、本当にありがとうございました。
リリアのお話し、気に入って頂けると
嬉しいです(^-^)




