第11話:利用規約違反ですわ
王都の崩壊。それは悲劇ではなく、単なる「仕様」であった。
リリアは、前住人が残していった旧式の魔導石の前に立ち、
流れるログを淡々と眺めていた。
「リリア様! お願いします、どうかこの滅びを止める『更新』を!」
境界線の外で、泥を啜りながら叫ぶ元貴族たちの声。
しかし、彼女は一度たりとも、彼らを見ようとはしなかった。
「……あら。皆様、今まで一度も『利用規約』を読まずに、
この世界の恩恵を享受していらしたのかしら。
実に見苦しい、同意なき権利の主張ですわね」
リリアは、しろたまの爪を整えながら、向こう側――
全世界の魔法石碑に向けて、氷のような宣告を放った。
「私が『聖女』として提供していたのは、慈善事業ではありません。
この世界の安定を維持するための、管理・保守サービスに過ぎませんの……
そして、その契約には、絶対的な条件がありましたのよ」
彼女は扇を広げ、空中に巨大な術式の「条項」を映し出した。
「第一条:管理者に対する不当なハラスメント、および業務妨害の禁止。
第二条:システム(聖女)の独占的私物化、および不衛生な環境での運用。
……あなた方は、このすべてを自ら破り、私を『追放』という名の
強制解雇に処しました。……契約の重大な違反。つまり、この瞬間に『聖女』という
システムのサポート期間は、終了していたのです」
◆ ◆ ◆
【世界中の井戸端会議(掲示板)】
1:名無しの魔導士
……利用規約!? 魔法を使うのに、そんなものが存在してたのか!?
2:名無しの賢者
聖女様が今、映し出したログを見ろ……。
王都がリリア様を追い出した瞬間に、世界中の「安定化プログラム」に
『Access Denied』の文字が並んでる。
3:名無しの騎士
「私はあなた方を滅ぼしたのではありません。
あなた方が、サービスを停止させたのです」
……俺たち勝手に、自分たちで自分たちの首を絞めただけなんだ……。
4:名無しの市民
見てくれ、王都だけじゃない!
不正を働いている他国の役所でも、魔法の灯りがパチパチと消え始めたぞ!
「不正な運用は、自動的に検知・遮断されます」って……。
5:名無しの商人
聖女様、紅茶を飲みながら「マニュアル通りに動かないシステムに、
存在価値はありませんわ」って……。
世界が、大掃除されていく……!
◆ ◆ ◆
「……ふぅ。これでようやく、不適切なユーザーの選別が完了しましたわ」
リリアは、朱雀が九十八度で維持した最後の一杯を楽しみ、
静かに端末(魔導石)を操作した。
もはや、誰が泣こうと、誰が祈ろうと、停止したプロセスが再起動することはない。
「いい、四神の皆様。エラーを吐き続ける古い秩序を、
一度きれいに『削除』すること……その後に、自分たちの足で立てる者だけが、
次のログインを許されるのです」
リリアは満足げに微笑み、メインスイッチに指をかけた。
「――皆様、さようなら。
これより、本システムの最終シャットダウンシーケンスに移行いたします」
全世界が、自分たちが失ったもののあまりの大きさに、絶望と畏怖を刻み込まれた瞬間であった。
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