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第11話:再生の鼓動

第1章、最終回。

 みんなが一時的に非難した小学校の体育館の前に一台の黒い車が滑り込んできた。助手席には渡瀬トメが座っていた。車の後ろに一台の大型バスが停まった。トメが体育館に入るとよく通る声でみんなに告げる。

「はい、みなさん。大変でしたね。皆さんの寝る場所を用意したので移動してください」

 まだ落ち着きを取り戻せない園児たちはいったん体育館から外に出て、バスから降りてきた運転手に促され、疲れた表情のままそのバスに乗り込んだ。走り出したバスの車内は、外の喧騒が嘘のような静寂に包まれていた。強力な暖房が効き始めると、緊張状態にあった子供たちの体が、糸が切れたように緩んでいく。マサキは、佐々木が炎の中から持ち出した小さなロボットのおもちゃを胸に抱きしめ、泥のように深い眠りに落ちていた。隣の席でも、女の子たちが煤のついたぬいぐるみを頬に寄せ、安らかな寝息を立てている。座席の固いクッションさえ、彼らにとっては天国のような安らぎだった。剛太は、子供たちの寝顔を一人ずつ確認するように見回し、深く座席に背を預けた。

 大型バスが低い排気音を残して小学校の校庭を去っていった。静まり返った体育館には、ワックスの匂いと、子供たちが去ったあとの冷たい空気だけが残っている。窓から差し込む冬の月光が、埃の舞う床を白く照らしていた。ケンシンは、体育館入り口の重い扉に背を預けたまま、遠ざかるバスのテールランプをじっと見つめている。その隣には、微動だにせず立つ渡瀬トメの姿があった。ケンシンが話しかける。

「トメさん。ずいぶん早かったですね。バスの手配も、宿泊先の確保も」

 ケンシンが視線を動かさずに問いかけると、トメは手袋をはめた両手を前で重ね、静かにこたえた。

「隆之様は、すでに全てをご存じでいらっしゃいました。ケンシン坊ちゃま」

 その呼び名に、ケンシンの眉がわずかに動く。トメは淡々とした口調で続けた。

「隆之様は、ケンシン坊ちゃまが曙養育院の話をされた時から、沼田という男の素行をお調べになられておりました。警察組織の上層部にはあらかじめ『沼田に関する動きがあれば逐一報告せよ』と内密に指示を出しており、水面下で調査を進めさせていたのです。南郷グループのリフォーム会社からの報告で、隠し金庫の存在も察知しておりました」

 ケンシンの父・隆之は、曙養育院がどのような場所で、沼田がどのような行動をしているのか、すべて把握していたのである。鎮火後の現場検証があまりにも手際よかったことに納得がいく。トメは続ける。

「火災の一報が警察から隆之様のもとへ届いたのは、深夜のことです。即座にバスを動かし、南郷財団が経営する桜麗大学のセミナーハウスを避難先として確保するようにと、私に命じられました」

 ケンシンは、父の決断と行動の速さに改めて驚いた。ケンシンはふと、自分の足元に落ちる影を見つめた。

 子どもたちがバスに乗り、しばらくして到着したのは、豊かな緑に囲まれたレンガ造りの美しい建物だった。国内屈指の難関校、桜麗大学のセミナーハウスである。

「私立桜麗大学」。南郷財閥が運営する超エリート大学。幾多の著名人、学者、財界、政界に優秀な人材を輩出する。学費は国立大学の約半額にもかかわらず、その設備は他の大学を圧倒し、数多くの研究成果とともに企業への強力なパイプを有しており、各界で活躍する卒業生から多額の、しかも自主的な寄付金によって賄われている。そこのセミナーハウスの前で児童を迎えたのは桜麗大学の学生たちだった。大学側にはすでに連絡が来ていた。急きょキャンパス内の学生寮に住んでいる学生たちが動員されたのだ。まだ夜は完全には明けきっていない。この寒さの中、眼をしょぼしょぼさせながら集まった学生たちの前にやって来たのは、泥に汚れ怯えた瞳をした子供たちだ。学生たちは自然と身体が動いた。子供たちに駆け寄る学生たちが「お腹空いてない? 温かいスープがあるよ」と声をかけ、汚れた服をはたいてやる。女子寮からも人が集まって来た。それを見た女子児童たちが安心のあまり泣き出してしまった。女子学生たちが口々に、大丈夫よ、と声を掛ける。すると児童たちはやっと落ち着きを取り戻したようだ。

 曙養育院の児童たちは、しばらく桜麗大学の宿舎としても利用できるセミナーハウスに住むこととなった。そして、日々の生活を共にする中で、学生たちの間に、ある機運が高まっていった。

「この子たちの力になりたい」

「生きた学問に携わる機会だ」

「困っている人のためにできることを考えるのが学生の真の本文だろう」

「実習を兼ねてボランティアで学習支援はできないだろうか」

「赤ちゃん……、カワイイ」

 焼け跡から救い出された子供たちの未来が変わろうとしていた。


 第1章:泥の中の聖域 完



やっと第1章が終わりました。ふー。(--;)

2章も執筆中です。

次章は、新生・風の丘学園とアルファンマン起動のお話。

完成後、見直しながらアップする予定です。

いつになることやら。

(深夜アニメみたいだな。^^;)

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