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氷の薔薇と銀の狼 -Relight-  作者: 水原伊織


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86/107

86.「あの時までは、絶頂だった」――橋の下で震える元夫・新田。妻を売り、すべてを失った男の“因果応報”の夜明け。

今日も、橋の下は寒かった。

この生活を始めてから、何回目の冬なのだろうか。

途中から、数えるのを忘れた。

毎年、知り合いになったホームレスが何人かは年を越せずにいる。


あの時までが、人生の絶頂だった。

営業で好成績を上げ、若くして年収も増えた。

そして、皆が羨やむ営業部の華、絵里奈と結婚した。

片桐も当時ご執着だったようだが、自分の方が魅力があったのだ。


絵里奈の事は、毎晩のように抱いていた。

自分の腕の中で、身悶える絵里奈を見ていると、翌朝の、会社の連中に対しての優越感を味わえるのだ。


ただ、結婚して、月日が経つと共に、お互いの欠点が気になってくる。

それに、絵里奈はなかなか懐妊しなかった。


不思議に思っていたが、新田自身はそこまで気にはならなかった。

ただ、親からの圧力めいたもので、とりあえず二人とも検査をした結果、絵里奈が非常に妊娠し辛い体質であることが判明した。

その時は倦怠期であり、互いの両親のための子作り、みたいな交わりになっていたのだ。

そこに来て、この検査結果だった。


自然と夜の営みが無くなった。

だがらと言って、新田の欲求が消えるわけでもなかった。


別の女との浮気にのめり込むには、時間がかからなかった。

絵里奈は、薄々感づいてはいたであろうが、何も言ってはこなかった。


向こうも向こうで、新田の事を利用すればいいのだ、くらいに思っていたのだ。

やがて、美人局に引っかかり、多額の請求が来た。相手は、反社会勢力の妻だった。


貯金をはたいても、返しきれずに、金になると言われて思わず絵里奈を差し出したのだ。

一ヶ月の辛抱だと言われた。

待っているつもりではあったが、今度は、別の女に声を掛けられた。

今思えば、それは、自分をさらに追い詰めるトラップだったのだ。

多分、絵里奈が金になると踏んだ奴らの仕業だった。

結果的に、会社にこれまでの事が全て発覚し、懲戒解雇になった。


そこからはあっという間だった。

会社から送られてきた離婚届にサインをして、あとは会社の弁護士とのやりとり。


自分の父が、絵里奈への慰謝料を払うためや、反社会勢力からの損害賠償に関する弁護士費用など、自分の後始末をつけるため、実家の土地と建物を売却した。


その後、勘当されてからは、一度も両親には会っていない。

再就職はしたものの、工場での作業は苦痛だった。

それでも、惨めだったが、耐えた。

だが、派遣社員だった新田は雇い止めをくらい、無職になった。


ハローワークに通ってはみたが、どれもこれも似たようなもので、正社員のあてはなかった。

そのうちに、闇バイトに手を出し始めた。割が良かったのだ。

現金を手にしては、ギャンブルにつぎ込む。

そして、闇バイトで稼ぐ。

胴元が摘発されると同時に新田も逮捕された。


執行猶予こそ付いたものの、前科者だった。

もうまともな就職は出来なかった。

それでも、30代まではなんとかなった。

しかし、40歳を過ぎてくると、体力が持たなくなってきた。

事務的な仕事は全てAiがやる世の中だ。

資格も無い、かつ、前科のある新田を雇う会社などあるはずも無かった。


気がついたら、橋の下で寝ていたのだ。

ホームレスにも縄張りはあったが、まだ若い部類に入る新田は、さほどうるさい事は言われなかった。


それから月日が流れるのはあっという間だった。

新田はいつも若い頃の自分を思い出していた。

あの頃は、なんでも出来る気がした。

女にもモテたし、年収も同い年の人と比べたら段違いに良かった。

絵里奈と片桐の事は交代で思い出していた。

片桐に殴られ、前歯が折られたせいで、歯並びの隙間が気になって仕方が無かった。

絵里奈には、申し訳無い事をしたと思う反面、子供が作れない方も悪いと開き直って考えていた。


とにかく腹が減って仕方が無かった。ポケットには、折りたたみ式のナイフをいつも忍ばせている。

草を刈り取ったり、都内でもたまに見かける小動物を仕留めたりするのに重宝した。


段ボールの上でうずくまり、うとうとしだした。

あまり眠れないまま、夜明けを迎えた。

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