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薔薇の氷 -Relight-  作者: 水原伊織


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6.伴生

平日の伊織は、会社から帰宅するとパソコンに向かう。

それが習慣になっていた。


金曜の夜から日曜の夜までは絵里奈のマンションで過ごし、平日は自宅に戻る。


絵里奈に教えられながら金融リテラシーを磨き、ひと月も経つと利益が出始めた。

三ヶ月が過ぎる頃には、副業の収入は本業に匹敵するほどになっていた。


----


金曜日の夜。

交わりを終え、静かな余韻の中で寄り添っていると、伊織はそっと息をついた。


毎週のように重ねてきた時間なのに、絵里奈の存在に飽きるという感覚は一度もなかった。

触れれば吸い込まれそうなほど柔らかな肌の温もりも、ふとした瞬間に漂う香りも、

伊織にとっては何度味わっても新鮮で、心を落ち着かせてくれる。


若い頃のように勢い任せで相手を喜ばせることはできない。

だからこそ、ひとつひとつの仕草を丁寧に、確かめるように重ねていく。

金曜日の夜を特別にするために、自分なりの節制も続けてきた。

その分、この時間が訪れるのを指折り数えてしまう。


絵里奈は、そんな伊織の想いをいつも受け止めてくれた。

どれほど疲れている日でも、拒むことなく、そっと寄り添ってくれる。

伊織は、残りの人生すべてを絵里奈に捧げるつもりで生きている。

絵里奈は、暗がりの中で道を照らしてくれる灯のような存在だった。


「絵里奈…」

「伊織…」


深く心が重なるその瞬間が、伊織は何より好きだった。

胸の奥に積もっていた想いが、静かにほどけていく。


「明日、車を買いに行こうと思う」

「あら、ついに決心?」

「ああ。絵里奈を乗せて、ドライブしたい」

「いいね、その意気よ」

伊織の副業は、自らの半生を綴ったブログや書籍レビューを中心に展開していた。

子育ての苦労、会社での挫折、家庭の不和。

リアルな体験談は多くのサラリーマンの共感を呼び、アフィリエイト収入も伸びていた。


「伊織、頑張ってる。偉い」

「絵里奈様のおかげでございます」


おどけ合いながらも、伊織は決意を固めていた。

副業の成果を形にするため、車をローンで購入するのだ。


----


翌週。

伊織と絵里奈はディーラーを回り、最終的に選んだのはメルセデスの最高級Sクラスセダンだった。

「どうせ買うなら」と伊織が決めたその選択に、絵里奈も驚いた。

ローン審査は難なく通過。高額な支払いも、今の伊織にはむしろ活力だった。


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金曜の夜。

マンション前に停めたメルセデスの助手席に絵里奈を迎える。

「お待たせ」

「ありがとう」

車内で交わす言葉は、以前よりも自然に甘い。

「絵里奈、今日も綺麗だよ」

「伊織も、すごく素敵になった」

車だけではない。

髪型も服装も絵里奈の好みに合わせ、筋トレや食事管理も始めた。

「誰が見ても、絵里奈にふさわしい男になる」

そう心に誓いながら、伊織はアクセルを踏み込む。

夜の街を走り抜けるメルセデスの車内で、

二人は確かに、彼氏と彼女、として並び立っていた。


----


最近の絵里奈のプライベートは、まさに至福だった。

二十数年ぶりに再会した男──若き日の短い時間を共有し、

かつて初めてを捧げた伊織と、再び同じ空間を過ごすようになったからだ。


再会直後の伊織は、枯れ枝のように生気を失っていた。

まるでゾンビのようで、かつてのがっついた若さは影も形もなかった。


会社で出会う獰猛な男たちとはまるで違い、全てを搾り取られた奴隷のように見えた。

だが、彼の半生を聞けば、それも無理はないと絵里奈は思った。


自分もまた、結婚生活で傷ついていた。

子を授かれない体質と知り、夫の浮気や借金に耐え、身体を犠牲にして返済した日々。

飛び降りようとした瞬間に片桐に救われ、離婚と社会復帰を果たした。

仕事に没頭し、男たちから声をかけられても、愛情を信じられずにいた。


そんな時、居酒屋で偶然再会したのが伊織だった。

死んだ魚のような目をしていた彼に声をかけ、金曜の夜を共に過ごすようになった。

だが、彼は決して誘ってこない。女として見られていないようで、悔しさすら覚えた。


やがて、マーカスの件で助けを求めた夜。

伊織は警察を呼ぶまでもなく、自ら乗り込んできて絵里奈を救い出した。


狼のような鋭さで敵をひるませ、導いてくれたその姿に、

漠然としていた想いが、形になった。


あの夜、ホテルで伊織の本心を聞いた。


二人は時を超えて、再び結ばれた。


伊織には、会社の男たちが持ち合わせない優しさがあった。

甘さとも言えるが、それが絵里奈にはたまらなく魅力的だった。


だが、ただ優しいだけではなく、彼は生き返り、強さを取り戻していた。

身体を鍛え、学び、財力をつけ、立派な男になろうと努力する姿を、絵里奈は尊敬し、心から愛するようになった。


今は、伊織に触れられるたびに、身体の奥から熱が灯るようだった

もう他の誰かを求める気持ちは、とうに消えていた

女は結局、愛する男に抱かれるのが一番気持ち良いのだ。


金曜の夜、本社会議の会合にはもう出ない。

少しでも早く伊織に会いたいからだ。

支店を閉め、真っ直ぐ帰る。


酒を飲みながら愚痴をこぼしても、伊織は笑顔で受け止めてくれる。

そしてその身体で、必ず恍惚へと導いてくれる。


もうこれ以上、何も望むものはない。


これからの人生、ずっと伊織と共に生きる──絵里奈はそう決めていた。


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