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氷の薔薇と銀の狼 -Relight-  作者: 水原伊織


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53/107

53.「三度目の人生は、君に捧げた」――雲の上で置き去りにする過去。二十年越しの愛の告白。

絵里奈は窓の外を見つめていた。

ふと、思い出したかのように、話を始めた。


「…もう20年以上前ね。オーストラリアに行ったの」

「…ああ、そうだね、それくらい時間が経ったのか」

「電話で言ったっけ?私、あの時、飛行機の中で泣いていたって」

「…覚えてる。向こうに着いてからの電話で言ってた」


その国際電話の後にほどなくして、あのアルバイト先のオーナーが自殺したのだ。


「それで日本に帰ってきたら、いろいろな通知が来ていて」

「…すまない」

「あ、ごめんね、気にしないで」

「いや、その後に、俺に電話してきたよね?」

「うん、携帯の番号変えてなかったから、つながったのよね」

「そうだったね」


そこで一度、実は再会はしていた。


「だけど、お互いさ、なんか意地になってたよね」

「俺は、意地になるより、どうしたらいいか分からなかった」

「そうなの?」

「ああ。その時の絵里奈に未練があったなら、なんとかしたかもしれないけど」

「違ったんだ?」

「…怖かった。何もかもが」

「そうだったんだ…」


その後しばらく間をおいてから、裁判所からの通知が実家に来た。

家庭裁判所の調停室で再会はしたが、顔を合せなかった。


「でも、あの後少ししたら、全額振り込まれててびっくりした」

「ボーナス払いだった気がする」

「その時、伊織は結婚してた?」

「してた。子供もいた」

「奥さんは、当時の奥さんは、知ってたの?このこと」

「断片的には、話していたよ」

「…怒ってなかったの?」

「払うのは、あなただからって、それだけ」

「そう」


フライト中の飛行機の中で、昔話。

それも、お互い共有した辛い過去の思い出。

雲の上に、置き去りにできそうだ。


「ねえ、伊織」

「うん」

「あの時さ、若いときに、よりを戻していたら、私達どうなってたかな?」

「そうだね。少なくとも、今ここでファーストクラスには乗れてない」

「そうかな?」

「あの時の俺が、絵里奈の言うことを素直に聞くとは思えない」


臆病さを隠すために、尊大になり、自信過剰になり、そして人を傷つけた。

「なるほど、ね」

「あの借金で俺は一度死んだと思って生きてきた。離婚した時も、死んだ」


あの店で声をかけられなかったら、多分、この世界にはいなかっただろう。

「俺は2回死んだ。この3回目の人生は、救ってくれた絵里奈に捧げた」

「伊織…」

「そうしたら、こうなった。最初から、人生を絵里奈に捧げてればよかった」

「あの頃は私も若かった。今のようにはできない」

「お互いにね」

「そう、お互いに」


顔を見合わせた。

自然に、近づく。

唇が重なり合う。


「愛してる、絵里奈」

「私もよ、伊織。愛してる」


機体はゆっくりと進み、二人をフィレンツェへと運んでいく。

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