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氷の薔薇と銀の狼 -Relight-  作者: 水原伊織


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50/107

50.「男が出来たって」――専務を振った優子の決断。そして、氷の薔薇(妻)と向かうフィレンツェ再婚旅行。

それぞれの想いが交差した夜は、静かに幕を閉じた。


----


片桐は、常務室で、次年度の経営計画に目を通しながら考えていた。

水原伊織。

直接会って話をしたことで、彼に対するイメージを変えていた。

と、同時に、詮索をしなくなった。

それが、自分でも意外だった。


知ってしまえば、どうということもない。

絵里奈と巡り合い、結ばれる。そういう運命を持つ男だったのだ。


誰かが扉をノックする。

「ワシや~」

こちらの返事を聞かずに入ってくる。

「専務」

「片桐~、きいてくれや」

片桐は、応接用のソファを指し示す。

「どうした?急に?」

「あんなあ~優子がなあ…」


木崎が言うには、要するに、優子が別れてほしいと言ってきたそうだ。

「別れるも、なにも、最近は、金振り込んでるだけやねん」

「その援助をいらないと言っているんじゃないのか?」

「ここ数年、プライベートで会ってもいない」

「なら、余計にはっきりさせておきたいんじゃないのか?」

「まあ、せやねんけどなあ…いざ、こう、別れるって言われると、なんかなあ」

「…寂しいのか?」

「…まあな」

片桐には、意外だった。

遊んでいる女には困らないはずだ。

「なんつーか、最後には、優子んとこに帰るつもりやったんやけどなあ」

「理由はあるはずだろ?」

「…男が出来たって」

「なるほど」

納得はいったが、優子に男が出来たとは。

「相手は?」

「知らん」

「聞かなかったのか?」

「教えてくれへん」

「…また調べるつもりか?」

「今度は、片桐ちゃん、お前がやってくれんかの?」

片桐がため息をつく。

「…何故だ?」

「つれないのう…前回の水原さんの時は、ワシがやったけん」

「俺が頼んだとでも、言いたいのか?」

「そうはいっとらんが…」

片桐は、一呼吸おいた。

「分かった。中村部長の事を、少し調べておく」

「おお、そうこなくちゃな、親友」

肩をたたいてくる。

「ところで、用事はそれだけか?」

「あ、ちゃうわ、社長がこのあとの会議の前に話があるって、ワシと片桐ちゃん、来いってさ」

「それを早く言え」

ソファから立ち上がり、木崎と共に社長室へ向かった。


----


温かさが戻り始めた頃、絵里奈は長期休暇を申請した。

社員が自分の有給休暇を使い、好きな時期に五日間連続で休める制度だ。

土日を挟めば、実質九日間の休みになる。

会社に復帰してからは、これが初めての取得だった。

各支店長が育ってきたこともあり、大きな決裁が必要な時だけ片桐に連絡が入る。

絵里奈は、その段取りだけを整えて休みに入った。


----


「俺の会社にも、あったわ、その制度」

リビングのソファに隣に並んで座っている絵里奈に言う。

「そうなんだ」

「別に、連続で取らなくてもいいやつで、俺もあまり取得していない」

今回、この制度を取得したのは、新婚旅行のためだった。

いや、再婚旅行というべきか。

少し悩んだが、二人でフィレンツェに行くことにした。

伊織は、特にこだわりがなかったが、アパレルに詳しい絵里奈が行きたがったのだ。

革製品、テキスタイル、工房文化など、素材の美が豊富らしい。

主要な街なら、英語が通用する。

「こういう時、才女がいると助かるね」

「伊織、簡単な英語くらいは話せないと」

「今から、勉強したほうがいいか?」

「It’s not too late」

「え?」

「But you’re not much of a talker, so I’m a little worried」

流暢すぎて、何を言っているのか、全く分からない。

「あ…あい…キャン…のっと…」

「だめだ、こりゃ」

絵里奈は、荷物の整理を再開した。


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