49.「離したくない」――月明かりのスイートルーム。黒のドレスを脱ぎ捨て、白く染まる夜のRelight。
…えんもたけなわではございますが、そろそろお開きとさせていただきます…
司会が、アナウンスを始めた。
いよいよパーティーも終わりに近づいていた。
時間は22時近い。
伊織が席に戻ってきて、絵里奈の隣に座った。
「あれ、海斗と、中村さんは?」
「今、どこかで、なにかしてるんじゃない?」
「え?」
先程の優子とのやりとりを話す。
「…そんな感じだったんだ」
「…まあ、別に二人がどうなろうといいんだけどね」
「海斗、年上好きなんかなあ?」
その言い方が少しおかしかった。
「で、伊織、片桐さんに会ったんだって?」
「ああ、そうそう。荷物運ぶときにね」
「私も、酔い覚ましに外へ出たら、ばったり」
「今度は、キックでもした?」
伊織がからかうように言う。
「ばか」
優子が、篠崎を伴って戻ってきた。
親密そうに、腕を組み合っている。
そして、どことなく妙な雰囲気をかもしだしている。
「…優子」
「絵里奈ぁ…彼ったらねぇ…すごいの」
なにが、だ、と絵里奈は思った。
篠崎の頬に、明らかに唇の跡が残っている。
「…まだ、酔ってるの?」
「酔ってる…酔ってるかあ…そう、かも、うふふ」
「優子さん、とりあえず座ろ」
篠崎が言って、優子を椅子を引いて座らせた。
隣にいる伊織が横で絵里奈に囁く。
「明らかに、さっきと違うんだけど」
「…そうね、確か」
「…これは、ひょっとして」
「それ以上、言わない」
そう言って、伊織の唇にキスをする。
その瞬間を見ていた、優子が喚く。
「あ~、キスした、キス。私たちもしましょ、海斗」
「優子さん、ここじゃまずいって」
「い~じゃん」
じゃれつく優子と篠崎だが、片桐の席は空いたままだった。
――
宴が終わり、会場の照明が一段階落とされる。
絵里奈は、伊織と一緒に、関係者への挨拶を終えた頃、
スタッフがテーブルのグラスを片づけ始め、さっきまでの喧騒が嘘のように薄れていく。
絵里奈は、ふと空いたままの席に目をやった。
片桐の姿は、結局戻ってこなかった。
「……帰ったのかしら」
独り言のように呟く。
優子はというと、篠崎の肩にもたれかかりながら、眠そうに瞬きをしている。
「……優子、大丈夫?」
「だいじょーぶ……絵里奈ぁ、今日ね、ほんと、楽しかったの……」
言葉の端々がとろけている。
篠崎が困ったように笑いながら、彼女の髪をそっと撫でた。
「送っていきますよ。タクシー呼びますから」
「お願いね」
伊織が口をはさむ。
「どっかにしけこむ気だろ?」
「しけこむって…そういう風に言わない。篠崎さん、優子の事、よろしくね」
いろいろな意味を込めて絵里奈は言ったつもりだった。
「そのことについては、後で相談がありますが、今日はこれで…」
「海斗ぉ…へへ…」
篠崎は、優子を肩にかついで、会場の出口へ向かう。
伊織がそっと手を差し出す。
「俺たちも…行こうか」
その温かさに触れた瞬間、絵里奈はようやく息を吐いた。
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最上階へ向かうエレベーターに乗り、ボタンを押す。
エレベーターの扉が閉まる。
伊織はそっと腕を伸ばし、彼女の肩を抱き寄せた。
ゆっくりと顔を近づけた。
唇が触れ合う。
絵里奈が手を伸ばして、伊織の肩に回してきた。
伊織も、絵里奈の背中に手を伸ばし抱き合った。
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そこは月明かりが差し込むスイートルームだった。
伊織は、目の前の絵里奈しか考えられなかった。
黒のオフショルダーのドレスが、ベッドサイドの床に広がり、その傍には、黒のレースの上下が、ふわりと落ちている。
無造作に床に広がっているスーツの色が、部屋の色彩を豊かにしていた。
「絵里奈…」
艶やかな唇。
甘い匂い。
その瞳に吸い込まれそうになる。
離したくない。
「伊織…」
伊織の汗ばんだ肌の艶に、理性を手放しそうになる。
背中に回された腕の力強さに、身体が火照る。
自分の口から、自然と甘い蜜のような声が漏れる。
波打つ鼓動が伝わり、思考が白く染まった。




