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タガタメファンタジー~魔心導師は愚者と踊る~  作者: 南乗七史
第1章・希死念慮の亡者
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第9節・希死念慮の亡者~上

 愛野、真中と飯を食ってから一週間。いくつかの新情報があった。

 ひとつ、清水千佳は一年生の時に全テスト全科目1位だったというより、全科目ほぼ満点だったという事。

 ふたつ、家庭環境は平均的~平均より少し貧困だろうか。下に弟が一人。もしかしたら、今の成績を維持しつつ大学進学を視野に入れるなら夜職というのもありうるだろう。だが、アパート暮らしとの事で、家族にバレずに夜職というのは可能なのか? という疑問が残る。

 みっつ、中学生の頃はそこまで成績優秀では無く、極度の中二病だったという。アニメ等の影響というよりも、その方向性は未確認生物や都市伝説に偏っていたとか。石灰でグランドに魔法陣、のような非行はしなかったものの、一週間行方不明になって警察沙汰にまでなったら未確認生物が目撃された事があるという場所まで調査しに行っていたり、謎のアクセサリーを学校に着けてきて教師に没収されそうになった時に宇宙人との交信に必要だからと抵抗したとか、中々熱量が高い話も聞けた。

 一週間でここまで調べられたのは、三つ目があったからだ。清水と同じ中学だった人間は数人しか居なかったが、問題児ゆえに注目度が高ったのだろう。


 放課後の校舎を歩き回り、雑な思念体が数匹転がっていたため雑に処理し、教室に戻ってきた。空はほんのりと赤みがかっているが、運動部はまだまだ、叫ばなきゃ親戚でも殺されるんかってレベルで声を張り上げている。


 俺とは縁遠いその音をBGMに、自分の席でひとやすみする事にした。学校で軽く仕事をしたが、このまま家に帰るとまた晩飯まで働かされるかもしれないからだ。普段ならこんな事は絶対にしないんだからね。学校での仕事は簡単な奴ならだいたい休み時間で済ませるし、夕方帰宅後の仕事をサボりたかったら街まで行って満喫でサボったりしているのであって、わざわざ放課後に仕事してそのまま意味も無く校舎に残るなんて事、陰キャたる俺がしてるわけないでしょ、勘違いしないでよね。


 それにしてもむず痒い。ここ2、3日、学校内の思念体の様子がどこかおかしい気がする。倒しても残っているような感触があるのだ。思念体の気配が消えないというか、まんべんなく空気そのものが思念体と化しているような、そんな感覚。正直、少し嫌な予感がする。とんとん拍子に事が進んでいるから心がブレーキをかけようとしているのかもしれない。


 人あれば思念体有。そう言えるほどにあり触れた存在ゆえに、ひとつの思念体に一か月近くかけていれば、他の案件とブッキングするのは当然の事だ。またこちらも調べなければならないだろうか、と心配していたが、結果としてそれは杞憂だった。違和感の正体は、すぐに向こうから現れてくれたためだ。


「田亀彼方」


 誰かが俺の名前を呼んだ。俺の後ろのほうの扉付近から、女の声だ。聞き覚えは無い。

 いきなり人に呼ばれるという経験があまり無いため反応が緩慢になる。ゆっくりと振り向いているうちに、向こうが2、3歩こちらへ歩み寄る音がした。


 そこに居たのはショートボブの女だった。黒髪、黒目、身長低め、華奢。流石に見覚えがある姿。


 清水千佳が向こうから接触してきた。


「…………」


 実際テンパっている。愛野と真中が清水を探っている事がバレる、というのは、そこまでは解る。でも、何故俺に来る? それとも偶然という事もある。いったんシラを切る方向で進める。


「なんの用だ」

 その言葉に、清水は不気味で含みのある笑みを浮かべた。

「へぇ、誰だお前、じゃなくて、なんの用だ、なんだ」

 私の事知ってるんだ? と言いたげな揶揄うような声音。実際知っているが、どう誤魔化すか。

「人に興味がねぇんだよ。だから名前は知らん。てめぇが話しかけてきたから用件だけは聞いてやる」

「なんだ、残念、田亀彼方は私に興味があって仕方ないって信じてたのに」

 一歩、清水は俺へ歩みよる。

「随分自信過剰だな。ちいとばっか身の程に合わねぇんじゃねえのか」

「そうかも。少しならおさわり有りな夜も店でもそれなりに指名取れてるからね」

 おさわり有りなのかよ、あそこ。

「へぇ、驚かないんだ」

 またも揶揄うように言って、清水は一歩歩み寄る。


「あ、でも愛野さんとただならぬ関係みたいだから、流石にあの人には勝てないか。去年のあの人周りの事件以降、愛野さんの人間関係ががらりと変わったじゃない? 興味が絶えなくて調べちゃたの。そしたらすごい、あなたが一番異質でね。ずっと興味があったんだ、あなたの事」

 一歩、清水は俺へ歩み寄る。黒い瞳に斜陽が反射し、頬が赤らむ。どこか妖艶なその姿に戸惑ったのか、それともこの現状に混乱しているのか、自己分析が間に合わない。


「あーでも、愛野さんのほうは主に先生達への聞き込みとかで干渉出来なかったんだ。役に立てなくてごめんね? その変わり真中君のほうは沢山情報流してあげたから、それなりに私の事を知れたでしょ? 役に立ったかな」

 また一歩歩み寄る。お互いが手を伸ばせば届きそうな距離にまでなってふと思う。こいつはこんなに可愛かったか、と。


 揶揄うように細めた目。ほのかに上がる口角で描く妖艶な笑み。

「そう、真中君、すごいよね。いつもテストの成績良いでしょ。なのにあなたの手伝いなんてしてたんだね。だから調べてみたら、彼、中学の時、あなたと同じ学校だったのに、あんな事件が起きちゃって転校してるんだね。それで高校で合流して、あなたの手伝い。もう少し上の高校に行けただろうにこんな普通科高校に来て、運動神経も良いのに部活動はたまに顔出す趣味程度。それでバイトもしないで、あなたの手伝い。すごく仲良かったんだね」

「手伝いってなんのこった」

「あはは、今さらごまかさないで欲しいな」

 さらに一歩歩み寄る。どちらか一人が手を伸ばせば胸に届く距離。

「愛野さんと真中君が私の事を調べてるって解ったから二人を調べたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って思ったからさ、二人の人間関係を洗ったんだよ。それでさ、二人は交流関係が広いでしょ。表に出ている通りの人間関係内で私の事を調べてるなら二人だけのはずが無いって思ったんだ。それでも二人しか動いてない。なら、表に出ていない人間関係があるって思ったんだよ。そしたら正解だったから、私うれしくなっちゃって。それでたどり着いたのが、前々から興味があったあなただった」

 恍惚な表情を浮かべる清水。それはもう比喩でもなんでもなくエロい顔だった。興味があったって言葉が性的な意味に聞こえてくる。だが、それに乗じてこちらも興奮してやろうという気には当然なれるはずもない。


「睦谷町竜泉寺の僧侶の息子。宗派に所属しているはずなのにお恥宗派とはあまり交流が無く、その割には特定のお寺と親睦が深い不思議なお寺で一部では有名なお寺。妹さんが居るけど何か事情があるのかな、異常に喋らないみたいだね。透子さんは元気? 私は知り合いじゃないけど、知り合いに知ってる人が居て教えてくれたんだ、素敵な尼さんなんだってね。いろいろすごい経歴だよね。私ね、そんなすごい経歴だったり――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 自信を持って言うが俺は今ビビっている。愛野か真中に助けに来てもらわないと何も出来る気がしない。なんだこいつ化け物じゃねぇか。愛野と真中が清水を調べ始めて一週間だぞ、一人でどうすりゃそんなに調べられんだよ。

「…………ねぇ、田亀彼方」

 正直告白されんじゃね? という気持ちもある。そんなはずが無いのにその気にさせるのはこいつの表情としゃべり方、接し方の全てだ。いつの間にかまた一歩距離を詰めていて、座っている俺と立っている清水で、清水が両手を伸ばせば俺の頭を抱きしめられるし、俺はこの両手背中まで手を回して抱きしめて胸に顔をうずめる事も出来る距離感。こいつは俺に気があるに違いないと。全てがそう思わせてくる。


 そしてそれは、あわや実行かという所まで至る。

 俺は一応顔を上げて、清水の顔を見るようにしていた。目を離したらいけない気がしたからだ。だが、清水は両手で俺の頭をやさしく包み、向きを変え、自分の胸を見つめさせてきた。偶然ではない。手つきが、力加減が、俺を誘っている。


「――()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()


 声が頭上から降りかかってきた。つまり清水の口は俺の頭上なわけで、となると必然俺の目の前には……。いつの間にか関節も決められている。頭に手、肩に肘を置かれた上で腰と背中のもたれ具合のせいで力任せに立ち上がるのは無理そうだ。相手を怪我させない程度に力任せに突き飛ばすなんて芸当が出来るほど今の俺は冷静じゃない。


 もう無理だった。


「――絶」


 時間が止まる。


 正直時間が止まっているうちに目の前のあるか無いか微妙な胸を揉みしだいてやりたいところだがそんな勇気は俺には無い。接触しないようにその腕、その胸から抜け出す。ちくしょう、ビッチ怖い、ビッチ怖いよぉ……。とにかく20秒しか続かん貴重な技なんだ。今の内に逃げたいところだが逃げたら逃げたで面倒になる。


 俺はスマホを取り出す。絶の最中では動かない。だから教室内だが清水から距離を置き、絶を解いた。


「え」


 絶は解いたのに清水が固まる。俺はその内にMAINを開き、グループチャットに『教室。今すぐ』と打ち込む。そうしている間に居場所が見つかっており、目が合った。


 しばし呆然とする清水。当然だろう、目の前で抱きかかえていた人が消えたかと思えば、少し離れた場所に瞬間移動しているのだから。一方的に攻められる状態が続いていたし、援軍要請を出せた安心感もある。少しでも状況を整理するため、俺はひとまず両手を上げた。


「まずだ、勝手にお前を調べてたのは俺が悪かった。だがその理由は……今の俺が瞬間移動したのと合わせて、国家機密なんだ。悪いが後で誓約書を書いてもらう。国から偉い人がお前の所に来て口止めすっから、その点は諦めてくれ。勝手に俺を調べたお前が悪い」

「瞬間移動……口止め……国家機密……? 国家機密!」

「いいか、よく聞け、俺は」

「かみさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!」

 清水の発狂に遮られ、俺のターンは回って来なかった。ていうか待て、待て待て待て、はぁ!?


「やった! やった! やった! やった! 私、私、やった!」


 この女、泣いてやがる!! 半狂乱にガッツポーズを繰り返しながら大粒の涙を流す黒髪ショートボブの妖艶な女……いや元妖艶な女だ。


 なに、怖い、本当に怖いんだけど。だが動揺ばかりもしていられない。遥香ほど得意では無いが認識妨害の術をかけ、こいつの発狂が外に漏れすぎないよう制限する。とはいえ俺は直接戦闘の役に立つ術ばかり重きを置いて修行してきたため、結界や認識妨害のようなサポート術は本当に得意では無いのだ。もしかしたら、結界か認識妨害、どちらかも愛野のほうが上だと思う。


「超常だぁああああああああああああああああああああああ!!!!」

 変人だぁあああああああああああああああああああああああ!!!!


 怖いぃぃぃ……怖すぎるよほんともぉおお……。

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