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タガタメファンタジー~心が魔物になる世界~  作者: 南乗七史
第一章・希死念慮の亡者
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第7節・同級生を連れてくると見栄を張りすぎる母親ってなんなんだろうな

「さぁ遠慮せずに食べてね」

 と、食卓に皿を並べながらババァこと俺の母、透子が言う。


「やった、鶏大根!」

 愛野が手を叩いて喜ぶ。

「すみません、いただきます」

 真中は丁寧に会釈し、手を合わせる。


 俺、透子、遥香、愛野、真中の5人で囲む食卓。田亀家は今でこそ三人家族だが、元々は子供3~4人を想定していたらしく、テーブルが無駄に広い。祖父・祖母が生きていた頃は親戚の集まりの場になっていたが、両名が亡くなり親父が逮捕されて以降は、このリビングをこの3人以外が使う事はあまり無かった。そのためここに他人が居るというのがどうにもむず痒く、居心地の悪さを感じていた。


 丁寧に、しかしどこかガツガツと食事を進める愛野と真中。いつも通りの俺と遥香。その4人を楽しそうに眺める透子の顔が視界に入ってしまい、そこはかとない罰の悪さを覚える。この無駄に広いリビングに呼べる知人が二人のみで申し訳ない。俺は性格が悪いので友達は居ないし、遥香に至っては意味が解らんほどのコミュ障なので、宝の持ち腐れになっている。この点については諦めて欲しい。どうにかする気力も無いのである。


「透子さん、この鶏大根って何を変えているんですか? 真似してみたいんですけど、全然真似出来なくて」

 そう聞いたのは愛野ではなく真中だった。

「うふふ、これは出汁にこだわっているだけよ。そのお出汁だけで冷ややっこが食べられるくらい美味しいんだけど、地元の飲食店だけで需要と供給が合致してるから、スーパーでは買えないの」と、得意げな口調で透子は続ける。「因みにこのサラダのドレッシングにもそのお出汁を使っているわ」

「ドレッシングを作っているんですか!?」

 割って入る愛野。いや、鶏大根の話になったから聞き耳を立てていたのだろう。むしろ多分、真中は愛野のためにこの話を始めたのだ。


 真中との出会いは中学の時だ。真中周りの思念体が引き起こした事件に終止符を打ったのがきっかけ。だがその事件をきっかけに同じ中学には通えなくなり、引っ越した。だが高校で再開し、あの時の恩を返したいと名乗り出て、今に至る。しかしこれもこいつの過剰な気遣いなのだろう。七ツ森高校は睦谷町の隣町の高校。つまり俺達が通っていた睦谷中学から非常に近い立地のため、同じ顔触れは多い。あの事件をきっかけに中学校に居られなくなった真中が通うにはリスクがあるし、まずもって学力が似合わなかった。真中ならスポーツ推薦もありえたかもしれない。本当は俺に恩返しするためにわざわざ七ツ森高校を選び、その事を隠している。というのが俺の予想。いや、妄想だったりする。


 愛野との出会いは高校1年。その見てくれで思念体を欲しいがままに集め、その被害を受けていた。そこに、過剰なお人よしと自身の能力に見合わない責任感が合わさって面倒になっていた所を、俺が手を貸した。そしたらどうやら魔心導師のお勤めを善行か何かと勘違いしたらしく、俺の仕事を手伝うようになった。魔心導師の実態は決して善行なんかでは無い事は、いくつもの思念体討伐を通じて伝えてはいるのだが、思い込みが激しいやつでもある。その印象を正す事は、ついぞ今も出来ないでいる。


「それで、今の仕事はどうなのかしら。今日祓えたの?」

 食事と並行して、透子が切り出す。

「ぼちぼち行き詰ってる感じだな。つうかなんでてめぇが知ってんだ。現状の話なんてしねてぇだろ」

小蝶(こちょう)ちゃんに修行をつける度に一通り確認してるに決まっているじゃないの」

 小蝶、と言われ、一瞬戸惑う。そうか、普段愛野としか呼ばないから下の名前忘れかけていた。

「稽古つけてもらってる時にね、話すでしょ。あんた、絶対透子さんに情報共有しないし」

 ねー、と、透子と愛野が声を揃える。クソババァめ、餌付けでもしやがったか。

「いやぁ、解るなぁ。僕も母さんに深入りされると嫌だからね。あんまり喋りたくないというか、そういう年頃なんじゃないかな」

 真中が要らんフォローを入れる。その真向いで妹の遥香が小さく頷いていたが、お前は常に誰とも喋れないだけだろうが。


 不服そうなのは愛野だ。

「あたしは解らないなぁ、それ。だってなんていうの、雑談にもなるから暇つぶしにもなるし、相手をもっと知るきっかけにもなるし、情報共有出来て、一石三鳥!」

「どうでもいいが将来コンプラとか気ぃ付けろよ」彼氏とかに社内機密普通に漏らしそうこいつ。

「何がコンプラよ」愛野がジト目で俺を睨む。「今回の件に関してはあんたが報連相出来てないだけでしょ」

 はいはい、論破論破。


「で、どうなのかしら」

 透子に話を戻される。仕方ないので、飯を食いながら状況を軽く相談した。


「夜は夜の街で複数の思念体に憑かれてて、昼は学校で思念体に憑かれてる。またまた難儀な子を見つけたわね。よくやったわ」

 よくやった、じゃねぇよ。なんで人の被害を喜んでんだ。

「でもそれってあり得るの? 学校に居る時にあんな鎖みたいなのあった?」

 と愛野が聞く。この辺は自衛の範疇を超えると思って教えていなかったが、今回のケースでは知っといたほうがラクかもしれないと判断し、少しだけ座学を教える事にした。


「思念体は様々だ。少しでも分析が簡単になるように、ある程度分類出来るようになっている。大きく『型・式・種』だ。お偉いさんへの報告書提出もこれでまとめるように定義づけられてる」「あ、あんたが、ほ、報告書……?」「黙って聞いてろ」「はい……」「もっと細かく分けたがる奴も居るには居るが、魔心導師の中では型4つ、式4つ、種はその場その場でって感じで、動機や原因、加害の方向性で名付けらっる事が多い」

 味噌汁で喉を潤す。


「い、意外と難しい事してるのね……」

「適当だがな」

「適当なんだ……」

 実際、報告書なんざ適当でいい。この分類は本来、思念体への対処を間違えないようにするためのものだ。お偉方への報告は、本来の目的じゃない。

「因みに確か先日の夜のアレは『条件型受動式・金の亡者ババァ種思念体』と」

「ちょっと!? お偉いさんへの報告にしては汚い暴言入ってるけど、それ正式名称なの!?」

「型と式は定型文が決まってるが、種は無限にあるから魔心導師に一任されてんだよ。人の話は最後まで聞け」

「な、なんであたしが非常識みたいな言われようなの……?」

「ともかく『条件型受動式・金の亡者ババァ種思念体』と『条件型受動式・変態カスジジィのキモイ下心種思念体』この二つの併発だったと報告した」

「報告したんだ……よく怒られないわね……」

「怒られるわよ~、無視するけれど」

「無視するんですか!? ちょ、田亀、偉い人の注意を無視するのは流石にまずいんじゃないの!?」

「無視してるのは私よ。保護者として私が窓口に立って『前線に立てないから人に守られながらじゃないと何も出来ない人間と、前線に立って皆さんを守っている人間、どちらが優越的地位にあるか理解していらっしゃる?』って言うのよ。担当者さんが変わる度にそうしておくと資料再提出の依頼がぐっと減るから、やめられないのよね~」

「すごい、忘れかけてたけどちゃんと彼方のママだ……っ」

 何故忘れる事が出来るのか解らん。こいつは終始いつだって腹黒ババァだぞ。真中の正面に座る遥香が不思議そうに首を傾げていた。愛野が何を驚いているのか解らん、みたいな表情。多分俺も今そんな顔をしている。ていうか俺のママだとなんだっての。


「で、だ」

 話を戻す。この当たりは俺の仕事に必要ってだけで、深く覚えておく必要は無い。

「型は存在している状態を示し、4つある。『憑依・独立・分離・条件』が基本。憑依は本人に憑くもの、独立は本人から離れているもの、分離はひとつの思念体が複数に分離しているもの、条件はなんらかの条件が満たされた時に出現するもの、だな。つまり、憑依型じゃねぇ限り時間差で出たり消えたり、そこに居たり居なかったりは、普通にある」

「ほへ~、なるほどね。夜の街では夜の街でしか出てこない思念体、学校では学校でしか出てこない思念体に憑かれてるってわけね」

 と愛野は納得したようだ。


「そうなると、あの屋上の思念体はどういう名称になるんだい?」

 さらに根本へと話を戻したのは真中だ。結局ここを進めなければ話は進まない。

「分離型なのは間違いねぇ。あれだけ同じ形で違う思念体ってのは想定出来ないからな」問題なのはその先だ「思念体の行動や効果の発動条件を示し『能動・受動・達成・誘引』が基本だ。能動式は思念体のほうから動いて来る。受動型は待ち構えて来た奴に発動する。達成型は条件が揃うと発動する。誘引型は対象者を誘い込む」

 そこまで説明して、適当なオカズを食べて少し時間を置く。真中と愛野は頭こそ良いが、さすがに整理する時間が必要だろう。


 先に整理を終えたのは真中だった。

「そういえば前、噂話は思念体に密接に関わっている、と言っていたじゃないか。七不思議や都市伝説はどういう扱いになるんだい?」

 良い観点だ。

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 そう答えると、真中は少し考えて言う。

「トイレの花子さん」

 俺は少し考えた。

 所説あるが、学校の3階女子トイレ、3番目の個室を3回ノックし「遊びましょ」というと中から少女が現れて引きずり込まれるという都市伝説。

 少し考える。3番目の個室を3回ノックし遊びましょと呼びかけるという条件で発生し、花子さんは待ち構えているだけだから、

「俺なら……『条件型受動式願望種思念体』にするな」

 だが、

「あら、私なら『独立型達成式願望種思念体』にするわね」

 などと透子に否定され、少しムキになる。

「あんでだ。思念体はなんも達成してねぇじゃねぇか」

「生徒に3回ノックして遊びましょ、と言わせる事を達成しているじゃないの」

「それは条件だ。それをもって思念体が出現する。で、思念体は何もせず待ち構えてるだけだから受動式。だからトイレの花子さんは条件型受動式の願望種だ」

「いいえ、独立型の達成式よ。独立型の思念体としてそこに存在しない限り、誰もそれをやりに来ないじゃないの。思念体が居るから、その呪いをやりに来る子が居る。思念体はそこに居る。でも、3回のノックと遊びましょの呼び声が達成されない限りは何も発動しない。呪いが達成されない限りは発動しない。でも呪いが達成されたら発動して、生徒に悪戯をする。だから、トイレの花子さんは独立型達成式の願望種よ」

「…………っち。そうかもしれねぇ」

 分類ってのは難しいもんだ。


「ところで、願望種ってところは同じなの?」

 愛野が割り込んできた。透子が答える。

「都市伝説や七不思議みたいな噂話系は願望種でひとくくりにしがちなのよ。悪い事とかでも、そうあったら面白いなっていう願望の元作られて広がる事が多いから。『あの祠を壊してはならない』みたいなのも、始まりは本気の注意喚起でも、あの祠を壊した者には祟りが下る、って尾ひれがついて回る頃には、広めている人間は楽しんでいたりするから」


「じゃあ、例えばてけてけなんかは、分離型の能動式、願望種、思念体、あたりなんかはどうかな」

 真中が言うので、少し考える。上半身と下半身が分かれてて追いかけてくる都市伝説。

 透子を見ると目が合い、どこか満足げに頷いてきた。

「ああ、解釈一致だ」

「真中くんすごい、もうわかったの?」

「辛うじて、さ。でもそうなると、あの屋上の思念体はどうにも、複数の項目に合致してしまうのではないかい?」

「そこだ。現状だと情報不足で、消去法も出来ねぇ」


 そこで会話が途切れた。存在感の無い遥香が茶碗を置いた事で、テーブルの上の皿は全てが空になった。

「綺麗に食べてくれたわね、じゃあ、ごちそうさまでした」

 透子が言い、全員で言う。透子が皿をまとめだし、真中と愛野が手伝いますと立ち上がろうとするのを

「実は冷蔵庫にハーデス・ダッツがあるの……。食べちゃう……?」

 なんで普段食わねぇ高めのアイスがこのタイミングであるんだ、この見栄っ張りババァ……。

「良いんですか!?」と愛野が喜び「そんな、悪いですよ」と真中が遠慮を示すも「まぁまぁそう言わずに」と透子がごり押しする。その傍らで遥香が小さく拳を握っていた。


「用意しちゃうから皆座って待っててねぇ~」

 重ねた皿をいくつか持ってキッチンへ向かう透子。普段「さぁ運んで~」と手伝わせる姿を見ている俺からする共感性羞恥が沸き上がるほど空々しい。ほんと同級生を連れてくると見栄を張りすぎる母親ってなんなんだろうな。

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