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タガタメファンタジー~心が魔物になる世界~  作者: 南乗七史
第一章・希死念慮の亡者
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第5節・戦闘開始

 飛び降り自殺の思念体に関して、調べ始めてから一週間ほど経過した。が、結論から言うと何も解らなかった。俺は何もしていない。先日の夜の街みたいな感じで愛野や妹の稽古に付き合ってやったりはしていたが、そういう感じで普段通りの業務をこなしていただけだ。この飛び降り自殺の思念体に関しては完全にノータッチ。まるまる全て愛野と真中に丸投げ中である。


 当校、七ツ森高校は嬉し恥ずかし田舎の普通科高校であるが、現代の少子高齢化の被害はあまり受けていないらしく、開き教室の無い満員御礼。にも拘わらず全校生徒数は500に満たない、終始微妙な高校である。しかし俺達魔心導師にとってありがたいのは、生徒を調べる難易度も高くないという点。いや俺は調べないけどね?


 で、その一学年150人居るか居ないかの学校において、監視の目は密度が濃い。誰の目にも止まらない弱者を力をもった誰かが日常的に加害するというのは、どうやら難易度が高いのか、それともこの学校の功績ゆえか。ほとんどの生徒が誰かしらの監視下であるがゆえに、陰湿なイジメというものが発生しにくい。らしい。


 このあたりの心理的なんちゃらに関しての知見は俺には無いため詳細は省くが、当校にイジメは無い。これは、間違い無く言える、と、真中が言っていた。全校生徒と全教員の目を完璧に欺ける死角はこの高校には無い上で、一通り全カーストに確認出来たとの事。どうすりゃ一週間で450人前後の全校生徒に確認すんだと言ったら、真中は平然と「聞くべき人に聞けば解るだろ?」と言いやがった。聞くべき人に聞くって事が簡単に出来るならお前に頼む事などこの世にひとつもねぇよ。解らねぇから聞いてんだこちとら。コミュ障舐めんな。


 自殺もやむなし、みたいな、ひどい家庭環境の生徒も、今年の当校には居ない、と、愛野が言っていた。バイトに高校の許可が必要なのでその許可を貰いに行く、というついでに「私はお小遣いのためにっていうくだらない理由なんだけれど、世の中には親から強制されて働かされる子供も居るんだよね」とぼやいたら「そういう感じの子も居るには居るけど、()()()()()()()()()()から、思い悩むだけ今は無駄。それ以上を心配したいなら、沢山勉強して、他人にすら手を貸せる人を、今から目指しなさい。――というわけで愛野さんの将来はこの学校の先生なんかどうかな。他人の人生、救い放題」と教頭に交渉されたと言いやがった。もうお前に言う事なんざひとつも無いからとっととこんな変な世界から離れて幸せな一般人世界へ帰れ。八つ当たりだけどコミュ障舐めんな。


 ともかくだ。当校にイジメは無く、劣悪な家庭環境持ちも今の所発見されていない。まぁ、家庭環境に関しては、周りから見たら平気でも本人にとっては過酷みたいな事がよくあるため、いったん保留するにしても、そうなると、残る手段はひとつしかない。リスクがあるし、なにより怖いからやりたくなかったのだが、仕方あるまい。


「つうわけで、準備はいいな」

 放課後。夕焼けの赤がいつもより近く感じるのは屋上に居るからか。俺は眩しさに目を細める愛野と真中に言う。二人は声を揃えて言った。

「「おっけー」」

 この間の抜けた返事は真中からの感染だ。独特な語彙を使うやつが近くに居ると移るんだよな、関西弁とかもなりそうになる。


 屋上には今5つの影がある。俺、真中、愛野、そして、屋上から下を見る思念体と、それへにじり寄る思念体。ふたつの距離はかなり近づいている。


 俺の予想では、まずこの二つが重なる事がトリガーとなり、思念体は飛び降りるのだと思う。そして、その時に、思念体の主が現れ、そいつが飛び降りるという流れになるはずだ。よって


「あたしが階段で待ち伏せして、屋上へ上がろうとしている人を止める&顔を覚える。なんとしてでも。で、屋上に着いていく」

 と愛野はかけているダサい眼鏡をすちゃりと持ち上げる。気合入れてるとこ悪いけど、今回のその役割でお前その眼鏡要らないからね? 一般人にも思念体が見えるようになるやつだけど、お前思念体と関係無い役回りだし。

「そして僕は、愛野さんが誰かとの接触に成功したら、一つ目の合図を送る。彼方の戦闘が継続しているのに対象が屋上に来そうになったら、二つ目の合図を送る」

 と真中が髪をかき上げて言う。かっこつけてる所悪いけど流石のお前もそのダサい眼鏡をかけているとダサいんだな。

「で、俺が思念体を駆除する」

 簡単に言うが実際全く簡単じゃない。


 この二対の思念体は何度か除去しているが、戦闘には1分ほど掛かっていた。そして俺は、時間を止める術である絶が20秒程度しか使えない。だから、時間を稼ぐ必要があった。


 まずは、思念体をギリギリまで接触させ、飛び降りる本人をおびき寄せる。加減を間違えれば飛び降りは達成され、死人が出るだろう。それでもおびき寄せる。おびき寄せたそいつを愛野が声をかけ、誰かを確認しながら足止めする。誰が来るかも解らんのに来たやつを40秒以上足止めしろというのだ。存外難しいのではないだろうか。また、間違いがあってもいけない。違う奴の足止めをしたら目も当てられないため、確実に屋上へ登ろうとしている人間、つまり屋上へ続く最後の階段を上っている人間を、だ。廊下や下の階では、無論意味が無い。

 そして愛野が誰かと接触、つまり思念体を放つ主が誰か確認出来たら、真中が、思念体の真横で待機する俺に合図を送る。俺は戦闘を開始し――というような流れだ。これで決着がつかなければもう少し続くが、そろそろ頃合い。配置へ着くべきだろう。


「さあ、始めんぞ」

「「おっけー」」

 愛野は屋上から出ていく。真中は扉の前で、扉に耳を付けて待機。俺はポケットから魚の形をした醤油差しを取り出す。俺の血が入った醤油差し。そこから俺の血を取り出し、拳に塗り広げた。


 魔心導師は思念体に触れられる。そのため普通に殴り合いも出来る。そして俺は、というか田亀家の魔心導師は代々自分の血を操作する術を得意としている。血の剣を作ってそれで戦う~的なアニメで見るあれをやりたくて練習した事もあったが、出来なかった。空気中にふよふよ浮かせたり、爆発させたり、一瞬尖らせたり、みたいな、流動的な術だ。


 さて。


「…………」


 待つ。山に囲まれたこの町は、普段風があまり強くない。どの角度から吹いた風も、なにかしらの山に当たって遅くなるのだろう。だが、校舎の屋上という絶妙な高さが、半端な高さの山が防げる風の限界を超えているのか、嫌に風が強く感じる。柵・フェンスの無い屋上での強風。しかも思念体の一体は屋上の淵に立っている。風ひとつで体制を崩せばそのままお陀仏の状況。この作戦を実施すると決めた日にいちいち風が強いのだから、自分の運の悪さを呪いたくなる。


 まぁ、それは良い。今は


 ――コン。


 足元で石が落ちる音がした。見ると、真中が何かを投げた後の体制。すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()真中からの合図。


 一回目の真中からの合図。


 戦闘開始の合図。


 まず試みたのは、今にも飛び降りそうな思念体、こいつへのラリアットで淵から後退させる試み。この思念体を今後、仮に(おつ)と名付けよう。だが、やはり無意味。落は微動だにしない。金属を叩いたかのような感触に辟易しつつ、こいつの消し方は解っているのでさっさと切り替える。

 だから今まで通り。落に近づくこいつこそが倒すべき敵と再認識した上で、そうだな、じゃあ、こいつがこいつに()()触れたから()()なるって事で、こいつを()()と名付けよう。

 俺のミッションは、コウを数十秒以内に滅する事。


『ガッハァア!』

 コウが俺を敵と認知し、奇声を上げる。防衛本能のために抵抗を開始しようと、俺のやることは変わらない。殴りかかると、コウがその拳をガードする。受け止められた拳に着いた俺の血。その一部に破裂のイメージを乗せた事で、俺の殴打が爆発を起こし、コウの半身を吹き飛ばす。


 この一撃で駆除できなかった。となると、後はじり貧の行き当たりばったりばったりとなるだろう。

 コウが俺の手を危険と判断したらしく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その下から上へ、に専念された攻撃に対応するとなると、俺の攻撃、防衛の下から上へという向きに定まる。そうでなければ攻防一体のアクションが出来ないからだ。


 常時ならば、隙を見つけてそこを突いている段階だが、今回に限って隙が見当たらない。時間制限があるという焦りが俺の客観視を奪い、隙を見逃している可能性もある。


 まずい事を自覚する。俺は今、平静では無い。


 焦り、慌て、冷静さを欠いている。そのハンデキャップの中で、残り30秒以内に確実に勝つ方法。


 やむを得ない。


 俺は、右手の拳に残る予備の血を針の形へ変形し。自分の左手を突き刺す。

 そこから噴き出した俺自身の血に、念を込める。思念を宿す。


 俺が引き起こした俺の負傷。その返り血を浴びたコウ。


 そして俺は、自身の()()()()()()()()()()が爆発するようイメージ。


 破裂。


 俺の血を浴びた思念体は、俺の血が爆発した事で爆散する。


 足元に鉄製の何かが投げ込まれ、どこぞへと通り過ぎて行った。一つ目のサインとは異なる、およそ無音だが俺にだけ届くふたつ目のサイン。


 これで済んだかは分からない。不明瞭ゆえに、俺はやるしかない。


「絶」


 倒せたかもわからない思念体のために術発動。


 俺の絶の耐久時間、残り時間20秒。


 これで、人が一人、死ぬか生きるかが決まる。

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