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タガタメファンタジー~心が魔物になる世界~  作者: 南乗七史
第一章・希死念慮の亡者
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第3節・変態の義務

5限目は二人でサボり、可能な限りの調査・現存思念体の駆除を実施した。6限目には参加出来るよう教室へ戻ろうとしているところで、変態と遭遇した。

「おやおや、二人揃ってのエスケープなんて、嫉妬を禁じ得ない青春の気配を感じてしまうねぇ。可能な限りユニークな比喩で説明してくれるかな?」

見てくれはイケメンのくせに、舞台演技のような大げさな仕草で頭が痛くなるような表現をする、痛々しいタイプの変態。真中悟(まなかさとる)。愛野と同じ協力者の片割れだ。

「何言ってんだてめぇ」「ちょっと、ね……?」

俺も愛野も対応できず、ユニークな比喩無しで回答する。愛野よ、その返答は怪しさが増すから辞めなさい。しかし、この変態も本気でユニークな比喩を求めていたわけではない。真中は言質得たりと言わんばかりのどや顔で言葉を続けた。

「説明出来ない事情と。ふむふむそれはもしや青春の一幕という事かな?」

本当にやんわりと気持ち悪い言い回しが出来るこいつの才能よ。そこはかとなくオシャレな言い回しとも思えるから腹立たしい。が、真中のその発言で、俺と、おそらく愛野も事情を察した。周りの同級生達が少々ざわついているのだ。

「あほか。俺は中庭でサボってたんだよ。こいつと一緒じゃねぇ」「あたしも、ちょっと体調悪くて保健室で! その……空気読んで」

二人揃って適当なデマをでっちあげる。すると真中はつまらなそうにため息を吐いた。

「なんだ、つまらないなぁ。どうもさっきの昼休み中、誰かが開かないはずの扉を開けて屋上に出て行ったという噂が流れていてねぇ。てっきり屋上で誰かが逢引きをしていたんじゃないかと期待していたんだが……」なんの期待だ、なんの「どうやら、用務員のおじさんが屋上に出ただけ、という意見が事実だったようだ。みんな、残念ながら一番つまらない予想が的中だったみたいだよ」

真中の言葉に、周りに居た数人は「えー」だの「だよなぁ」だの言いながら解散する。その群れの中心に居る真中は周りにバレないようさりげなくこちらにウインクしてから去っていった。その様子を見てようやく察したらしい愛野は意図して俺に構わず、親しい人間が居るほうへ歩いて行った。


めでたく正しく一人になった俺は自分の机でつっぷし、周りに見られないようにスマホを操作する。ネットワークサービスのMAINで愛野と真中と俺の3人が業務的なやり取りのみをするグループMAINを開き、さきほどの事とこれからのミッションを書き込んでいく。


『飛び降り自殺をしたがっている人間が居る』

『誰かを調査して欲しい』

MAINは画面の形の都合上15文字で改行されて、長文だと読みにくい。だから小まめに、やや過剰な箇条書きを意識して書く。読みにくいからそうしろと、以前愛野に怒られたのだ。

次の文章を打っている最中にピコンと返事が入る。

『さとやん:というと?』

返事が早え。今書いてんだろ。因みにさとやんとは先ほどの変なしゃべり方のイケメン、真中悟のMAINでの登録名である。

真中はクラスが違うため今あいつがどういう状況かは見えないが、人に囲まれている状態なのはおそらく間違いない。このメッセージを他人に見られたらどうするつもりなんだ。という心配は無くはないが、まぁ、あいつの事だ、その辺はなんとかするだろう。


6限目が始まると同時に一通りを書き終え、スマホを閉じ、少し考える。

飛び降り自殺。自分は出来るかというと無論不可能だ。自殺したいという欲求がそもそも無い。辛い事が無いわけではない。この仕事をしていると、投げ出したくなることも多い。いや、なんなら常に辞めたい。本当にこの仕事はクソなのだ。何がクソって人の汚い部分を処理する排泄物処理みたいな仕事だからだ。汚い部分を嫌というほど見せつけられて「なんでこんな奴ら助けないといけないんすか、え?」となるのだ。そんな心持ちでなお人助けをしなければならない環境に置かれてなお、死にたいとは思わない。強いて死にたいと思った事があるとすれば妹の遥香(はるか)にスマホの履歴を見られ前日のオカズの内容を知られ、それを母親の透子(とおこ)にバラされた結果ネタにされた、あの忌まわしき中3の頃くらいだろうか。あの時は流石に死にたいと思った。日本は法律を改正し、健全な学生男子のオカズを詮索したり揶揄したりする行為はDVにカウントすべきだと思う。

しかし思えばあの時も、死にたいと思ったのは初日だけで、二日目以降は殺意になった。人間、自分のキャパシティーを超えた感情は他人に向かうようになっている。相当強い自制心か事情が無い限り、逃げ出すか他責に走る。そして人間は誰しもが脆い部分を持っている。


思念体に至るほどの自殺願望。

その感情が自分に向かない可能性とは、なんだ。




七ツ森町にあるから七ツ森高校。永峰郡(ながみねぐん)七ツ森町。俺の家は永峰郡睦谷町(むつやちょう)にある。歩いて20分程度の隣町だ。永峰の七ツ森だ睦谷だのという名の通りたくさんの山がある田舎だ。ぱっと見「それを山という事にするかね」と思うくらい小さい丘とかも合わせれば、まぁ確かに七つや六つの山や谷がありそうかな? くらい凸凹な土地である。そしてそのしょっぱい山のうちのひとつが俺の家だ。

山に直接住んでいるわけではない。山の上に寺がありそこで生活していて、その山がまるまる田亀家の山というだけだ。山の上の寺が家なので無論毎日階段を上っている。数えた事は無いが、100段から200段くらいか。軽いトレーニングだ。参道を進み鳥居をくぐると正面には寺。魔心導師の仕事のためのフェイクと言いつつ、実際は剃髪こそしていないが母親が尼僧(にそう)(尼さん)をやっている。先祖代々この山や寺を引き継いできたクソ親父は悲しい事に現在警察にしょっぴかれて牢屋で冷や飯を食っているため、現状この寺の主は田亀家に嫁に来た母親の透子という事になる。


参道から右に逸れた先に家族用の出入口がある。

「おかえりなさい」

玄関を開けると、ちょうど透子と出くわした。袈裟を着た妙齢の女がお茶の入ったピッチャーとコップ3が乗ったトレーを持って、リビングへ引き返そうとしている所だった。

「来てんのか」

「ええ、お茶出しといたわよ。驚かないってことは何かあったみたいねぇ。頑張ってね」

コップが三つという時点で解っていたんだろうにわざとらしくそういう透子。俺は返事をせず、自分の部屋へ向かう。すると、

「やぁ」

俺の部屋の真ん中に座ってスマホを眺めていた男が手を振ってきた。黙ればイケメン喋れば残念、少し動けば変態野郎の評価を意のままにしている男、真中悟だ。同じ学校から直帰した俺より先にここに居るのは、こいつが自転車で俺が徒歩だからだ。俺は徒歩でも通える隣町だがこいつは違う。中学は途中まで同じ睦谷だったが、諸事情あって少し遠くへ引っ越している。んで、諸事情あって俺の手伝いのために通っているわけだ。だがそういえば、ここへ来る途中自転車を見かけなかった気がした。

「チャリは?」

「普通に下に止めてあるよ? いつも停めていた所に木の枝が伸びてきててさ。毛虫とか怖かったから、少し遠くに停めているけどね」

なるほど、と理解はしたが、返事が必要なほどの会話でもあるまい。黙って適当に転がっていた座布団を畳の上に放り投げ、学生鞄を放り投げ、息苦しい学生服から部屋着へと着替えていく。

因みに、口調こそ馴染んでしまっているが学校の時の舞台演技のような大げさなしゃべり方はしていない。学校とこの場とで少しだけノリが違うのも、こちらの諸事情だ。

「ズルいなぁ。僕は学生服のままだっていうのに、自分だけラクな恰好になるなんて」

だったらお前も着替えて来い、とは無論言わない。

「息苦しい思いしてるやつに配慮しろっつって皆息苦しくしろってか?」

「ほら、配慮が無いとインターネットで燃やされてしまうよ」

「いやまずネットに上げんな」

「何も僕とは限らないよ。壁に耳あり障子に目あり」「とか言いながら人んちの襖で遊ぶな」「素知らぬ誰かに見られているかもしれないじゃないか」

「だとしたら人んちに不法侵入してる奴に配慮を問われたくはねぇな」

「確かに」

くだらない会話をしている間に着替えを終えて真中のほうへ視線を向けると、右手に2つのペットボトルを持ってこちらに見せつけてきていた。片方はコーク・コーラ、片方は微糖のコーヒーだ。

俺が少し考えてから「コーラ」というと、真中は「出世払いで頼むよ」と言いながらコーラをこちらへ差し出してきた。


「しかし大変な状況みたいだね」

俺が選ばなかったほうの微糖コーヒーを鞄に戻しながら真中が言う。

「大変なのかはまだ解らん。初めてのパターンだからややこしいってだけだ」

「それを大変って言うんじゃないかな」

「ぱっと見複雑だが蓋を開けたら簡単でした、なんて事は、この業界やまほどあるからな」

「なるほどね、そのあたりの経験は僕にはまだちょっと解らないな」

「解かんなくて良いっつうの。お前の場合、基本は学生時代だけの手伝いなんだから」

愛野は思念体に対して自衛手段が身につくまでは面倒を見たほうが良いだろうが、こいつは違う。自身の振る舞いを工夫してそもそも他人から思念体を向けられないようにしており、それはおおよそ成功している。成功報酬は支払うのでバイトみたいなもんだが、義理としては今すぐ辞めても構わない状態なのだ。と言っても、人をアゴで使う事のラクさを覚えてしまった今、協力者が居ない去年の春以前に戻るのは無理だろう。

「おいおい、つれない事を言わないでくれよ。苦労は買ってでもしろって言うだろう? 貴重な大変な思いは人と分け合うべきさ」

真中あるある。逆お為ごかし。相手の為にやろうとする事を自分の為かのように言う。逆の使い方をすれば

「詐欺師の手法やめろ」

「もう少し手心のあるツッコミはなかったのかい?」


そんなやりとりをしていると、襖の向こうから足音が近づいてきた。

「おまたせー」

襖を開けて入ってきたのは愛野だ。学生服からジーパンとジャージ素材の羽織り物。ぱっと見は動きやすそうな恰好だがジーパンがパツパツのケツや太もものラインが全部見えてるしなんなら下着のラインも見えてるやつなので普通にエロいし動きにくそうに見える。ここに来るようになった最初の頃、畳に不慣れな愛野がしょっちゅうパンチラをサービスしてくれていたのだが、不覚にもバレてしまい、それ以降は着替えられる時はパンツルックに着替えてから来るようになった。しかしエロ防止でパンツルックにしているはずなのに平然と下着が見えてる今みたいな服装やホットパンツやらローライズでパンツを見せてくれたりしているのでよく解んねぇんだよな、こいつ。


「お疲れ様。どっちにする?」

真中が2つのペットボトルを鞄から取り出す。微糖のコーヒーと無糖のレモンティーだ。

愛野は迷わず

「ありがとー、じゃあこっち」

と、無糖のレモンティーを受け取りに自ら赴く。自分の鞄とレモンティーで手がふさがった愛野の変わりに、真中の後ろにあった座布団を用意する。偶然ではなく、俺と、真中と、愛野で三角形に向き合える配置だ。気が利くんだよなぁ。便利すぎてこのまま雇いたい気持ちも無くはないが、この器量だ。普通に働けばかなり稼げる人材になるだろう。俺の雑用係で人生を使わせるわけにはいかない。将来大企業で出世間違いなしの大学生によってやたら優秀なアルバイトがポンと期間限定で生えてくるのは仕事あるあるだろう。過度な期待はしないに限る。


愛野が腰を下ろす。

さて

「んじゃ、例の思念体について、作戦会議だ」

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