表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タガタメファンタジー~心が魔物になる世界~  作者: 南乗七史
第一章・希死念慮の亡者
2/11

第2節・適材適所

 思念体はこちらが攻撃をしない限り、基本的には反撃してこない。ただし、何が攻撃と判断されるか解らないため、念のため触れないように注意しながら観察する。まずは扉の前に立つ思念体。心無しかさっきより扉から離れている気がする。棒立ちのまま動いていないため気付けなかったようだ。

「ちょっとだけあっちの思念体に近づいてない?」

 愛野も気付いたらしく、そう指摘する。確かに、移動した先には屋上の淵に立つ思念体がある。

「ていうか、いつもみたいにぱっぱと倒しちゃえばいいんじゃない? 復活するやつだったら改めて調べる、みたいなのはしないの?」

 その指摘はもっともで、思念体には問答無用で駆除すれば再発しない・解決するパターンもある。本当に長年積み重ねた感情が至った思念体だと、駆除した瞬間に思念体を発生させていた人間の心もすっきりする、みたいな事もある。憑き物が取れたように、というやつだ。愛野が言った通り、いつもの俺ならそうしている。

「ああ、実はそれもうやってんだ」

「え、知ってたって事?」

「あっちの淵に立ってるやつはな。2回駆除したが、数週間くらいで復活してる」

「言ってくれれば良かったのに」

「手詰まりになった所に都合の良い女が来たから使ってやってんだ」

「言い方が最低すぎる……」

 そういうわけで、またぱっぱと倒して終了、というわけにはいかないのだ。こうなると、何故駆除出来ないのか、その理由の解明と排除が必要になる。それに

「お前が来て速攻で変化が起きた」

 俺は扉の前に立つ思念体を一瞥して言う。こいつは、俺が屋上に来るようになってから今まで一度も発生していない。新しい情報だ。タイミング的に偶然とは思えない。愛野がここに来た事がきっかけに、何がそこまで変わる?


 昼休み終了のチャイムが鳴る。さきほどの予鈴の時点で諦めていたためそこは構わないのだが、せっかくだからもう一人の協力者も呼び出そうかとも考えていたため、その選択肢が消えた事に小さく舌打ちをする。愛野は直観や感情的な部分は悪くないが、シンプルに頭の良さは真中(まなか)のほうが上なのだ。


「あれが飛び降り自殺をしたいと考える思念体として」俺は屋上の淵に立つ思念体を指さして言い、その指をそのまま扉の前に立つ思念体へと動かす「じゃあこれはなんだ? 魔心導のあるある的には、これがあれに接触すると飛び降り自殺が実行に至ると考えられる」

 整理を兼ねて愛野にそう問うと、自身のこめかみを人差し指でつつきながら言った。

「自殺したいって感情が、そこまで複雑になるのかな」

「それだ」

 俺の質問への回答とは少し違うが、悪くない観点だったため素直に認める。

 自殺なんてしてはいけないが自殺したい、という思念体は、魔心導師の中ではあるあるだ。日常業務のひとつと言っても過言では無い。それくらいありふれているし、その思念体は総じてシンプルだ。思念体の駆除をすれば大抵解決するし、根深い奴でも原因を解決してやった上で駆除すれば解決する。極地とも言える強すぎる感情がゆえに、その構造はシンプルな事が多い。こんな複雑になる理由が解らない。なんというか、

「筋が通らねぇんだよな」

 そう、筋が通らない。


 整理がてら考える。

 物事には自責と他責という言葉がある。簡単に言うと物事に対して自分の責任とするか他人の責任とするかの違いだ。そしてその自責・他責にも種類がある。原因と解決だ。

 物事の原因に対して自責か他責か。物事の解決に対して自責か他責か。自殺したいと思うに至った原因については不明だが、少なくとも自殺する事で解決するというのは自責になる。そのため、自殺したい人間の思念体は今まで例外なく自分に向く。自分自身に憑依するような形で発生し、憑依が完了すれば自殺実行。これが俺が見てきた王道だった。しかしこの思念体は違う。どう見ても飛び降り自殺したがっているようにしか見えないが、自殺したいと考えている本人の場所へ移動しようとしていない。


 整理していた内容が声に出ていたようで、愛野が呟いた。

「自殺がその、解決の自責? っていうのはどういうこと? あんまりぱっとしないというか、責任取ったわけじゃなくない? って思っちゃう。なんていうか、残された人からしたら、何も解決してないっていうか」

 言われ、愛野の顔を一瞥する。面が良い。眼福だ。癒しを一つまみ頂いてから思念体へと視線を戻し、答える。

「残された人のあれこれは、その人の自殺を原因とした違う話になる。例えば原因がイジメなら、そのイジメをなんとかするまでが、イジメの解決だ。そして自殺は、世間や学校に解決させる他責とは違って、一応、自分のアクションでもってイジメを終わらせている。だから、自責って判断でいいだろ」

「なるほど?」

 納得していないのか理解していないのかよく解らないリアクションをされた。俺も説明は得意ではないから、その辺は諦めるしかない。


「また動いてない?」

 少しずつすぎて気付かなかったが、どうやら扉前の思念体がまた淵に立つ思念体のほうへと近づき、既に扉前の思念体とは言えない程度には扉から離れていた。このペースだと、あと4~5時間前後でふたつの思念体は接触するだろう。放課後より少し遅いのは

「部活後くらいに何かが起きるって事だよね?」

 そういう事になる。


 俺達が通う七ツ森(ななつもり)高校は部活動が強制では無い。となると

「普通に部活動してて、部活終わった後に飛び降りるってか。なんじゃそりゃ」

 思念体になるほど思い詰めているなら、真面目に部活動なんてやってられない気はするが……。

「真面目な人だと本当にギリギリまで自分を追い詰めちゃうから……」

「あー、そういうのもあるか」

 理屈では解るが共感出来ないため考えつかなかった。

「嫌なら嫌でさっさと逃げだしゃいいもんを」

「そういう判断が出来ない人が居るんですー」

「その程度の判断力も身についてねぇなんて、この年まで何して生きてきたんだ」

「その年でそんな捻くれた考え持ってるあんたのほうがずっと変な人側だから。自分常識人側です、みたいな物言いしないで?」

「それもそうか」

 自分の境遇を考えれば、外れ値なのは俺だろう。実際今も、人が死ぬかもしれない可能性を目前にして平然としている。とりあえず思念体同士が接触する前にいったん駆除して、次に発生するまでに調査を進めて、改めて解決すれば問題無いと考えている。失敗すれば人が死ぬ、なんていう恐怖は無い。失敗すれば、それが初めからそういう運命だったという事になるだけだ。


「接触の時間が予想出来たのはデカいな。あと調べるべきは……愛野、なんだと思う」

 俺の中に考えはあるが、教育も兼ねて愛野聞く。

 俺の仕事の協力者である愛野と真中は同じ境遇だ。本人の魅力と性格のアンマッチが原因で思念体の被害を受けた。真中は面白い方法を使う事で実際に思念体が近づいてこないよう対策しているが、愛野はそこまで器用じゃない。思念体に近寄られないよう対策が出来ないなら、自力で思念体に対処出来るようになる必要がある。だから、愛野に対し、俺の母が結界等の術を教え、俺が立ち振る舞いを教えてるわけだ。

 愛野は少し考え、丁寧に答えた。

「えっと……思念体の発生源と……対策?」

 何故愛野が来た瞬間にもう一体の思念体が現れたのかの検討も出来れば良かったが、まぁ及第点だろう。

「そんなとこだ。で、どうすりゃいいと思う。これが飛び降り自殺を促す思念体だと、いったん仮定するとしてだ」

「えー……。イジメとか、家庭の事情とか、自殺したくなるような事情を抱えてる人を探す」

「そうだ。どうやって探す?」

「うん……聞き込みとか……」

 そこで続きを察したらしい愛野の目に軽蔑の色が混ざり始める。構わず、得意げに続ける。

「そうだ、聞き込みが重要だ。だがここでひとつ問題点があるな。解るか?」

 愛野が解っている事を解っているので、わざとらしく聞く。愛野は俺の意思を受け取り、深いため息をついた。

「はいはい。真中くんにも頼んで、あたしらで調べますよと」

「うむ、苦しゅうない。よきにはからえ、労働力」

「……この男は……」

 人と話すの嫌いなんで押し付ける。適材適所というやつだ。そもそも俺のコミュニケーション能力をどう駆使すればこの学校の関係者全員の自殺願望の有無を調べられるのか、全く思いつかん。教師の弱み握ったり恩を着せて生徒の個人情報を提供させるとかしか思いつかん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ