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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「しの字嫌い」

作者: 霧夜シオン


落語声劇「しの字嫌じぎらい」


台本化:霧夜きりやシオン@吟醸亭喃咄ぎんじょうていなんとつ


所要時間:約20分


必要演者数:2名

      (0:0:2)

      (2:0:0)

      (1:1:0)

      (0:2:0)


※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品

 に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。

 それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。



●登場人物


主人:権助ごんすけの主人。何かと理屈っぽい権助ごんすけになんとかしてぎゃふんと言わ

   せようとあれこれ企む。


権助ごんすけ口八丁くちはっちょう手八丁てはっちょうとはまさにこの男の為にある言葉。

   主人の難題もなんのその、さらりと正論パンチ。


●配役例


主人:

権助:



※枕はどちらかが適宜てきぎねてください。



枕:よく、強情な人と言うのがありまして、人が右と言うと左、温かいも

  のを冷たいというように、逆らうのが面白おもしろいなんという、こういう

  手合てあいが一番扱いにくいと言いますが。


主人:おいおい、権助ごんすけや、おい権助ごんすけ、いま手はいてるか?

   じゃあすまないがちょっと火を起こしてくれ。


権助:火を起こしてくれ…へへへ、そりゃ旦那だんな様、「炭をおこす」だべ。


主人:なに?


権助:いや、火を起こせば灰になるべ、炭をおこすから火になるが、

   どうだべ。


主人:なんだい、また始まったよ。

   どっちだっていいじゃないか…まぁまぁ、お前の気に入ったように

   しなさい。

   炭を火に起こして、できたら煙草盆たばこぼんへ火を入れて持って来なさい。


権助:煙草盆たばこぼんへ火を入れるて、じかに入れると燃えるけんどいいべか?


主人:【溜息】

   なぜそういうバカげた事を言うんだ。

   煙草盆たばこぼんに火をじかに入れる奴があるか。

   火入ひいれが入ってるだろ。


権助:そんだら旦那だんな様、煙草盆たばこぼんへ火を入れるて言うからいけねえべ。


主人:ならなんと言えばいいんだ。


権助:「煙草盆たばこぼんの中の火入ひいれの中の灰の中へ火を入れる」。


主人:バカな事を言うんじゃない。

   そんな事がいちいち言えるか、


権助:言えるか、て、旦那だんな様ぁいう事が間違まちがってるべ。

   こないだも客人ござるで、旦那だんな様にはじかかすのも良くねえと思って

   なんとも言わねえが、でけえ声出して「権助ごんすけ提灯ちょうちんへ火を付けろ」

   なんてあんなバカげたことはねえべ。

   提灯ちょうちんへ火を付ければ燃えるべえに。

   それ言うなら、「提灯ちょうちんの中のろうそく立てにろうそくをさして、

   ろうそくの頭に火をつけろ」だべ。


主人:いい加減にしないか…!

   おい権助ごんすけ、まぁそこへ座んなさい。


権助:へえ。


主人:お前はね、あたしが何か用を言い付けると、

   いちいちぐずぐずぐずぐず理屈りくつを言うが、お前のは屁理屈へりくつと言うん

   だ。いいか、「煙草盆の中の火入ひいれの中の灰の中へ」て、お前の国

   は気が長いからそんな事を言えるが、こっちのは気の短いとこだ。

   「おい、それを取りな」「へえ、これでございますか」と、

   品物を言わなくても「それ」「これ」でも用が足りるんだ。

   言葉の無駄むだはぶいて早く用を済ませた方がいいんだ。

   わかったか?


権助:はぁ、すると「それ」「これ」でもええから、はえぇ方がええと。


主人:そうだ、言葉の無駄むだはぶくんだ。


権助:すると、旦那だんな様の言葉はおおかんべえ。


主人:また始めやがったぞ…。

   何が多いんだ。


権助:そんだら煙草盆たばこぼんを持ってこいって言えばそんでよかんべな。

   煙草盆たばこぼんと言えば火のねえ物を持ってくわけがねえ。

   旦那だんな様みてえに煙草盆たばこぼんの中へ火を入れてこいって言うからいけねえ

   。

   まあ、中へ火を入れてこいてぇのが言葉の無駄むだてもんだべな。

   してみると旦那だんな様の国ではそういうんだべか。


主人:何を言うんだ。

   もう用はない、向こう行け向こうへっ。


権助:へい。


主人:…。

   どうしてああも嫌に強情ごうじょうな奴なんだか。

   一言いえば「そうじゃない、これはこう言う理屈りくつだ」などと…。

   まったく、しゃくにさわってたまらない。

   しかし役に立っていい所もある。

   ひとつギュッと目に合わして、「これからもう理屈りくつは申しません」

   と言わせてやりたいが、何かないものか…。


   【二拍】


   そうだ、よし、この手でいこう。

   権助ごんすけ権助ごんすけ

   ちょいと来てくれ!


権助:【遠くから】

   へぇい。


   旦那だんな様、呼んだかね?


主人:用があるから呼んだんだ。


権助:聞こえたから来たべ。


主人:…掛け合いみたいなこと言ってないでそこに座んなさい。


権助:へい。


主人:お前に聞くんだが、て物はできるか?

   どうだ?


権助:え?


主人:て物はできるか?


権助:「て物はできる”か”」?「か」だとこの野郎。


主人:っなんだお前、主人に向かって。


権助:そうだんべ。

   「か」なんてのはうたぐりの言葉で、良くねえんだ。

   気ぃつけなきゃダメだべ。


主人:なんだ?主人のあたしがお前に小言こごとを言われてるよ。

   じゃあ、「できるの」?


権助:まぁ、天地の間におらができねえなんて事はねえべ。


主人:大袈裟おおげさな事を言うな。

   何でもできると言ったな?えらいえらい。

   さ、やってみなさい。

   【手を三回叩く】

   いま手を叩いたが、右が鳴ったか左が鳴ったか、当ててみなさい。


権助:どっちが鳴ったかって、そりゃあいけねえべ旦那だんな様。

   手は叩けば鳴るもんだ。

   右だけでも左だけでも鳴らねえ。

   【手を叩いて】

   両方合わして音が鳴るもんだべ。


主人:強情ごうじょうを張るんじゃない。

   かたっぽは鳴ったんだ。

   どうだ恐れ入ったか?負けるか?


権助:別に負けもしねえべ。


主人:おいおい、どこへ行くんだ。

   逃げるのか?


権助:逃げるわけでねえ。

   よっ、と。

   そんなら旦那だんな様に聞くけんど、わしァいま敷居しきいの上に立っとるべ。

   これ、前へ出るか後ろへ引っ込むか、先に当ててもらいてえ。


主人:あたしが前へ出ると言えば後ろへ、後ろだと言うと前へ出ると言う

   んだろ?


権助:それとおんなじ事だべ。

   わしが右が鳴ったって言うと旦那だんな様はいや左だ、

   左だって言えば右が鳴ったって言うべ。

   まあ、こりゃ水掛みずかろんてやつでダメだべ。

   どうだ旦那だんな様、一本とられたべ?

   参ったべ?


主人:【小さめに】

   ……まぁいい。


権助:え?


主人:まぁいい。


権助:いや、「まあいい」ではねえべ。

   参ったべ?って聞いてるだ。


主人:っ…どうでもいいよ!


権助:いや、参ったら参ったとはっきり言うべ。


主人:嫌な奴だな、ほんとに。

   はっきり言えなどと言いくさる。

   【投げやりに】

   じゃ、参ったよちくしょう!


権助:へへへ、はじめっからそう言えばいいべ。


主人:おぉいおい、待ちなさい。

   お前にもう一つやらせることがある。


   湯呑ゆのみに茶がいである。

   これを飲めるか?


権助:え?


主人:茶を飲めるかと聞いてるんだ。


権助:湯呑ゆのみの茶ぐれえ、誰でも飲めますべ。


主人:ただ飲むんじゃない。

   こうして上からふたをする。ふたの上から飲みなさい。

   どうだ?


権助:…へへへ、おもしろそうだべ。

   どれ…。


主人:いや、ふたをしたまま飲むんだぞ。


権助:へへ、ふたの上から飲むのは分かっとりますべ。

   だけんどこれ、茶が入っとるからダメだべ。

   わしァにげぇ茶はダメなもんで、湯でも水でもいいから入れ替えて

   もらいてえべ。


主人:なに、湯か水ならいいのか。


権助:湯か水ならええが、にげぇ茶てのはわしァダメだべ。


主人:うるさい奴だね。

   まったく、なんのかんのと…。


権助:【↑の語尾に喰い気味に】

   あぁっと旦那だんな様、それ、ふたを取らずに湯を入れてもらいてえべ。


主人:なに?

   ふたの上から湯が入るわけないだろうが。


権助:入らねえ湯は飲めねえて理屈だべ。

   いやぁ気の毒に…また参ったべ?


主人:~~ッッ!!

   ッいいよ、参ったよッ!


権助:へへへ…旦那だんな様も下手へた剣術家けんじゅつかみてえに参った、参ったって…。

   じゃ、わしァこれで。


   【二拍】


主人:…ッちきしょっ…!

   下手へた剣術家けんじゅつかだって、言う事がいちいちしゃくにさわる奴だよ!


   悔しいね…こうなってくると人間、意地いじになるって奴だね。

   なんかひとつ、あいつをまごつかせるような事は無いもんかね…?

   何かぎゅうっと困らせることができるようなのは…。


   【二拍】

   【ぽんと膝を叩く】

   そうだ、困らせるで思い出したぞ。

   その昔、太閤殿下たいこうでんかのおそばにいた、曾呂利新左そろりしんざえもんという御仁ごじん

   が、「しり」という言葉を封じられて困ったという事をなにかで

   聞いたな。

   ふーむ、「しり」という言葉はせまいな…何かないかね…。


   そうだ、「し」の字を封じてやろう。「し」という字はよく使うぞ

   。「ああしましょう」「こうしましょう」とかな。

   ふふふ、これならいくら強情ごうじょうな奴でも驚くだろうよ。

   権助ごんすけ権助ごんすけや!


権助:へい。


主人:ちょいと来なさい!


権助:へえ。

   へへ、またものかなんかで?


主人:余計なことを言うよこいつは…。

   ものじゃない。

   お前に言っておきますが、うちでこれから「し」の字というものは

   今後一切使わない事に決めたから、いいかね?


権助:え?なんておっしゃいましたべ?


主人:「し」の字は使ってはいけないよ。


権助:はあ、なんでだべ?


主人:「し」のつく言葉てのは縁起えんぎが悪い。

   「死ぬ」「しくじる」「始終しじゅう幸せが悪い」という。


権助:そりゃあ旦那だんな様、「死ぬ」だの「しくじる」と言うからいけねえべ

   。「死なねえ」「しくじらねえ」「始終しじゅう幸せがいい」て、そう言え

   ばいいべ。


主人:そう言えばそうだが、嫌いなものだから言っちゃならないんだ。

   「し」の字は他に読みようがあるから、それで事がりる。

   いいか、分かったかい?


権助:そりゃまぁ、旦那だんな様が言うなて言うんだったら言わねえべ。


主人:あぁそうそう、もしお前が「し」の字を一つでも言えば、

   その月の給金きゅうきんはやらないから、そのつもりでいなさい。


権助:…ちょっくら待ってもらいてえべ。

   そりゃあダメだべ旦那だんな様。

   初めに奉公する前に「し」の字はなんねえがそれでええかって

   先にきしてりゃあええが、あと出しで給金きゅうきんやらねえなんての

   はダメだべ。


主人:じゃあ、できないのか?


権助:いや、できねえわけでは…


主人:無理なら無理でいいよ?

   お前には給金きゅうきん前貸まえがしがある。それを置いてひまをやるから、

   すぐに出ていきなさい。


権助:旦那だんな様、そんな無理はおっしゃったらいけねえべ…。

   どうあってもダメなんで?

   …じゃあしょうがねえ、言わねえ。


主人:なに?


権助:言わねえ。


主人:きっと言わないか?


権助:言わねえけど、旦那だんな様が言ったらどうするべ?


主人:あた「し」は決「し」て言わないよ。


権助:へへへ、いま二つも言ったべ。


主人:ぐっ…ならお前はどうなんだ。


権助:わ「し」ァ言わねえべ――あれ。

   こらぁ「し」の字が出るだね。

   まぁまだ決まってねえからいいべ。

   えぇと、わた「し」のーーあれ?わた「し」はダメだべ。

   わたく「し」のーーおぉ?

   わ「し」わたく「し」…へへ、こらァ困ったべ。

   なら「おら」でいくべ。


主人:まぁ何でも勝手にやれ。


権助:ところで旦那だんな様、おらァ言わねえが、旦那だんな様が言ったらどうする?


主人:さっきから言ってるだろ。

   あた「し」は決「し」て言わないよ。


権助:だから二つも言ってるべよ。


主人:~~ッ、決めて「し」まえばやあ「し」ないよ!


権助:いや、まぁた二つも言ってるでねえか。


主人:~~っだから、言わないよ!


権助:言わないよて言うけんど、言ったら?


主人:やあ「し」ない…ごほんっ。

   えぇ…言わ、言わないが、言わないがも「し」ぃえぇぁ…

   んんっ、えぇ、万が一にひょっと「し」てぇぁあ…


権助:ダメだこりゃ、のべつに言ってるでねえか。

   も「し」だのひょっと「し」てだの、旦那様の方があぶねえなァ。

   やめたほうがいいんでねえべか?


主人:うるさいよ。

   俺が、言えば、貴様に、なんでも、好きなものをやる。


権助:へえ、なんでも好きなものをけぇ?

   うほほ、そりゃほんにありがてえべ。

   旦那だんな様がその気ならよ「し」…

   へへ、こらいけねえや。


主人:さ、いつまでもきりがないから、決めるぞ。

   いいか。

   【手を二回叩く】


   【↓ここから二人とも言葉を気にしながら言う】


   さ…決まった。


権助:旦那だんな様の方で決まったって、おらはまだ決まらねえ。

   …手の中へ「し」の字を言わぬことと書いて…んっ。

   【手の平に人の字を書いて飲み込むアレです】


   …飲み込んだ。

   さあ、言わねえ。


主人;…言うなよ。


権助:…おらは言わぬが、われ言うな。


主人:化け、地蔵みたいなことを言ってるよ…。

   むこうへ、行ってなさい。


権助:へい。


主人:っおいおい、そこを開けたまま行く奴があるか。

   そこをーー【閉めて、と言いかけて危うく飲み込む】

   【閉めるジェスチャーをしている】

   っそこを、こうやれ。


権助:はあ、こうやるんだべ。


   【二拍】


主人:ふう、まずはこれでよ「し」と…あ。

   いかんな、すぐに「し」の字が出てくるな。

   こいつは良いようで悪いことを決めたぞ…。

   俺がそそっか「し」いのに、あいつが強情ごうじょうときて…むむむ。

   ん?権助ごんすけの奴、水をんでるな。

   【練習している】

   権助ごんすけ、水をんで「し」まったか…いや、「し」まったかはいけな

   いな。

   権助ごんすけ、水をんだか…うん、これでいいだろ。

   そうすればあいつのことだ、へえ、んで「し」めえま「し」た、

   と、二つも「し」を言うだろ。


   あー権助ごんすけ権助ごんすけ


権助:へい、旦那だんな様。


主人:水をんだか?


権助:へえ、水をんでーー【しめえやした、と言いかけて危うく飲み込

   む】

   …あぶねえ。


   水をんで、終わった。


主人:うまいなぁあの野郎、終った、てきやがったよ。

   強情ごうじょうりめ、なかなか言わないな。

   何か「し」の字を…あ。

   そうだ、バラせん五貫ごかんあるな。五貫ごかんじゃ具合ぐあいが悪いから、

   四貫しかん四百しひゃく四十文しじゅうもんきっかりを勘定かんじょうさせるんだ。

   それにいつも台所であぐらばかりかいてるような奴だから、

   ここで長く正座させて勘定かんじょうさせてやろう。

   そのうちしびれが切れてきて、足のしびれが切れました、となる。

   これで、「し」かん「し」ひゃく「し」じゅうもんにあ「し」の

   「し」びれで、「し」の字が五つだ。

   それとぜにさ「し」も入れて六つ言わせてやるか。

   これでいこう。


   権助ごんすけ、おい権助ごんすけ


権助:このたぬき野郎…言わせようと躍起やっきになってるべ。


   へい、旦那だんな様。


主人:ぁ~、ここへ、きて、銭勘定ぜにかんじょうを、やれ。


権助:ぉ~銭勘定ぜにかんじょう銭勘定ぜにかんじょうですかい。

   じゃあやるべぇ。


主人:これ!なんだその出ている、あ…あ…あ…

   【「足」と言いかけて慌てて止めている】


権助:お?


主人:あ…あ、あんよは。


権助:は…へへ、あんよ、かさねたべ。


主人:きちんと、あんよかさねて銭勘定ぜにかんじょうをやらかせ。


権助:銭勘定ぜにかんじょうやらかすか。

   旦那だんな様、これ、わらのままではダメだべ。

   きちんとぜにさーー【ぜにさ「し」と言いかけて慌てて止める】


主人:ぜにさ?


権助:へへ、わらをなってケツを結んだやつ。


主人:…強情ごうじょうな奴だ。

   これか?


権助:これこれ。

   旦那だんな様、言えるべか?


主人:俺は、言えない。


権助:旦那だんな様の言えねえものはおらも言えねえ。

   旦那だんな様の言えねえものをおらだけに言わそうったって、

   そうはいかねえ。

   旦那だんな様の言わねえものは…っ、…ッ…【足が痺れてきた】


主人:…権助ごんすけ権助ごんすけ、どうーーんんッ!【どう「し」たと言いかけて

   慌てて咳払い】

   どうか、なったか?


権助:おぉ~いて……。

   …きれた。


主人:きれた?何が?


権助:…よびれが、きれた。


主人:な、なんだ、よびれとは。


権助:おーいてぇ…へへ…、

   え~一貫いっかん二貫にかん三貫さんかんっ…【四貫しかんと言いかけて慌てて止める】、

   百二百三百ひゃくにひゃくさんびゃくっ…【四百しひゃくと言いかけて慌てて止める】

   十二十三十じゅうにじゅうさんじゅうっ…【四十しじゅうと言いかけて慌てて止める】

   一文二文三文いちもんにもんさんもんっ…【四文しもんと言いかけて慌てて止める】


   …野郎、たくみだな?


主人:なんだ、あるじに向かって野郎とは。


権助:旦那だんな様、ちょっくらそろばん置いてもらいてえべ。


主人:そろばん?ああ、いいぞ。

   で、いくらだ?


権助:えー、二貫二百二十二文にかんにひゃくにじゅうにもんと。


主人:二貫二百二十二文にかんにひゃくにじゅうにもん


権助:また二貫二百二十二文にかんにひゃくにじゅうにもん


主人:また二貫二百二十二文にかんにひゃくにじゅうにもん


権助:で、いくらだ?


主人:お?っ…お前がやるんだよ!


権助:おらがやれば、四貫四百四十四文よかんよんひゃくよんじゅうよんもんだべ。


主人:そんな勘定かんじょうがあるか!


権助:それでいかなけりゃ、三貫一貫さんがんいっかん三百百さんびゃくひゃく三十十さんじゅうじゅう三文一文さんもんいちもんだべ。

   【↑読みやすくするために句読点入れてますが、本来は連続で言い

   ます】


主人:この野郎、なんて「し」ぶとい奴だ。


権助:おぉ出た!旦那だんな様ァなんでもやるっていったべ。


   ならこのぜにァおらのもんだ。




終劇




参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)


三遊亭圓生(六代目)



※用語解説


煙草盆たばこぼん

江戸時代から使われてきた、刻み煙草を吸う際に必要な火入れ(炭火を

入れる容器)、灰吹き(吸殻を捨てる容器)、煙管きせる、煙草入れ

などをまとめて置くための道具のこと。盆の形だけでなく、箱形のものな

ど様々な形や装飾が施されたものがある。


火入ひい

タバコなどの火種を入れておく小さな器。


もの

隠しているものを言い当てること。また、言い当てた者に対して与える

金品や懸賞。


水掛みずかろん

両方が互いに理屈を言いあって解決しない議論。


太閤殿下たいこうでんか

豊臣秀吉のこと。


曾呂利新左そろりしんざえもん

秀吉の御伽衆の一人で堺の会合衆と呼ばれる豪商の一人。

実在の疑われる人物だが、その頭脳の冴えは鋭く、落語の祖とも伝わる。


・バラせん

漢字で散銭。

こまかいお金。


四貫四百四十文しかんしひゃくしじゅうもん

一貫→十二万円

一文→四十七.六円。

従いまして約五十万六百八十円なーりー。


・あんよ

足。


ぜにさし

百文(当時の慣習で九十六枚九十六文ぶん。足りない四文は手数料で

あったと言われる)を藁で編んだ紐で束ねた物。


※オチには主人が「し」ぶといと言った後に権助も「し」の字を含む言葉

 を言ってしまって痛み分けとなる場合や、主人がしぶといの後にさらに

 「し」まったと連続ミスしたりする場合もある。





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