1話 なんと立派な、人生文庫から「カエルの剣銃士様」
行った場所、出会った人、どう感じたか、どういう気持ちになったか、何をしたか、そういった5W1Hをすべて書き留める、一文字も漏らさぬように。人の再現、今、私は人の人生をすべて追っているのだ。順々と。これほど素晴らしいことはない。そうだろう。私は自分自身と彼女に問いかける。答えは変わらない。
◆□◆↩
うふふふふ、宝ズの山やん〜
今日のコーデ 袈裟、異様に大きな庇がついた高山帽、ビーチサンダル
目の前には駄菓子、駄菓子、駄菓子!ふふふ、この興奮だけでご飯、いやポン菓子を無限に食べられる!三日月型になった私の口から上機嫌の空気の振動が漏れてくる。
「成人女性がちっこいキッズと一緒に駄菓子買ってら。」
そう言っているのは商品カゴのなかに入っている蛙の九影燕君である。
「ふふ、お黙り。」
そう言って私はチュッパチャップスの集合体を手当たり次第にカゴに入れた。すると燕が、
「痛ってえな!チュッパチャップスは持ち手の部分が刺さって痛いんだよ!」
と悲鳴を上げた。
「買い物カゴに入ってるから刺さるんでしょ。ほら、カルパス...おっと、パスカルみたいに肩に乗れば?」
「雨入白風さん、しれっと僕を肉にしないでください。」
「ん?蛙は丸焼きに限るよ?」
私は業務用カルパスをカゴに入れる。もちろんごっそりと。
「しかも、俺は陶器だから火には強いぜ。」
「あらあ、そうだったの?」
「あなたが、俺の財布に入っていた、縁起物の蛙の陶器に、俺の魂を文章化したものをつけたんでしょう」
ハニワせんべいをカゴに詰め込んで、レジのオバチャンに渡す。
「他にいい感じの媒体がなかったからねぇ。」
自分の好きな物のバーコードを読み込むとき、やっぱり心拍数が上がって頬が緩む。好きが私のものになるんだ、みたいな。
レジのオバチャンに5000円を手渡す。
「で、話変わりますけど、今回の案件、どういうのなんですか。厄介ですか?」
九影君が触れてほしくないことを聞いた。
「んー、いつもどうりの違法能力者取り押さえ。」
そう答えながら、駄菓子を文章化し、本に貼り付けた。
「え〜!俺ら3課ですよ。違法能力者案件は脳筋の1課担当じゃないですか。」
「君が御船ちゃんに会ってあげないからじゃないの?あの子、そういうとこあるわよね。」
「好きな子に嫌がらせするタイプの小学生ですかい。それに、御船をちゃん付けって…灯局の局長ですよ…」
鈍感。私は表紙に大きく『軽トラ』と書いてある水色のノートを手持ちバックから出し、そのノートの中にある文章化している軽トラを元の状態の軽トラに戻した。そしてそれに乗り、現場へ向かった。
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私の能力は、触れた物や記憶を文章化する能力。文章化した物や記憶は、文章が書ける物に限るが、何かに貼り付けるけることができる。もちろん、文章化したものを元に戻すこともできる。ただ、欠点として、何を文章化しても、膨大な文章量になってしまう。最低でもノート1冊分の文章量になってしまう。
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鈍い轟音。震える車内。飛び出す私。スクラップ、my軽トラ。
えぇ… 例の植木鉢…?家屋に立てこもってるって聞いたんだけど…?
私のmy車で愛車の軽トラを鉄塊にした憎き人の形をした肉塊(比喩ではない)には体のいたるところから木のツルが生えている。皮膚が溶けてグチョグチョのピンクになった身体に青々と茂った蔓が生え、巻き付きているのでグロ味がましている。
それの湯でダコのような手にはシャーペンが握られている。
身体も中々刺激的だが、シャーペン、それにも強烈な印象を植え付けられる。
シャーペンからはみ出しているシャーペンの芯、いや、シャーペンから伸びている、10mほど伸びている、真っ黒な芯。
それで、一撃で、たった一撃で。1000kgもある軽トラが粉砕されたのだ。
こいつの能力、聞いたときは『なんだそりゃ』だったが、見ると恐ろし。
『絶対に折れないシャーペンの芯を伸ばす能力』
あったらちょっと便利だよね程度の能力が、金属バットや金棒よりも危機的で驚異的な凶器を生み出すとは。
「燕君!」
「あいよ!」
そう彼が返事をすると燕君の蛙の身体から糸状の文章が出てくる。それがミイラの包帯のように人の体の形形を型取り、燕君が人間の姿になった。身長は165cmで小柄。洋服と着物を混ぜたような服装。彼の手には図体には似合わない機械チックな長刀。ところどころ、パイプのようなものがついている。
「肥料焼けの状態だから、生け捕り?」
「そうだよ〜 それより、新調したカラダはどうだい?」
「んー、まあまあかな。 少しカクカクする。」
「じゃあ、よろしくね。わたしは向こうで本でも読みながら、さっき買った駄菓子でも食べてるよ。」
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雨入さんは歩きながらどこかに行こうとした。だが、シャーペンを持った肉塊がそれを許さなかった。僕はシャーペンで殴りかかろうとした肉塊と彼女の間に割って入りシャーペンを刀で受け止める。雨入さんは気にせず歩いている。
後ろに飛ぶ奴。追撃するため前に飛ぶ。シャーペンの芯を伸ばし突き殺そうとしてくるも、刀で受け流す。
ポケットから何かを出す。2本目のシャーペン。手に持っている刀を離し、上に飛ぶ。空中。身動きが取れない。下から芯で突き刺してくる。「貫刀!!」 さっき離した刀が菊の形になり自分の方に飛んで来て、僕の二の腕に吸収された。納刀された。二の腕に菊の花が咲く。その菊を引っこ抜くと、菊が元の刀になった。
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能力:弾を斬撃に変える能力
追記、燕の刀は実は刀型の銃である。
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「散弾」 刀を振るうと、刀から細かい弾が出てくる。その弾、一つ一つが小さな斬撃に変わる。シャー芯をはじく。奴にも細かなダメージを与える。「炸裂弾」衝撃波で相手を飛ばす。相手がひるむ。ひるんだ隙に僕は抜刀の構えをする。「マグナム338弾」 威力全振りロマン抜刀、1.9秒の長めの前隙。抜刀をすると刃の部分を滑るように弾が出る。その動きは流れるようで、伸びるように緩やかに斬撃に変わって上の空気と下の空気を明確に分断する。1フレーム1フレーム、合計2フレーム。空気と一緒に相手の体を分断するために、2フレームかけて進む。曲がっているようでまっすぐ進み、ゆっくりなようで速く進む。奴は咄嗟にシャー芯で真正面から受け止めるが後方に打ち飛ぶ。
勝負あり。
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机にはちょこんと置いてあるうっすい手抜き資料、無駄にスペックの高いパソコン、究極の眠気覚まし『蝉打破』の飲みかけ。ガチャポンの謎の萌えキャラフィギュア、音を出す部分が壊れて着信音が流れない固定電話。資料を持っている先輩。
借金はすべて返した。だがしかし生活費は稼がなければならない。
「如月君!すまん!俺の代わりにこの取材行ってきてくれないかな。今度、友人が可愛い娘ちゃん紹介してくれるからさ」
ケッ、クソが!オカルト雑誌の動脈ブチ切れたみたいな、女のニオイを頭上の釣り竿ニンジンにして走るヤツに脈のある恋なんて、発情ぐらいだよ!
「ハイ。それでは、代わりに行ってきますね。」
おうおう、楽しんで後悔してこい。バイトとは言え仕事サボってまで行った何の需要もない社会人の中学生のようなレベルの低いデート。
「悪いね」
仕事ズル休みしようとしてる性欲の化身の言うことか!
「ああ、あとこれ。今回の怪奇現象の噂ね」
A41枚の無気力企画書が渡される。
こいつの汚い尻を拭うためにも資料に目を通す。
『テレポートする女。 10時00分:東京駅で対象者が電車に乗る。 10時1分:大阪駅で対象者が電車を降りる 14時28分:大阪駅で対象者が再度電車に乗る 14時30分:北海道の札幌駅で対象者が電車を降りる。
以上の理由から対象者はテレポートをしている』
馬鹿にしてんのか?この企画書。紙屑やん。3行て、頭おかしいやろ。小学生のほうが書く力あるぞ。
ああぁ〜、行きたかねえな〜