私はいま、過去のどこに泣いているのだろう?
昔、彼はただの同級生だった。
少し不器用で、野心家で、まっすぐな目をしていた。
私には、少し暑苦しすぎた。
彼の言葉も、未来を語る手つきも、まだ笑って聞き流せる年頃だった。
告白されたのは、大学の入学式の数日前。
「俺、絶対に成功するから」
その言葉がどうにも青臭く感じて、私は断った。
未来なんて、目の前の春よりも遠かった。
彼は本当に有言実行した。
数年後、テレビや雑誌でその名前を見かけるようになった。
成功者の顔になった彼を見ながら、私は何度も画面を閉じては開いた。
胸の奥に沈んでいた感情が、時間とともに「後悔」という名前に変わっていくのを、私は止められなかった。
そして先月、偶然、街のコンビニで再会した。
彼は、全てを失ったような顔をしていた。
やつれた頬、古びたシャツ、どこか焦点の合わない目。
「……久しぶり」
そう声をかけられて、私は息をのんだ。
まるで、別人のようだった。
その瞬間、長年抱えてきた後悔が消えると思った。
彼の成功がまやかしだったとわかれば、私の選択も間違いではなかったと証明されると思った。
でも、違った。
消えたのは彼の輝きだけで、私の後悔はそこに残ったままだった。
――なぜだろう?
私はいま、過去のどこに泣いているのだろう?