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「ほんっとうに大丈夫?なんならアプリに入ってても良いんだよ?」
「いえ、少しでも経験値を稼げた方が良いでしょうから」
先程からこのやり取りを何度も続けている。ぼく的には経験値が入らなくてもいいからパーティから外してアプリに入ってくれた方が助かるんだけど、式部が首を縦に振らない。無理矢理外すことも出来るけど本人が嫌だと言っているのに強行するのはちょっとなあ……。
ぼく一人なら出かける時は式部を連れて行くのだが、今日はサスケ氏と遊びに行く日である。だから式部は連れていくことが出来ない。
普段バリバリのインドア派のぼくが出掛ける用事……それはファンクロのオフ会だ。ぼくがまだ小学生だった頃からの付き合いがあるメンバーもいる。グループ名は《漆黒の翅》だ。元々このグループのリーダーである女性のハンドルネームだったが社会人になった今もこの名前を名乗るのは恥ずかしいとのことでその名前がそのままグループ名になった感じだ。
ぼくが小学生の頃から……つまりファンクロはスマホアプリの中ではそれはそれは息が長いソシャゲであり、スマホが普及し始めた初期の頃からサービスを開始しており、未だに続いているのである。……まあ、それもリアルファンクロを行う為の準備期間……だったんだろうけど。
「押し入れ、狭くない?」
「平気です。私は押し入れの神になります」
うーん……。式部の性格的にふざけている訳でも無さそうだけど、一日押し入れに放置は流石にしんどい気もする。可哀想だし。
やっぱり貰える経験値を犠牲にしてでもアプリにしまってあげた方が良いと思うんだけど、それは何度説得しても式部に拒否されてしまうのだ。
ちなみに式部が疲れてきたらパーティから外してアプリに入って貰うことも考えたけど、何度か試してみた結果、パーティの操作はある程度パートナーが近くにいないと受け付けて貰えないようだ。
プレイヤーとパートナーが離れるのもあまり遠い距離だと警告が出て強制的にパートナーがプレイヤーの近くに飛ばされてしまうようだが、パーティの操作はそれこそ目に見える距離くらい近くないと出来ないらしい。
だからこそ今回のオフ会は自分の家の近くのカラオケ店にして貰った訳だけど……。
「ところで成世様」
せめて押し入れの中を少しでも式部の過ごしやすい環境にしてあげようと片付けている最中に、式部が声を掛けてくる。
「……ん?なに?」
「サスケ様とはどういった御関係で……?」
……おや。これはひょっとして嫉妬している……のだろうか。いや、まさかな。式部は嫉妬なんかしない。サスケ氏のことを気にしているのは自分の主に危害を加える相手かどうか見定めている……んだと思う。たぶん。
「サスケ氏はヲタ友だよ」
「をたとも…?」
「本当に仲良しな友達なんだ。だから今日遊ぶのむっちゃ楽しみにしてたんだ。それにサスケ氏以外の友達もいるから大丈夫だよ」
「……そうですか。それは失礼致しました」
うん、声色がとても申し訳なさそうだ。そんなに気にしなくてもいいのだが。ちょっと可愛い。
「別に謝らなくても良いのに。それよりほんとに留守番任せて大丈夫?ずっと押し入れの中だよ?お手洗いとかさあ……」
「問題ありません。それより成世様、このままではサスケ様との約束の時間に遅れてしまいます」
「嘘、マジか」
結構時間には余裕を持っていた筈なんだけど、時計を見るともう少しでサスケ氏が迎えに来てくれる時間になろうとしていた。更にサスケ氏は予定時間の五分前には行動を完了しているタイプなので、それならもう既にぼくの家の前で待機していてもおかしくない。
「やっば!えっと!分かってると思うけど絶対押し入れから出ないでね!今日はお手伝いさん来ない日だし心配なのは鳴海くらいだけど!……行ってきます!」
「はい。行ってらっしゃいませ」
まだ多少の不安はあったが、きっと式部なら大丈夫だろう。ぼくは押し入れの扉を閉めた。
「成世氏!」
やっぱりぼくの家の前に既にサスケ氏はいた。ぼくの姿を見て手を振ってくれる。
「ごめん、絶対待たせたよね……!うう、クズでごめんよ……やむ……」
「問題無し。拙者が少し早かっただけで、成世氏は時間ピッタリでござるよ」
「うう、サスケ氏優しい……すこだ……」
「成世氏、浮気は御法度でござる」
「ち、違うぞ!ぼくには式部だけだもん……!」
いつものやり取りを交わし、さっそく目的地へ向かうことにする。時間は余裕で間に合いそうだ。




