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「ふむ。結局遅刻して反省文を書かされ……それで成世氏は部活に遅れたのだと、そう言いたいのでござるな?」
「はう。すまぬなサスケ氏」
ところ変わって小さな部室に部員が2人。
ぼくは文芸部(という名のオタサー)に所属しているのだ。
もう一人の部員はサスケ氏。本名は……何だっけ。クラスも違うしあんまり呼ばないものだから忘れてしまった。
サスケ氏は数少ないぼくの友達。
口調はちょっと変だけど、バリバリのオタク。
勿論、ファンクロもやってる。
「良いのでござる。成世氏とファンクロ談議することこそが拙者の生きがい故」
「うう、サスケ氏…!ぼくにはもう、サスケ氏しかいないよぅ…!」
「ははは。成世氏の相棒はただ一人、式部氏だけでござるよ」
「はっ!そ、そうだった!ごめんよ式部!浮気じゃないんだ!ぼくは式部だけ!式部のお嫁さんだから!!」
……式部とは、ムラサキ式部という、ファンクロに出てくるキャラクターだ。
多分、というか絶対源氏物語の作者の紫式部が元ネタだと思う。ファンクロの式部の性別は男だけど。
彼はぼくのファンクロの中の推しだった。
白を基調とした着物に、長くて艶のある黒髪。そして一番の推しポイントは面布。顔隠しキャラが萌えのぼくにとってはたまらない要素だった。
いや、彼はもうファンクロの中だけの話じゃなかった。
ぼくは式部にガチ恋をしていて、大好きで大好きで愛してて結婚したくて。
式部はUR……いわゆる最高レアのパートナーなんだけど。あ、ちなみにこのゲームではキャラのことをパートナーと呼ぶんだ。
正直、彼はURの中では外れだと言われていた。非常に扱いづらいパートナーなのだ。
それに加えてプレイヤーに対して一切デレない。
ファンクロにはパートナーの好感度システムが存在していて、大体のパートナーは育てていくと好感度が上がり、デレを見せてくれたりするのだが。
式部は自分のことを人形だと思っているキャラであり、それ故に他人と距離を縮めたがらない……言ってしまえば好感度が上がろうがデレてくれないのだ。
始めたばかりの頃は好感度をMAXにすると面布を外してくれるのではないかと思ったこともあったが……それすらも無い。なので式部の顔は誰も知らない。知ってるのは運営だけか。運営すらも考えていないのかもしれないけれど。
だから式部を扱うファンクロプレイヤーは非常に少ない。扱いづらいしデレ要素が一切無いし。
……でも。
でも!!
『初めまして。私はムラサキ式部……あなたに使われる為だけの存在です』
初めて式部をガチャで引いた時、ぼくは運命かと思ったんだ。
それはもはや、一目惚れだった。それほどまでに、式部はぼくの好みの男性だったんだ。
だからぼくは式部を育てた。レベルは当然のようにカンスト済みで、好感度も先程も言った通り既にMAXだ。
例え彼がデレてくれなくても関係無かった。
そんなことでぼくの式部への愛は変わりはしなかった。
家が裕福だったせいもあり、式部の新衣装が出る度に課金して課金して……気づけばぼくは上位ランカーになっていた。
上位ランカーで式部を使っているのはぼくだけだったから、偉く有名になった。
自分が "式部の人" みたいな扱いをされているのは、気分が良かった。
そう、まるでぼくと式部が公式カプだと認められているような優越感。ぼくと式部の間には誰も入り込めない。悔しかったら式部使って上位に入ってみろって話だ。
ああもう。式部のこと考えたら、また頭がふわふわして……。