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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第三章『冒険者試験』編
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第83話『焦燥感』

あれから数日後。

ギルドから報酬と謝罪をもらい、口止めをされた。ギルドの受付嬢が魔族と絡んでいたなんて知られたら、このギルドの評判が落ちるだろう。それくらい人々の間での魔族の評価は低い。

それにギルドからの依頼だったからな、と口止めに納得した。


ただ……

ここにいるのは洗脳魔法にかかってしまっている者たちだけあって、全ての責任はセリナに押しつけられた。『あの女は死んでも厄介だ』という言葉を添えて。

ここにセリナがいなくて良かったと、リオナルドは心から思った。


セリナは、あの日から国境の街に入れなくなった。


別になにがあったというわけではない。

セリナがこれ以上洗脳魔法にかかりたくない。もしかしたら『中央国』に近づくだけで魔法が入り込んでくるのではないか?と怯えてしまったからだ。

そして、リオナルドとは物理的に距離を取るようにしている。

大丈夫だ、と言っても慎重なセリナだ。そんな行動をとってしまうのはわかる。そしてそうするのはリオナルドを『死んでしまえばいい人間』のカテゴリーに入れていない証拠だ、と嬉しくもなる。


だが、やはり気になる。というか気に入らない。


人が寄ってくることも避けられることも慣れている。特に女性は、勝手に問題が起こって面倒ごとに巻き込まれることが多かった。だから、女性に嫌われるのはむしろ喜ばしいことだ。


しかしセリナは違う。

大切な仲間だ。今ではそう思っている。

それが、自分の『監視』という任務に支障が出るのがわかっていても。


今もリオナルドがこうしてギルドで対応している間に、セリナはエルンストと楽しく会話をしているのだろう。そこにライラも入ったら、もっと楽しい会話の出来上がりだ。


「……それでは、これが報酬です。お疲れさまでした。またお願いします」

「ありがとうございます」


にこりとリオナルドが笑うと、受付嬢は頬を赤く染める。別にそんな顔をさせたいわけじゃないのに。

今、一番笑顔にさせたいのはセリナだ。仲間だ。当然だろう。

だが、洗脳魔法のせいで避けられる。なんて呪いだ、とリオナルドは珍しく心の中ではあるが舌打ちをした。

そのままきびすを返し、ギルドを出てセリナたちの元へ向かって歩く。

相変わらずここの街は灰色の空をしているように見える。こんなに良い天気なのに。そう思うと、風もよどんでいるように感じるし、空気も重く感じてしまう。進む足も重くなっているような気がしたので、早足で駆け抜ける。


――ここでこの調子なら『中央国』はどんな感じなのだろうか?


『中央国』には遠征で何度か行ったことがある。その時は未熟だったからか、こんな雰囲気を感じ取ることはなかった。ただ、遠目で見る『聖女』リアナが強烈に目に焼きついた。あの女性がいかに『聖女』という名にふさわしいか、その姿が物語っていた。

他の者たちとは違ってそれ以上のことは感じなかったが、もし近くで話しかけられたりでもしたら、リオナルドも洗脳魔法にかかっていたのだろうか?そう考えると、運が良かったなと思う。


「おう。報酬はどうだった?」


国境の街から出て、そのまま街道を歩く。そこで待っていたエルンストの第一声がそれだった。

そこにはちゃんと、セリナもライラもいた。


「ギルドの依頼でしたし、それなりのものでしたよ」

「よし。しばらくはおごってくれや、Aランク様」

「なんでですか!全員報酬は得ているんですから自分で払ってください!」


そう言ってセリナとエルンストから借りていた、報酬を入れる魔道具『取引箱』を二人に返す。


「これなら『西国』で美味しいものを食べても大丈夫そうですね」


セリナが笑顔で言う。すぐに食べ物の話になるのはやはりセリナだな、とくすりと笑った。

まぁ、あとはいかにケチれるかを頭の中で考えてそうだが……エルンストもだが、セリナのサイフになることだけは避けたいものだ。


『じゃあ行こうよ!次の国だ!』

「ええ。行きましょうか」


ライラの号令で全員が足を進める。向かう先は『西国』だ。

地図上で言えばここから西に向かっていけば良いだけ。だが、山が多く遠回りは必須だ。しかも『西国』の城のある城下町は山に囲まれていて侵入経路が決まっている。つくまで結構な距離になるだろう。

だが……


「良い天気に、こうして森の中を通るのは気持ちが良いですね」

『うんっ!ボクこういうの大好きっ!』

「このあとは登山が待ってるけどなぁ。体力勝負だぜ。担いでやりましょうか?か弱い元『聖女』様よ」

「セリナです。私の心配より、そのご自慢の筋肉が高度でしぼんでしまわぬよう、お気をつけあそばせ」

「てめっ……なぜそれを知っている……っ!?」


セリナの『本当にしぼむんだ……』というひとりごとがリオナルドの耳に届いて、ははっと笑った。


この旅はどんなに過酷でも楽しいのだ。つらく苦しいことも多いが、気がついたら笑っている。

こうやって自由に行動できる時間が、どんなにリオナルドにとって幸せなことか。


だから……


「セリナ、本当につらかったら言ってくれよ」

「え?あ、はい。わかりました……」


こうして避けられるのは嫌だな……

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