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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第三章『冒険者試験』編
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第76話『登山』

国境の街から少し離れた山。その入り口にセリナたちと、他三組の冒険者たちは早朝から集められた。

セリナたちにこの依頼をしてきた受付の女がこほん、と咳払いをすると、全員に向かって声を張り上げた。


「えー、今回集まっていただいたみなさんは、ギルドが実力者と判断した人たちですっ。そんなみなさんにやっていただきたいギルドの依頼は、この山に住んでいるという魔物退治ですっ」


目の前の山にはちゃんと人間が通れる道があり、一見のどかな登山道といった感じだ。だが、確かに瘴気は感じる。奥に行けば行くほど濃くなっているから、おそらく退治しなければならない魔物はそこにいる。


「今まで何人かの冒険者さんが挑んできましたが、いずれも行方不明になっていますっ。なので、できればその人たちの冒険者カードの回収もお願いしますっ」

「人数は?」


他の冒険者。背の高い二十代の女が低めの声で聞くと、受付の女は持っていた紙を確認しだす。


「えーと。八人です」

「そんな人数探せってか。だりぃな」


背の高い女の横で、背の低い二十代の男が言う。服装を見るからに女は魔法使い。男は戦士といったところか。どうやらこの二人で一組のようだ。


「あくまでサブみたいなものですので、見つけられなければそれまでということでっ。メインは魔物退治ですっ」

「あの……いいですか?」

「なんでしょう?」

「魔物……とはなにかわかっているのですか?」


眼鏡をかけた十代の女が受付の女に質問すると、またしても紙を確認する。


「えーと……なんて読むんでしょう?きょうこう……くも?ですかね」


『恐慌蜘蛛』と書いてアラネアフォビアと読む種族だ。体長三メートルほどの、体が岩のように硬く足が八本ある、その名の通り巨大な蜘蛛のような見た目だという。湿気のある場所を好み、あまり人間のいるところには出没しないというが……


「アラネア……ですか……やだなぁ……」


眼鏡の女が心底嫌そうに顔を歪ませている。そんな女の肩に乗っかっている赤と黒を基調とした鳥がなにやら女にささやいている。あれは使い魔か?

その女の近くには、同じく十代の男が三人。服装からして、剣士、武闘家、戦士といったところか。

ここは四人一組のようだ。


「女はめんどくせぇな」


ポツリとしゃべったのは四十代の大柄な男。背中に大剣を背負っている。その後ろにはこの中では一番幼そうな十代前半の女が隠れていた。

ここはこの二人組だろう。


「……セリナ」

「はい?」


周りを確認していたセリナにリオナルドがポン、と肩に手を置く。そしてささやくような小さい声で言った。


「……食べられないからな」

「えっ!?」


固まるセリナ。やはりと呆れるリオナルド。うわぁ、と引くエルンスト。ついていけてないライラ。


ダメなの?足が多いのに?


「えー、そろそろ質問はなさそうなので……みなさん、よろしくお願いしまーす!」


受付の女がそう言って大きく頭を下げる。

それを合図にそれぞれが山に入っていく。そのまま進んでいく一行。あたりを観察してから行く一行。なにやら祈りを捧げてから行く一行と、実に様々だ。


「今回の依頼は、洗脳魔法と関係ありそうですかね?」


あからさまにガッカリしているセリナの横で言った、リオナルドの言葉を聞いたエルンストが、腰に手を当てながら首をポキポキさせつつ答える。


「数打ちゃ当たるってな。ま、気を引き締めようや」


そして歩き出すエルンストにセリナたちが続いた。一番最後になってしまったが、こういうのは先着順でもない。それに、セリナたちの本当の目的は洗脳魔法の解析だ。


『わー!気持ち良いねぇ』


ライラが楽しそうにくるりと回り、歌いだす。

特に険しいわけでもない登山道は『北国』側ということもあり、多少の雪を残しているが歩きやすく、今日のような天気の良い日は絶好の登山日和なのではないだろうか?というくらいに気持ちが良い。

木陰から小さな動物が見えたり、キノコが生えていたりと普通の山だ。


あぁ、奥から感じる瘴気さえなければ良い山なのに……


そう思いながらセリナは辺りを見回しつつ登っていく。


「戦闘跡は……ないな。空気も綺麗だ」

「アラネアは陽の光が得意ではないと聞いたことがあります。なので、いるとしたら洞穴(ほらあな)あたりでしょうか?」


同じく周りを警戒しているエルンストにセリナは答える。


「なるほど。なら冒険者カードも穴の中にありそうだな」


エルンストの性格からして、行方不明者をそのままにしておきたくないということか。セリナにとっては一番どうでも良いことだったので、心の中で少し驚き、そしてエルンストらしいなと、くすりと笑う。


そして、特になにかが起こることもなく歩き続けること数分。ライラが歌うのをやめた。

セリナたちの前には、高さが十メートルはあろうかという洞窟の入り口があった。そこから瘴気が漏れ、近くの木々が枯れている。

今は『東国』で起こっていたライラの時ほどではないが、放っておけばこの山全体に瘴気が行き渡りそうだ。

確かにこれは並の冒険者じゃ対処できそうにないな、とセリナは一人納得して自身の魔力を手に込める。


「みなさん、防御魔法をかけますのでこちらへ来てください」


こくりとうなずいたリオナルド、ライラ、エルンストの順で防御魔法をかける。これでこの程度の瘴気に体が侵されることはないだろう。

そう思いながら浄化の粉を時空の倉から取り出す。ここがどれくらい深いのかはわからないが、なるべくケチりながら使おう。


「行くぞ」


エルンストの一言にセリナが明かりの魔法を使い、それを追従させるようにすると、全員が歩き出した。

明かりはあれどセリナには黒いモヤに覆われて少し見にくい洞窟だ。その上少し暗い。だが、やはりライラの時ほどではない。浄化の粉を地面に撒いて、それを踏めばすぐ見えるようになる。

洞窟の天井や壁から染み出た水が、いくつかの水たまりを作っている。頻繁に枝分かれしている複雑にできた道だが、瘴気の濃いほうへ向かえば問題ないし、洞窟自体の大きさは入り口の大きさと同じで、通るのになんの支障もない。

そしてセリナたちが向かおうとしている先で、先ほどから大きな音がしている。特に焦っていないのは、消えていくのは瘴気で残っているのが魔力だからだ。

そこから簡単になにがあったかは予想できる。


「よっし!倒したぞ!」

「わぁすごいすごい!素敵!」


十代の戦士の格好をした男が、二メートルに満たないかという大きさの蜘蛛を倒して剣を振り上げている。そしてそれを見て喜んでいる、松明を持つ眼鏡をかけた使い魔の女。

その横では、一メートルほどの蜘蛛を相手に戦う剣士の男と武闘家の男がいた。

多少てこずっているが、あの程度なら大丈夫だろう……と思っていると、武闘家の男が油断して蜘蛛から毒を受けた。


「くっ!こ、これは……!」

「しっかりしろ!まだ大丈夫だ!」


倒れる武闘家を支えるように、剣士が上半身を起き上がらせる。そしてそこに倒し損ねた蜘蛛が襲い掛かってきて……


「どうした!大丈夫か!」


剣を振り上げてポーズを取っていた戦士が蜘蛛を倒す。


「お、おれは……もう、だめかも……しれねぇ……」

「そんな!死なないで!お願い!」

「ふっ……あとのことは……まか、せた……」


あの程度の毒なら、少し休めば体内の魔力が浄化しそうではあるが、まぁ確かにここで戦力としてはダメかもしれないな、と見ながらセリナは地面に浄化の粉を撒く。


「セリナ」


リオナルドが歩みを止めないエルンストに続いたまま、セリナに呼びかける。

……言いたいことはわかる。わかるけども……


「……わかりました」


まだやりとりをしている一行の横を歩いたとき、セリナは渋々武闘家の男に浄化の粉をぺっぺっとかける。

浄化魔法を使うまでもない。だが、浄化の粉だってもったいない。

絶対にセリナ一人だったらなにもしていなかった。リオナルドに感謝するといい。

そう思って見ると、眼鏡の女がリオナルドを目で追っていた。ぽーっとしており、まるでその顔は恋する少女だ。


「こ、これは……」


そんな眼鏡の女の前で、武闘家の男が淡い光に包まれる。浄化の粉が毒を吸い取っている証だ。

セリナは四人に歩みを止めないままにこりと微笑む。すると、男三人の顔が赤くなった。


「女神……」


セリナの顔を知らなかったか。それだけ確認できれば良いとなにも言わずエルンストについていく。

そうして、その四人を置いてセリナたちは奥へと向かっていったのだった。

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