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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第三章『冒険者試験』編
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第75話『季節の野菜のサラダ』

チュンチュンと鳥の声が窓の外から聞こえ、それを合図にセリナは目を覚ます。

ゆっくりと起き上がり背伸びをし、横で眠るライラの寝顔を見て癒される。


これが、最近のセリナの朝だ。


幼少期から『夢刃の守り』を枕にかけて悪夢を見ないようにしていたが、少し前になぜかライラが『その魔法ヤダ』と言い、ライラに弱いセリナは自分が悪夢を見るくらい良いだろうと魔法をかけるのをやめた。

しばらくはうなされたが……ある時からピッタリと悪夢を、夢を見ることがなくなった。それほど疲れているからだろうか?


なんにせよ、調子が良い状態で目が覚めるのは気持ちが良い。


さて、着替えようか……と思ったところで、そういえば昨日服を洗っていなかったなと気づく。

水の魔法で服を洗い、風の魔法で乾かすという一般家庭でもやっている手法。何着かを毎日やるだけならすぐに終わるが、たくさんの量をまとめてやるには時間と手間、そして魔力がかかるため、この魔法を繰り返し自動で使用できる魔道具もある。子供が多い家庭に重宝されている魔道具らしい。


まぁ、セリナは自分の分しか洗ったことがないので見たことはないが。


そんなことを思いながら服を洗い終え……ついでに自分自身も洗ってしまおうと、部屋についているシャワー室に入る。

服を脱ぎ、蛇口をひねると温かいお湯が出てきた。

お湯しか出せないときはビックリしてリオナルドに聞いたこともあったな、なんて思い出しながら体を洗っていく。


思い出す、といえば……


「……そんなに太ったかな」


自身のお腹を触る。胸が邪魔で見えていなかったが、触った感触にあばらを感じない。胸も多少大きくなった気もする。

確かに食べている。三食きっちりと美味しいものを食べている。だが、運動をしていないわけではない。目的がある旅だ。毎日なにかと歩いているし、走っている。


「運動、足りないのかしら……」


今までダイエットとは無縁の生活を送ってきたせいで、こういう時どうしたら良いのかわからない。


だからといって、別に食べない生活をしていたわけではない。


嫌がらせで無理やり食べさせられたりもしたし、『教育』で酒を飲まされたりした。戦場では獲物や魚を狩っては焼いて食べたり、与えられた干し肉を食べたりもしていた。


ただ、数ミリ、数グラム増えれば殴られていたからか、いつの間にか変動しない体になっていて、無意識に自身の魔力が働いて、太ることも痩せることもないのだとばかり思っていたのだが……どうやらそうではなかったらしい。


「うーん……」


今のところ動きにくさは感じていないし、もっと増えたら考えよう。そう思いシャワーのお湯を止めてシャワー室から出る。


全身をタオルで拭き、髪を風の魔法で乾かしたあと、先ほど綺麗にした服に袖を通し、たしなみ程度の化粧をする。『聖女』は常に美しくなければならないから……なんて、昔の習慣がまだ残っている。


『ニゥ……おはよぉ』

「おはようございます、ライラ」


もぞりと動いて体を起こしたライラが、セリナを発見すると目を器用にこすりながらあくびをする。

まだ眠そうだが起きる時間だ。ライラの元へ行き、ブラシですく。紫の綺麗な毛がふわふわになる。これが魔力を帯びるとウロコになるのだから不思議だ。


『それ好きぃ……セリナにやってもらうの好きぃ……』


ライラが再び睡魔に襲われていそうな顔で、気持ち良さそうに目を閉じている。

猫ならば喉を鳴らしていそうだ。それくらいうっとりとしている。


「さ。終わりましたよ」

『ありがとぉ。うぅー……んっ。さっぱりっ』


いつもならこのあと、浄化の粉の在庫確認や自身の魔力確認などをするのだが、その時間をシャワーを浴びる時間に変えた。となると、もうリオナルドもエルンストも外で待っているかもしれない。


「行きましょうか」

『うんっ!』


ベッドメイキングを楽しそうに終えたライラに声をかけ、セリナは部屋のドアを開き一緒に宿屋の受付まで行く。そこには、やはり二人が待っていた。


「おはようございます」

「おはよう。よく眠れた?」

「はい。スッキリ目覚めました」


このリオナルドとの毎日のやりとりも、もう慣れたものだ。

その後ろでエルンストが、首をポキポキと鳴らしながら歩き出す。


「よし。じゃあなんか食べるか」


それに続くセリナたち。朝のおすすめは季節の野菜のサラダだったので、セリナはそれとスープを注文した。言葉が出ないくらい、とまではいかないが美味しい朝食に満足だ。


そして……国境の街へと赴いた。


相変わらず灰色の景色でセリナはフードを外せない状態だが、それでもなんとかギルドに行き全員で掲示板を見る。

人だかりができていてよく見えなかったが、最初は一番の経験者であるリオナルドに依頼のチョイスを任せた。そこでリオナルドが選んだのは魔物退治だった。


「Bランク以上のものだし、魔物からなにかヒントが得られるかもしれない」


そう言ったリオナルドに賛成して、セリナたちはその魔物がいるという、国境の街から少し離れた小さな村にいた魔物を……倒した。

村の住人からお礼の言葉はもらったが、特に洗脳魔法に関するヒントは得られなかった。


ちなみに、村の住人で洗脳魔法にかかっている者はいたが全員ではない。話を聞くと、一度『中央国』に行ったことがある者だけがかかっていた。


「あっさり終わっちゃいましたね……」

「まぁ、このメンバーならね……」


セリナとリオナルドは苦笑して顔を見合わせる。

しかも二人はなにもしていない。エルンストが訓練もかねてわざわざ氷の斧と盾を出して『これがBランクの実力だぁああっ!』と言いながら一撃で倒したのだ。

『Bランクの実力ではないですね』とはリオナルドの言葉。セリナも心から同意した。


……まぁ、最初から辿りつけるとは思っていない。これくらいは想定通りだ。


「よし!次だ次!また陽はたけぇ!どんどんやるぞ!」


気合を入れるエルンストにセリナたちが続き、ギルドに戻って報酬を得たのち、また掲示板から依頼を受ける。今度は人探しだ。『中央国』による誘拐事件なのかもしれないと受けた。

国境の街にて可愛い一人娘が行方不明になったということで、それを……見つけた。

セリナが娘の残した物から魔力を解析し、それを辿っただけだ。娘は悪い友達と夜遊びに夢中になっているだけだった。


親に怒られ反発する娘。その様子を、笑みを浮かべながら見ている時間のほうが長かった。途中で尿意が湧き上がり、耐えるのがなかなかに大変だった。


国境の街の人間だけあって、全員に洗脳魔法がかかっている。だが、それ以外は普通の暮らしをしているただの人間に見える。そのギャップに少しクラリとした。


「うーん……ハズレ、ですかね?」

「次行くぞ!」


次の依頼は、国境の街から少し離れた貴族の屋敷にいるネズミ退治だ。

貴族ならばなにかと『中央国』に関係しているかもしれないということと、『ネズミ』というのもなにか企んでいる人間なのでは?と思い依頼を受け……本当にその名の通りキッチンで暴れるネズミを退治して終わった。


黒い害虫を見つけ、それを『魔物が出たわ!』とほうきで叩き殺す侍女を見た時、ネズミくらいこの侍女がなんとか出来るのでは?と思ったが言わないことにした。


今日の依頼人の中で一番『セリナ』に反応、拒否を示したが、試験時の人間たちと同じだ。違うと力説したら態度が緩和する。


……だが、それだけだ。


しっかりとした解析はできなかったし、手がかりも得られなかった。


「……私、国境の街までなら転送魔法使えそうです」

「帰るのが楽になってなによりだ!」


そこで……昼食を食べようというリオナルドの言葉に賛成し、休憩もかねて昼食を国境から一つ前の町で食べることにした。

セリナが頼んだのはパンとベーコンサラダと豆のスープ。思ったよりベーコンが厚切りで美味しかった。


その昼食の最中、セリナは全員に提案してみた。


「手分けしませんか?そのほうが効率が良いと思います」

「却下」


エルンストが即座に否定してきた。それにリオナルドも同意だったようでうなずいている。

セリナは眉をひそめた。全員実力はある。むしろ全員でこなさなければいけない依頼など一つもない。それならば分かれて行動したほうが見つけやすいだろう。そう思っての提案だったのに。


「当たりを引いたときに全員いたほうがいいだろ」


肉が挟まれた大きなパンを豪快に食べながらエルンストが言う。

確かに……と納得してしまったセリナは、それ以上なにも言うことはなかった。

しかしこのまま何日もここに滞在して、あてのないヒント探しするのも疲れる作業だ。


私が……ちゃんと解析できれば……


「これだけ派手に動けば向こうから勝手に来るさ。だから焦らなくても大丈夫だ。ゆっくりいこう」


リオナルドが優しくセリナに言う。思っていたことがセリナの顔に出ていたのか、気を使うような口調だ。


「落ち着け。いつものお前なら気づいていることだ」


エルンストにそう言われてハッとなる。そういう戦略はセリナの得意としているところなのに。

今度は顔に出ないように、心の中で歯ぎしりをした。


「申し訳ありません……」

「謝んじゃねーよ。午後からもどんどんこなすぞ。当たりを引いたら美味しく食べりゃいいだけの話だ。ハズレでも星がたまるし、そのままAランクになるのも悪かねぇ」


ふふんっ、とエルンストは言いながらジョッキを煽る。冒険者をやっているのが本当に楽しいようだ。


そういえばとセリナは冒険者カードを見る。星は半分も満たないくらいだ。

まぁたいした依頼をこなしていないしな、と冒険者カードを時空の倉にしまった。


そうして昼食もかねた休憩は終わり、次々と依頼に取り掛かるが、成果はなし。

そしてまた掲示板を見に行くが、受けているのは結構大勢いるのに、それでもなくならない掲示板の依頼に驚く。


そしてその間も聞こえる、冒険者試験の会場へ呼び込む声。受付にいるのは知らない男だ。

試験会場も兼ねているからか、受付にいる人間がコロコロと変わっている。昨日いた男も女も今日はいない。


……セリナが試験をしたのは昨日の出来事なのに、なぜか懐かしさを感じてしまった。


そうしてなにも収穫がないまま一日目が終わる。

一つ前の町に戻り夕食を取り、宿屋に戻る。

男二人と別れたあとは自身の魔力の確認、洗濯、魔道具の在庫確認を終えて、シャワー室でライラと汗を流す。

そうして寝る準備を終え、ベッドに体を沈み込ませた。


「おやすみなさい」

『おやすみなさい』


セリナとライラはお互いにそう言って眠りにつき……

次の日が始まる。


目覚めたセリナは朝支度をしてライラとともに部屋を出て、リオナルドとエルンストに朝の挨拶をし……そして始まる依頼をこなす時間。


魔物退治、料理運搬、物探し、護衛など。重要そうな依頼から、初心者でも受けられる依頼まで受け、それでもなにも見つからない時間にセリナはヤキモキし、エルンストとライラは楽しそうにこなし、リオナルドはそれを見て苦笑する。


そんな日々が一週間ほど続いたある日のことだった。


「あの、冒険者さんにちょっと依頼をしたいのですが……できますか?」


ギルドで依頼完了報告をし、そこで冒険者カードを見ながら、星がどれくらいたまったかを話している時だった。

初めて見る受付の女に『ちょっといいですか?』と言われ、受付に誘われるとそこからこそりと話され、全員で顔を見合わせる。

受付の女に答えたのはリオナルドだった。


「それはどのような依頼ですか?」

「えぇと、詳しくは話せないのですが……少し規模が大きい依頼で……貴方たちなら出来そうだとギルドで判断しました。星もたまりますよ」


それを聞いたエルンストがニヤリと笑う。

先ほど受けた依頼の報酬の一つである、手に持てるタイプの燻製肉を持っている袋から取り出し、豪快にむしゃりと食べながら。


「来たんじゃねーか?わざわざ向こうから美味しく食べられによ」

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