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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
132/137

第132話『暴走』

壊れたドアを背にしたまま、セリナが中央の広間まで飛ばされる。

このままでは壁まで飛ばされてしまうと、足でブレーキをしながら止まる。以前セリナが咲かせた葉が滑り止めにもなった。


セリナが顔を上げるとテリアが突進してきていた。魔力の糸を天井に刺し、上に逃げる。

テリアはそのまま突き進み壁で止まったかと思うと、地に降り立ったセリナを肩越しに睨んでくる。


「避けないでくださいよぉ。殺せないじゃないですか」

「なぜ?」


リアナの洗脳魔法は解けたはずだ。ならばセリナに恨みを持つ理由は弟、アルネスのことだけ。

そのアルネスが笑顔でいるのに、この殺意をぶつけてくる理由がセリナにわからなかった。


「言ってもわかりませんよ!貴女にはっ!」


言って、おもちゃの剣のようなものを投げてくる。

それを魔力の糸で防御しようとしたその瞬間――おもちゃの剣から煙が噴き出した。

とたんに周りが見えなくなり、気配すらもわかりにくくなる。

ただ投げるだけの武器じゃなく、魔道具だったか。


「貴女は『偽物』とはいえ『聖女』としてぬくぬく暮らしてきたんでしょう!?アルネスはつらい責務をこなして生きてきた!その中で貴女に狂わされたっ!」


………………は?


斜め右からテリアの気配がいきなり現れ、セリナは話している最中に魔力の糸で仕込んだ、防御の魔法陣を発動させる。

轟音を立ててテリアが突進してきた……と、同時に防御の壁にヒビが入ったっ。

テリアの突進力を舐めていたようだ。だが――


「私のせいにしないでください」


突進で止まった一瞬のスキを見逃さず、テリアを魔力の糸で拘束する。先ほどよりも強い強度で。

そして、糸を通して魔力を叩きこむっ!


「あああああっ!」


テリアの悲鳴が響くっ。

そのまま膝が崩れて……


「姉さんっ!」


アルネスの言葉を受けてか、テリアのメガネ越しの瞳からは殺意が抜けていない。

それに気づいたセリナは、すぐにその場から離れる。

……と同時に、テリアのゼロ距離の突進で、防御の魔法陣が壊れた。


「許さない!あの子は私が守る!あの子の未来をこれ以上奪わないでっ!」


拘束されたままのテリアの突進が、またセリナに向かってくる。

セリナは冷静に指をテリアに向けて――


「がはっ!」


魔力の糸を操り、強制的に床に叩きつけると、テリアの口から血が出た。

セリナの指が横に振られると、テリアは横に吹っ飛び壁にぶつかる。

次は天井、次は床に再び叩きつけた時、風圧のおかげかようやく煙が辺りから消え、広間の全体が見えた。


「姉さんっ!」


血を流し、ボロボロのテリアを見てアルネスが駆け寄ろうとする前にセリナはうつ伏せで倒れるテリアのほうへ行き……


「誰がぬくぬく暮らしていた?」


足でテリアのあごを持ち上げ、そのまま勢いよく蹴って仰向けにさせると、テリアの血がまた体外に出た。


「セリナ様っ!もうやめてくださいっ!僕が謝りますからっ!」


アルネスの言葉はセリナにも、テリアにも聞こえていなかった。

悠然と見下ろすセリナに、テリアは睨みつけたままだ。


「この力は、私は幼少期からの『教育』で手に入れました。精霊の力を使わない、純粋な私の力です」

「……っ!恵まれた者はっ、ホンット、良いですねぇ……っ!」


セリナが顔を踏みつけ、ヒールが口の中に入ったテリアが『ガボッ!』とえずく。


「貴女の弟さんは、長い年月で何度死を感じましたか?私は数えるのをやめました。貴女たちにとっては些細な年月の中で」

「ぐぶっ……!げっ!げほっげほっ!」


セリナが足を離し、頭上あたりでしゃがみ込み顔を近づけると、テリアの顔から血の気が失せた。


「何度眠ってはいけない日々を過ごしましたか?何度罵倒されましたか?何度罪をなすりつけられましたか?何度毒を飲まされましたか?何度脳が記憶を拒否しましたか?何度貞操の危機を感じましたか?何度手足がもげそうになりましたか?何度血の海の中で気絶しましたか?何度死の淵から呼び起こされ、さらなる痛みを受けましたか?何度?何度ですか?教えてください」


テリアの瞳だけを見るセリナに、テリアはおろか誰も声を出せない。

セリナの冷たい魔力に、誰もが動けなくなったのだ。


「姉弟愛、いいですね。愛って素敵ですね。たくさん言いましたよ、えぇ、私は『聖女』でしたから。その言葉は何度も何度も何度も何度も」


小人族は『大地の精霊』の眷属。だから弟への『愛』はとっても大切なのだ。

そう思い、テリアの怯えた瞳を見ていると可笑しくなった。なんて美しく、なんてくだらない。

その純粋な瞳――つぶしてやろうか。


「……そこまでだ、セリナ」


セリナの視界が誰かの手によって塞がれた。

それがリオナルドが背中から抱きしめるように、セリナの目を隠していることに気づくのに少しの時間を要した。


「落ち着いてくれ。もうそこにセリナはいない」


背中に感じる温もり。力強くも優しい声。

思い出したくない記憶が少しずつ遠くに行く気がして……それと同時にセリナの心に温かさが戻ってくる。


あぁ……やってしまった……


大きくため息と深呼吸。

二度、三度と繰り返し、なんとか落ちついたと思った時、セリナはようやく言葉を発した。


「……すみません。少し、暴走しました」

「あぁ」


冷静になったと判断したリオナルドが、セリナから手を離す。

テリアは仰向けのままガタガタ震えていたので、とりあえず拘束していた魔力の糸を解除する。


「姉さんっ!」


アルネスが急いでテリアを持ち上げて走り出した。向かったのは泉の方角だ。

誰もいなくなったセリナの前。だがすぐにそこに影が出来た。


「やりすぎだ、バカ野郎」

「すみません」


見上げると腕を組んで立つエルンストがいた。

怒っているようだが怒り切れない、その気持ちをぶつけるようにセリナの頭を乱暴に撫でた。


気をつけていたはずなのに……


セリナの過去は自分にとっての逆鱗だ。

触れられても軽く流せるようになりたいのに……まだまだ未熟だと痛感する。


「なんなのよっ!なんなのよぉぉぉおおっ!」


バシャバシャという水音とともにテリアの叫び声が聞こえた。

目配せした後、セリナはその場所へと向かう。

すると、やはり泉の中で暴れているテリアがいた。アルネスは泉の外で見守っている。


「テリア」

「ひっ!」


セリナが声をかけるとテリアが少し後ずさった。

だが、目に涙をためながらも闘志は衰えていない。


「でもっ!でもでもでもっ!私はやっぱり許せない!私のアルネスを返してよっ!」


アルネスが女装をしたこと、旅を始めたこと、これはセリナはあくまで『きっかけ』であって、アルネスの意志だ。

そんなアルネスの前で『返してよ』は、弟が大事だとしても盲目すぎないか?


しかし、ここでセリナがなにを言おうとおそらくテリアには届かない。

ならば、誰の言葉なら届くか――


「……姉さん、僕行くよ。世界を、知識を見てくる」

「アルネスっ!」

「僕を信じて姉さん。僕は、絶対に姉さんのところに帰ってくる。姉さんを孤独にさせない。僕は姉さんの弟だから……」


言いたいことは山ほどあるのだろうが、言葉に出来ないようで小さく首を横に振るテリア。

それを穏やかな笑みで見たあと、アルネスはセリナのほうへ向き真剣な顔で言った。


「僕を連れていってください。力になるとお約束します」

「アルネス……」


もうセリナの心は決まっている。

確認のためリオナルドとエルンストを見ると、二人は笑みを浮かべていた。


――決まりだ。

セリナはアルネスに笑みを向けた。


『ボクはライラ!セリナのアイボーは渡さないからねっ!』


セリナがなにかを言う前に、ライラが宙をくるりと回り、ビシッとアルネスを指さす。

それを見てびっくりしたようだったが、やがてアルネスは楽しそうに笑った。


「あははっ、わかったよっ。僕はアルネス。よろしくねっ」

『セリナを傷つけたら許さないからなっ!』


ライラがアルネスのそばへ降りていき、エルンストに教えてもらったという挨拶……こぶしを突き出すと、アルネスもこぶしを作りコツンと合わせる。

男は全員知っている共通の挨拶なのだろうか?


ライラには『そちら』側に染まらないように、毎夜言い聞かせないといけないな、これは。


「おんやまぁっ!なにが起こったのさねっ!」


広間から聞こえるおばちゃんの大きな声。

それと同時にセリナとテリアの顔がげんなりとする。


そして二人の予想通り、全員、特にテリアがおばちゃんのお説教を受けた。

正座した足がしびれて全員しばらくの間、立ち上がれないくらいに。

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