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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
130/133

第130話『調和するもの』

街の復興がだいぶ進み、少しずつだが再開する店が増えたころ、ようやく魔法陣が完成した。

空に出来た透明な床にある魔法陣、その手前にはセリナ、奥にはアルネスがいた。

そして、隅っこで固まるようにリオナルド、エルンスト、ライラ。

他には、テリア、おばちゃん、おじさん。

『西国』女王エルダ、摂政のオルネム。


セリナが考えた、魔法陣を作動させるために必要な人材だ。


全員がセリナとアルネスの動向を気にしている。

特にテリアはアルネスと話せない状況に苛立ち、その気持ちをセリナにぶつけたいようだった。


憎しみと、リアナの洗脳魔法の相乗効果で、いつセリナを殺そうとしてもおかしくない。

それをしないのは、おばちゃんに止められているから。しかし、今まで見てきた洗脳魔法にかかった人間を見る限り、暴走してもおかしくない。


『大地の精霊』の洗脳がリアナの洗脳を上回ったか、セリナが思っているほど、リアナに洗脳されていないのか……


……いや、なんでもいい。今日で終わりだ。


セリナは目を閉じて深い深呼吸を一つ。

その後、開いた瞳は目の前の虚空を見つめていた。

そして紡ぐ。言葉を。


「来なさい、全ての元凶『大地の精霊』よ」


眷属たちがピクリと反応し、ピリッとした空気が一瞬で辺りを包んだその時だった。

空にいるのに辺りが砂埃にまみれ、強制的に目を閉じる。

それが収まったのを音で感じ、目を開けるとそこには黄色の美しい衣装を身にまとい、セリナを真正面から見下ろす男女がいた。


『大地の精霊』が男女で揃うと壮観だ。泉についていた男女の像などしょせん作り物だとわかるくらいの、美しさと神々しさを感じる。


セリナはまっすぐに二人を見ていた。

いつものように『聖女』のような美しい笑みと姿勢を携えて。


『あぁ、私たちを呼び出したのはそなたでしたか』

「呼びかけにお応えいただき、恐縮でございます」

『うむ』


そう言って礼をしたのは、精霊の後ろにいるアルネス。

対して、セリナの姿勢が一切変わらないことに気づいているだろう。


精霊相手にまったく臆さない態度に、力に怯えもしない『聖女』と呼ばれる人間ごときに、思うところはあるだろう。

だがそんなものは関係ない。思うところがあるのはこちらも同じだ。


セリナだって一人の人間なのだから。


「ずいぶんと人間に好き勝手されましたね」


セリナの言葉に『大地の精霊』たちはピクリと反応し――

二人同時に、頭を下げたのだった。


「せっ、精霊様!なんてことをっ!」

「そうだべっ!オレらなんかに――」

『我らは人間と盟約をかわすもの。人間に危害を加えることがあってはならなかった。謝罪する』


おばちゃんとおじさんの口を黙らせたのは、他でもない『大地の精霊』だった。

その対象である人間たちは話さない。セリナに全て任せる。そう話がついている。

セリナはにこりと笑い、口を開く。


「お二人のくだらないプライドで、ずいぶん人間が巻き込まれました。その程度で、終わらせるつもりはありませんよね?」


こんな言葉、他の精霊だったら意に介さないだろう。

だが、この『大地の精霊』は違う。

元凶のケンカにもなるくらい、人間との交流を望み、昔の約束を守ろうとしているのだ。

それくらい人間を大切にしたいという思いが強い。だからこそ強気にセリナは言うのだ。人間という言葉を絡めて。


『わかっています。私たち『大地の精霊』は貴女の力となりましょう』

『目覚めた以上、この国の安寧も約束する。私たちの力による影響もなくす』

「足りません」

『え?』


驚く『大地の精霊』たちにセリナは続ける。


「私の力になるのは試練を超えたから。国の安寧はかつての盟約。当然すぎて足りないと申し上げているのです」

『だ、だがっ……!』

『どうしたら良いと言うのですかっ!』


セリナは人差し指を伸ばす。


「一つ、洗脳魔法の技術を使って、この魔法陣にあらゆる洗脳の効果を無くす魔力を付与する」


また一つ指を伸ばす。


「一つ、お二人の力を『私たち』の権限で使えるようにする」


また指が増える。


「一つ、先ほどの『当然』を遵守する」


指を直し、口に手を当ててにこりと笑う。しっかりと『大地の精霊』を見据えて。


「これが条件です。いかがですか?」


本当ならもっと条件があっても良いくらいだが、これ以上『大地の精霊』を刺激して拗ねられても困る。

それに、この条件なら『大地の精霊』に不都合などないだろう。


『大地の精霊』たちは目を合わせなにかを考えこんでいるようだ。

その間なにも話さない。ただ待つ。

さて、プライドが勝つか、人間への罪悪感が勝つか。


『わかった。言うとおりにしよう』


セリナの勝ちのようだ。


『ではまず『聖女』と契約をする。それから『氷の精霊』のように、誰かもう一人力を分け与えたほうが良さそうだ』

『そうですわね。まだまだ『聖女』の力は小さい。ならば、守る者が必要でしょう。それが『聖女』の言った私『たち』なのでしょう?』

「いいえ」

『え?』


今日何度目かの精霊による驚きと、それに対応するセリナの笑み。


「私の仲間に力を授けてくださる話はありがたく頂戴しますが、私が言っている人物は違います」


そう言ってセリナは一人の人間を見た。

視線に気づいたその人物は、驚きの表情を隠せなかった。それは近くにいた人間もだった。


「ここは『西国』です。ならば、その国を統治する人間が、特別に精霊の加護を受けていても問題ないでしょう?」


これがセリナのこの交渉の一番のキモだ。

苦しみを、喜びを、重みを知る、女王エルダに力を託したかった。


「セリナ……貴女は……」

「エルダ様。どうかこの国のために、その命を使ってくださいませ」


精霊にもしなかった礼を、エルダに向けてする。

この国がどうなろうとセリナには正直関係ない。この国の行く末は、この国を案じる者が決めれば良い。

その『きっかけ』を作るだけ。


「私は……」


エルダは戸惑っていた。だが、横にいるオルネムを見て……彼がうなずいたのを見て、その顔は変わった。

一人のか弱い女性から、国を統治する女王へと。


その時、やりとりを見ていた『大地の精霊』たちが、嬉しそうに笑い始めた。その声はやがて大きくなっていく。


『気に入った!気に入ったぞ『聖女』よっ!そして国王よっ!』

『我らは力を貸すことを約束しましょうっ!』


砂埃が再び巻き上がる。

だが目を閉じるほどではなく、その理由が魔法陣に向かっているからだと気づいた頃には、魔法陣の線に沿って『大地の精霊』の力がまんべんなく行き渡っていた。


『我ら『大地の精霊』であり双柱神(そうちゅうしん)!私の名前はオルド!』

『私の名前はオルディナ!二つでテラ!調和するものなり!』


セリナの体の中に力が入り込んでくる。かつて精霊の試練を超えた時のような温かな力だ。

力に反発することのないように、セリナは目を閉じた。流れに身を任せ、ただそこに在る力を受け入れる。

やがて……力がセリナを満たした時、カッ!と目を開き叫んだ。


「テラっ!力を貸してっ!」


手を魔法陣へ向けると、セリナを包んでいた力が形を変える。

それは踊り子の衣装のようで違う、神々しいものへと変化した。

『氷の精霊』の時と同じだとすると、これは『大地の聖衣』と呼ぶに相応しい服だ。


どんどん湧き上がる力を魔法陣へと解き放つ。

その間にもう一つの力が魔法陣を取り巻いているのが分かった。アルネスだ。

見ると、セリナと似ているが、さらに動きやすそうな神聖な衣装に変わっていた。


「あああああああっ!」


全力で魔力を解き放ち、セリナは吠える。

温かい力なのに、全身を容赦なく痛めつける。これ以上は持たないと体が言ってくる。

今のセリナには過分な力だが、それくらいしないと完成しない。

それがこの魔法陣だ。


セリナの最終目的は、世界規模の洗脳魔法を解除するための魔法陣の完成。

そのためには、この程度で音をあげるわけにはいかない。いや、あげたくないっ!


――望むところだっ!


魔法陣が呼応し、効果を解き放つ。それはセリナが思い描いた形通りに。

さらに光りだし、目が開けられないほどのものになっても、セリナは魔法陣をしっかりと見ていた。


もうこの国に、二度と同じ悲劇が起こらないようにと。


これはいつもの静かなものとは正反対の、セリナによる『聖女』の祈り。


応えろっ!魔法陣っ!


国を覆うほどの砂埃が空にあった雲を四散させた。

ビリビリと山脈が悲鳴をあげるが、国は『大地の精霊』によって守られている。


そして……魔法陣の光がどんどん小さくなっていき……


セリナが力を使い果たし、ぺたんとその場に座った時、見えたもの。

淡い光を放ちながら正常に機能している、魔法陣の完成形だった。

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