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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
128/130

第128話『合流』

おじさんに泉の水をかけられ、全員の魔力が回復した。


「まだまだ任せるには早すぎるようだな、アルネス。ちゃんと『聖女』さまに感謝すんだべよ」

「あはは、そうだね。あのままだったら死んでたし」

「……簡単に言うんじゃねぇよ、その言葉」


エルンストが像の前に座り込んだまま、おじさんとアルネスを睨んで言う。

それに対して二人は、きょとんとした顔をしている。おじさんにいたっては『なに言ってんだ?』くらいの態度で、すねを足の爪で掻いている。


これはもう、価値観の違いだな、なんてそれぞれを見ながらリオナルドは思っていた。


おじさんが言うように、精霊にとってこの命など軽くたやすいものだ。そう教育され、なおかつすべてを捧げるために生まれてきたおじさんとアルネスにとって、自分の命は軽い。


対してエルンストは、その話を聞いてもなお譲れないものがある。全ての命が重い。


見ているリオナルドは、命についてどう考えていただろう?

リオナルドは騎士だ。消えていった命を何度も見てきた。そのたびに涙を流し、心が壊れそうな思いもした。


とても尊いもの。だが簡単に失うもの。どちらでもある。それが命……


エルンストが命について考えることになった二十五年前、まだリオナルドは二歳だ。その地獄を経験していない。感覚としては資料に書かれているようなおとぎ話だ。


その地獄を体験したいわけでも、起こしたいわけでもない。

でも、遠い話でしかない。

だからこそ、そこまで命について考えられないのかもしれない……


エルンストと同じく座っていたリオナルドは立ち上がる。そして考えるのをやめた。

そしてエルンストのほうに向かい、手を差し出した。


「行きましょう」

「……くそっ」


言っても無駄だとエルンストも察したのだろう。リオナルドに助けられつつ立ち上がる。

今は水がなくなった泉のほうへと歩き、穏やかに笑うアルネスの元へ向かった。


「さぁ、行きましょう。精霊様はこの先です」


アルネスが目で示した先には、先ほどまではなかったドアのような穴があった。

アルネスに続くリオナルドたちだったが、ふと振り向くとおじさんの足は止まっていた。

おじさんは後頭部をガリガリと掻いていて、頭頂部の三本の髪の毛が揺れている。


「あー、ちょっと待て。お前らだけじゃこの先もしんどいべ。んだけどオレはついていかん。アルネスがやることだからな」

「うん、頑張るっ」

「だからな、これを……っ!よっこらしょっと」


おじさんはおもむろに歩き出し、男女の像の男のほうを身体全体でつかむと強引に回し始めた。

男の視線が壁に向かうと、今度はそこにドアのような穴が開いた。


「そうだべな……お前だ、小僧。お前にピッタリだべ。持ってけ」

「あん?なにをだ?」


目で指されたのはエルンスト。

おじさんにあごでその先に進めと示され、眉間にしわを寄せながらも穴の中に入っていく。

中は暗くなにも見えない。なにが起きているかわからないが、不思議と嫌な気持ちにならない。


いや、この気持ちはさっきの空気を感じた時からだ。

精霊が試練を乗り越えた瞬間だという、あの時からずっと……


「なんだぁっ?これをどうしろってんだよっ!?」

「んなもん、使いかたは一つだべ」


穴の中からエルンストの不満げな声が聞こえ、おじさんは指で耳を掻きながら答える。


一瞬の沈黙――


エルンストの『チッ』という大きな舌打ちが聞こえたあと、なにやらガシャンガシャンという音が聞こえてきて、リオナルドは思わずアルネスと顔を合わせた。

アルネスも知らないようで、困った顔で首を傾けている。

そして、エルンストが穴の中から出てくる。


「それは……鎧ですか?」

「おう。それも『大地の精霊』様のご加護が入った鎧だ。それ着ているだけで強くなれるっちゅーすごいもんだ。ありがたいべ?」


セリナやエルンストの『氷の聖衣』や『氷の鎧』のようなものか?

こちらは誰でも着ることが出来ると。


「……俺の筋肉が……見えねぇ……」

「そういうハンデが人を強くするんだ。こっちの小僧と違い、お前はそのタイプだべ」

「………………」


エルンストのくぐもった、悲しげな声が鎧の中から聞こえる。

全身鎧人間になってしまっていて、唯一見えるかもしれない目の部分も赤く光っている。


「かっこいいっ!なにこれおじさん素敵だねっ!」

「だべっ?だべっ?男ならやっぱこれよっ!」


確かに機能重視でありながらも、見た目が洗練されている鎧だ。心が躍る気持ちもわかる。

だが、中に入っているエルンストは心底不満そうなのが、全身鎧に包まれていてもわかる。


「こんなの……こんなの……男は脱いでナンボだろ……」

「そうかなぁ?すっごいかっこいいよっ」


アルネスがポニーテールを揺らしながらはしゃぎ、エルンストの周りをグルグル回っている。

鎧をつぶさに見たいのだろう。キラキラした瞳は、見た目に反して少年のようだ。


「ほれ!さっさと行けっ!もう『聖女』さまが着いてしまってるかもしんねぇべっ!」

「そうだった!じゃあ行くね!ありがとうおじさんっ!」


ハッとなったアルネスがエルンストからようやく離れて、本来向かう穴のほうに行く。

おじさんに頭を下げて続くリオナルドと、ガシャンガシャンいわせながら歩くエルンスト。


……ちょっと面白い。

いつもどおりの顔でいるが、ちょっと油断したら吹いてしまいそうだ。


歩く先に待っていたのは、暗い洞窟のような道だった。

短いような長いような道を進んでいく。かすかに光る道のすみにある花が唯一の光源だ。

影を落としながらも照らされる鎧に、確かにカッコ良いかもしれないなどとリオナルドが考え出した頃――


「……っ!目覚めたっ!」


アルネスが言った言葉が耳に届いた瞬間に、強力な魔力、いや、力を感じて思わず地面に潰されそうになるのをこらえる。


――この感じは覚えがある。精霊だっ。


「先に行くねっ!」


そう言い走り出すアルネスに、リオナルドとエルンストも黙って続いた。

訓練の成果か、突進力に長けているアルネスになんとかだがついていけている。エルンストは鎧のせいで遅れているが。

そして、大きな空間に出た。


そこには、見覚えのある台座が置いてあるだけ。

あれは、セリナが魔力を込めることで精霊を呼び出すものだ。

それを確認したリオナルドは上を見た。


『あぁ、なるほど。そなたらは『風の精霊』が言っていた『聖女』の仲間か……』


黄色の服を身にまとい、まさに神だというが如く神々しく顕現する男。

はっきりわかる。これが『大地の精霊』の片割れだ、と。


「お出迎えが間に合わず申し訳ありません。(わたくし)は巫女でございます『大地の精霊』様」


アルネスが両膝とこぶしをじめんにつけ、頭を下げる。

眷属の礼の仕方だろう。とても綺麗で洗練されている。


『良い。私は向こうのが目を覚ましたから目覚めた。そのタイミングはわからないだろう』

「ありがとうございます」

『ところで、やはり『聖女』は向こうにいるのか?』

「はい。そのように聞いております」


そこでようやくエルンストが到着した。

それをリオナルドが確認した時、空気が変わった。


『そうだ……私の作品は素晴らしい。なのにどうして……!』


『大地の精霊』はエルンストを見ていた。先ほどのアルネスと同じく、全身をしっかりと見ていた。

そして穏やかだった『大地の精霊』が震えていくのがわかる。


これは……怒り?それに作品とは?なんの話だ?


そんなリオナルドの疑問を『大地の精霊』が答えることはなかった。

その前に地面が、いや、世界が揺れ始めたのだ。


「なっ!なんだぁっ!」

『ちょうど呼んでいるようだ。応えよう。もう一人の私に。そして認めさせるんだ』


そうひとりごとを呟いた『大地の精霊』が消えていく。

次の瞬間――


「うおおおおおおおおおおおっ!?」


その場にいる全員が、なにか丸い空間に包まれ猛スピードで天井を突き破って登っていく。

中に居る三人は重力に押しつぶされそうになりながらそれに耐え……気がつくと久しぶりの青空が周りにあった。


「ど、どういうことなんだアルネス……?」

「わっ、わかんないっ!なんで怒っているんだろう?」


リオナルドの疑問にアルネスが答えられないということは、アルネスが巫女として産まれる前からなにかがあったということか?

少なくとも約四百年以上前。精霊ならそれくらい前から在るのは当然だが……


「……おい……なんだアレ……?」


よっぽど不満もあり、動きにくいのだろう。起き上がるのをやめた鎧エルンストが、指をさした先をリオナルドは目で追う。


そこには……


「あれってもしかしてゴーレムくんっ!?」

「ゴーレム、くん?」


アルネスが途端に目を輝かせ、リオナルドは状況がつかめずオウム返しし、エルンストは変な格好で倒れたまま。


「あぁっ!あっちにはゴーレムちゃんもいる!どういうことなの!?」


それはこっちが聞きたい。

『西国』を囲む大きな山さえも見下ろす巨大ゴーレムが二体、そこに悠然と立っていた。


「ち、ちょっ、あの、アルネス説明してくれっ。ゴーレムくん?って?」

「ゴーレムくんっていうのはね!精霊様がああああああっ!」


リオナルドの質問に答えようとしたアルネスの言葉が悲鳴に変わる。

三人を囲む球体がまたも猛スピードで動き出し、今度はゴーレムくんの頭上まで運んだ。

そしてその頭部分が開いたかと思うと、三人はその中に運ばれ、役目を終えたと言わんばかりにパチンッ!という音を出して球体は消えた。


「まさかっ!ゴーレムくんの中に入れるなんてっ!」


アルネスが手を組んで、嬉しそうにキラキラと目を輝かせている。

鎧エルンストは相変わらず、哀愁の漂った状態で倒れている。

リオナルドは、状況をつかもうと起き上がり……いきなり動き出したゴーレムくんにそれを阻まれる。


『やはり……アレを持ち出してきましたね。予想通りです』

『わかっていたよ、君の考えはね。でもあえてそうした』


聞こえてきたのは先ほど対峙した『大地の精霊』の声と、それに反応する女性の声。

ゴーレムちゃんから聞こえてきたように思えた。もしかしてこの声の主が『大地の精霊』の片割れか……!?

そうして始まる『大地の精霊』たちの言葉の応酬。


感動してそれどころじゃないアルネス。

どうにでもなれと倒れたままの鎧エルンスト。

その中で聞き捨てならない言葉を聞き、思わずリオナルドは叫んだのだった。


「セリナ!そっちにいるのか!?大丈夫か!」


その言葉に、ゴーレムちゃんからくぐもってはいたが、聞きたかった声が聞こえた。


『大丈夫です。それよりこの状況をなんとかしなければ――』


冷静な判断をくだすいつものセリナ。

その事実に、リオナルドは心から安心したのだった。

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