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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
122/126

第122話『巫女』

「アルネスじゃねーか!帰ってきたのか!」

「おうっ。久しぶりだなっ。五十年ぶりか?」

「ありゃ?ネーチャンは一緒じゃねーんかい?一人でどした?」

「アルネスだー!また遊んでよーっ!」


散見する家の方へ降りていくと、そこに居た男たちが次々と美女へ話しかけていく。

それに対して美女は返事をしながらも、リオナルドたちを更に奥へと案内した。


「あんた、アルネスってーのか?」

「そういえば、自己紹介すらまだでしたね」


先頭を歩いていた美女がリオナルドたちの方を向き、ペコリと頭を下げる。


「初めまして。ボクはアルネスと言います。よろしくお願いします」

「おう、俺はエルンスト。こっちはリオナルドだ」


エルンストが軽く紹介すると、美女――アルネスはニコリと穏やかに微笑んだ。

そして、再び案内を開始するかのように歩き出す。


「改めまして、ここは小人族の里です。この国にいくつか点在する内の一つ。男性だけが住む里です」

「何故だ?人間の街もそうだが、どう考えても異常だ」

「それは、他の国の出身だからそう思うんだと思います。この国ではこれが平常なんです」


さらっと言われ、エルンストが口を閉ざす。

国々には独自の文化がある。そういうものだと言われたら、そう思うしかない。


「……ですがボクも思いました。この男女分割の制度は異常だと。でもそれはこの国を離れて、冒険者として旅をしたから気づけました。そんな経験をしたことがない限り、気づけないようになっています」


少し引っかかる言い方だ。

()()()()()?まるで、誰かが意図的にそうしているかのような物言いだ。


「時にお二人は、洗脳魔法というものの存在をご存知ですか?」


リオナルドとエルンスト、同時にピクリと眉をひそめる。

その魔法は、今二人を悩ませているものの一つだ。

それをアルネスから聞くことになるとは、思ってもみなかった。


「ボクは、この制度は誰かが洗脳魔法をかけている可能性があると睨んでいます」

「……こんな大規模なこと、そう簡単にできるものではないだろう?」

「そうですね。ですが、それができる存在をボクは知っています」


チラリとリオナルドを見るアルネスの瞳は真剣だ。

それに対してリオナルドは警戒心をあげた。

……まさか『聖女』リアナの洗脳魔法について、なにか知っているのか?


「へぇ。それは一体誰だってーんだ?」


エルンストがそう問いかけると同時に、アルネスの足が止まった。

大きな両開きの扉がそこにあり、アルネスがそれを開く。


すると、その先には大きな部屋があった。


左右にドアが二つずつ、正面に二つ。後ろには先程の大きな扉が一つ。

その場所はここまで見てきた里とは違って、土で作られた場所ではなかった。

石や粘土で作られた壁で覆われ、そこにツタが生え、小さな花がチラホラ咲いていた。

ステンドグラスが壁にあり、そこから陽の光が差し込んで、とても幻想的に部屋を彩っていた。


「ここは人間の街の地下深くにあります。ですが、こんなに明るい。何故だかわかりますか?」


部屋の中央で両手を広げクルリと回るアルネスの言葉に、二人はなにも答えられない。


「あぁ、すみません。エルンストさんの質問の答えが先ですよね」


にこりと微笑むアルネス。

その中世的で穏やかな声は、次にとんでもない言葉を発した。


「ボクは、精霊様の御業(みわざ)だと思います」

「は……?」


今日何度目だろう?

リオナルドの頭の理解が追いつかず、こうして固まるのは……


「ちなみに、この明るさも精霊様の御力です。ここには『大地の精霊』様が眠っておられますので」

「ち、ち、ちょ、ちょっ、ちょっと待ってくれ!」


あまりにもな展開に、慌てながらもリオナルドはなんとかアルネスの話を止めた。


「だ……『大地の精霊』がここに……?」

「はい。ボクはその『大地の精霊』様の眷属です」


次々に押し寄せる情報の波に押し流されそうだ。

横にいるエルンストも、目を丸くしたまま帰ってきていない。


「ま、ま、待ってくれっ。け、眷属?」

「はい。正確には小人族が眷属、ボクはこの場所を守る巫女です。まだ継承していませんので、見習いですが」


また新しい情報が流れてきて混乱するリオナルド。

めまいにも似た感覚に襲われる中、先に落ち着いたのはエルンストだった。


「いったん整理させてくれ。まず、ここには『大地の精霊』が眠っているんだな?」

「はい」

「んで、お前が眷属で巫女?」

「はい」

「ずーっと気になっていたんだが、そもそも眷属ってなんなんだ?巫女とは?」

「そうですね。少し複雑なお話になってしまうのですが……」


そう言うと、アルネスはうーんと頭を悩ませた。

混乱している二人に、わかりやすく説明してくれようとしているのだろう。


「この世界は『精霊王』様が作り出した。それはご存知ですか?」

「んなもん、そこらのガキでも知っている話だろ」

「そうですそうです。ですが、全ての種族が『精霊王』様から生まれたわけではないんです」

「あ?」


首を傾げるエルンストに、アルネスは穏やかに微笑んだ。


「精霊たちが『精霊王』様の真似事をして作った存在。それが眷属なんです」


つまり、ライラ……エンシェントスケールキャットは『風の精霊』が作り、小人族は『大地の精霊』が作った存在だということか?


「余談ですが、今の人間たちはかつて『精霊王』様に作られた存在に、各国を守護する精霊たちの力が混ざった種族となっています。だから、他の種族よりも多種多様な力を得たりするんですよ」


『東国』出身のリオナルドが『風の精霊』に守られたのは、自分の力が混ざっているからだったのだろうか?

『風の精霊』が特にリオナルドには厳しい理由も、そこにあるのかもしれない……


「えーと?つまり?」


エルンストが、頭からプスプスと煙を出しているかのようだ。

エルンストの頭は決して悪くない。むしろ戦闘面での回転は速いくらいだ。しかし、こういう話は昔から苦手みたいだ。

その様子を見て、アルネスは『あはは』と笑った。


「つまり『精霊王』さまが祖父、精霊が親になるのが眷属ってことです」


あぁ、そう言われるとわかりやすい。


「そして『大地の精霊』様は、眷属の中から自分を守るための存在として力をお分けになられた。それが巫女です」


人間の中でも特別魔力が高いものが『聖女』と呼ばれ、人間の国を守る。

その構造と同じというわけか。


「……よぉしっ。そこまではわかったっ!」


あ、これはわかっていないな。とエルンストの様子で気づいたが、リオナルドはなにも言わずにいた。


「本題だ。精霊が洗脳魔法をかけている根拠は?」

「規模です。国全体を覆えるほどの力を持つ者を、ボクは精霊以外に知りません」

「……なるほど」


『大地の精霊』の力を宿して、その存在を知っているアルネスだからこそ、出た答えなのだろう。

その瞳はまっすぐだ。


「そう思っていました。最近までは。ですが、旅をして知りました。他にも洗脳魔法をかけられる存在を」


穏やかな空気が一瞬にして消え、ピリッとした空気が流れた。

リオナルドの警戒心が上がる。


「へぇ。そんなヤツがいんのか?」

「お二人はご存知だとお見受けしました」


ピクリとリオナルドたちの体が動く。

それを見て、アルネスの確信をさらに深めてしまったようだった。


「根拠は?」

「貴方です、エルンストさん。宿していますね、精霊の力を」

「……巫女はそんなことまでわかるのか?」


リオナルドの言葉にアルネスがこくんとうなずく。


「だからボクはお二人をここに連れてこようと思いました。きっとこの国を変えるきっかけを作ってくれるだろうと」

「……何故そう思った?」

「少し前の『北国』での騒動を聞いております」

「なるほど」


アルネスは冒険者として旅をしていたと言っていた。

その間に聞いて、好奇心から色々調べたのだろう。


「だがわかんねぇな。何故俺たちに頼る?巫女とかだっつーなら、自分で『大地の精霊』に言えば良いじゃねーか」

「それは――」


その時、アルネスの言葉をバンッ!という大きな音が遮った。

音がした方向を向くと、一番奥の部屋のドアから誰かが出てきていたところだった。


低身長で、灰色がかった肌。

側頭部にまばらに残った黒髪と、頭頂部に三本だけ長く残った髪があり、光に照らされている。真ん中の一本だけ赤色だ。

着物と呼ばれる服を着て、茶色の腹巻きに片手を入れており、気だるそうに後頭部を掻いている。

そんな腹が出た、見た目は五十代くらいの男。


「おじさんっ!」

「んあ……?あぁなんだ、アルネスか。うっせぇ姉貴はどーしたんだ?」


緊張した空気が、すぐに霧散したのは言うまでもなかった。

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