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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
121/126

第121話『憤り』

リオナルドの思考は一度止まった。

目の前にいる美女はどう見ても女性だ。しかし本人は男だという。

リオナルド自身も魔道具で顔を女性に変えることもある。だから、リオナルドの知らない魔道具か魔法があるのだろう、と納得させた。

だが、横にいるエルンストはわかりやすく『なに言っているんだ、コイツ?』と全身で言っている。


「今は負傷者の処置が先です。ボクの話はそのあとでいいですか?決して逃げません」

「……あ、あぁ。そうだな」


美女の言葉に同時にハッとした二人。

リオナルドが美女に応えると同時にエルンストは、自身の時空の倉に再び人々を入れるため動き出していた。

エルンストも美女の言葉を信じたのだろう。それくらい、美女の言葉も態度も純粋だ。


……もしこれでリオナルドだけじゃなく、エルンストまでも騙せているとしたら大したものだ。


そんなこと出来る人間はおそらくいな……い、と思ったが、頭の中に『聖女』のような微笑みをする女性を思い浮かべてしまったので、否定できなくなったリオナルドは小さく頭を振り、地図を取り出して負傷者を運ぶための教会を探しだしたのだった。






「ちくしょう……っ!」


エルンストが舌打ちをする。リオナルドも同じ気持ちだった。

運んだ教会での出来事。治療費を払うことになったのはまだ良い。道中で依頼をこなしてきたから、懐には余裕がある。

しかし、それでも受け入れを何人か拒否されたのだ。ケガがひどいからというわけでも、治療が必要ないというわけでもない。


『女だから』という理由だ。


ここは男の街だ。だからといって、聖職者が目の前の怪我人を拒否するなどあってはならない。少なくともリオナルドの価値観ではそうだ。

エルンストも同じだったようで、襟首掴んで怒鳴っていた。


「ふざけんな!そんな理由で見捨てるのかよ!」


だが、怯えた聖職者はそれでも首を縦に振らなかった。

そのうち……床に倒れていた一人の女性がふらつきながらも立ち上がった。

その女性は、リオナルドにメイクを施した女性だった。


「行かなきゃ……」


その言葉とともに肩が淡く光った。

嫌な予感がしたのは三人同時で、美女がそっとだらんと伸びきった女性の服を、首元から肩に向けてめくった。

そこにあったのは……


「奴隷紋……か……!」


フラフラと目の焦点を合わせずに歩き出す女性を、エルンストが止めかけて――それを美女が止めた。


「んだよっ!」

「……命令に逆らうと、奴隷紋が……なにが起こるかわかりません」


悲痛な顔で首を横に振る美女を見て、エルンストはワナワナと震え……やがて抵抗をやめる。

そのうち、教会からも何人か出てきた。先に歩きだした女性に続いていく者もいれば、全く違う場所へと移動する者もいる。

教会で治療された者、床に転がる者、他人の意志によって無理矢理動かされる者……

それを、三人はただ見ていることしかできなかった。


こんな時、セリナが居たら……っ!


リオナルドはそう思いながら、心の中で歯ぎしりをした。

でもこの場にはいない。なにもできない自分に嫌気がさす。

床に寝ている者たちは、美女がもう一度魔法陣で治した。だが、完治出来たわけではない。

そして目が覚めた者たちから順番に、どこかへ怯えながら逃げていったのだった……


「なんなんだよ、この国は……っ!」


エルンストがさっきからブツブツと文句を言っている。

今向かっているのは、美女がゆっくりと話せるというところだ。美女が先頭で案内されている最中。

『二人の人柄を見て、ボクの全てをお話します』という、その力強い言葉を信用することにしたのだ。


エルンストに落ち着け、というのは簡単だ。だが、リオナルドも憤りを感じている今、その言葉を投げかける気にならない。

その状況のままただ歩くこと十数分、美女の足が止まった時、リオナルドたちは視線を上に向けた。


「着きました。ここです」


そこは古びた家屋だった。

少し手前には、銅や鉄などで作られた家がたくさんあったのに、そこにポツンと出来た家は木造で、ツタが屋根を巻き込みながらのびのびと生えている。

誰も近寄らなさそうな小さな一軒家。だが嫌な気持ちにはならない。

むしろ時を感じさせる、まるで遺跡を見たような気分にさせられた。


「ここはお前の家か?」

「うーん、そうですね。正確に言うと『入り口』です」


美女はエルンストの言葉に、にこりと笑いそう答えると、入り口の扉を開けて中に入っていった。

リオナルドはエルンストと一度顔を見合わせたあと、それに続いた。


中は……普通の家を変わらないように見えた。


灯りがあり、机があり、イスがあり、キッチンがあり、ベッドがある。奥には一つのドア。

一人で住むには十分に広い場所だ。ただ、やはり今までこの国で見てきた家とは全く異なるため、違和感はぬぐえない。


美女はそのまま進んでいき、奥にあるドアを開く。

その先にあったのは……洞窟のように丸く掘られた大きな空間だった。


「こりゃあ……」


どこに連れていかれるのか、と警戒するも、美女は変わらずの足取りで進んでいく。

もう一度、今度はエルンストがしっかりとうなずいたのを見てから、リオナルドは美女に続いた。

続く道は変わらず。エルンストが我慢できなかったのか美女に問いかける。


「おい、一体ここはどこなんだ?」

「ボクの故郷に続く道です。この先に里があります」

「里?」

「えぇ。ボクたち小人族の里。たくさんあるうちの一つです」


やはり小人族……

リオナルドがその言葉で確信を持った時、後ろのエルンストが声をあげた。


「小人族ってーと、人間っぽい見た目のちっこいやつらだっけか?その割に、あんたはでけぇな」

「はい。ボクは異端の者として産まれました。でも違うのは身長だけ。それ以外は普通の小人族と変わりません」

「変わらない、ねぇ……」


じーっと見るエルンストの視線に気づいたのか、美女が思わず苦笑する。


「この見た目はボクの魔力を使って変えています。身長を変えたいというところから魔力の研究を始めて、そうして手に入れた能力ですが……その、自分の体を変えられると知って、だんだん楽しくなってきて……」


ポッ、と顔を赤く染める美女。

なぜそこで照れるのか……リオナルドにはわからなかったが、違う意味で理解した。


あぁ。この美女は、魔力の研究にのめりこんでいくタイプか、と。


『東国』にいるリオナルドの同僚、カスパルという人物がそれにあたる。まぁ、自分の見た目をここまで変えるほどのめりこむわけではないが……


――いや、もっと例えるのにふさわしい人物がいた。

セリナだ。


見たことのない魔道具を見ては研究し、自分の能力へと変える。普段はお金を渋るのに、気になる物には糸目をつけない。

なんだったら、リオナルドやエルンストすら研究対象だ。

実際、ライラはもうすでに毒牙にかかっている。

それが良い結果を生んでいるから口を挟んでいないが、本来だったらそんな実験や研究は許されないことだ。


好奇心は猫をも殺す、とは言うが、セリナはその好奇心で今まで生き延びてきたのだから、なおさらなにも言えない。


そう思うと、なぜか目の前の美女に親近感を覚え、ふふっ、と笑ってしまった。

だが、エルンストは納得できないようだった。


「いや、お前男なんだろ?なんで女の格好してんだよ?」

「え?えーと、これは……趣味です」

「しゅみ……」


またしても赤くなる美女に、エルンストは理解が及ばず固まる。

しかし色々な経験をしているエルンストだ。やがてそんなもんだろう、という達観した顔になっていったのをリオナルドは見逃さなかった。

そして、リオナルドも同じ気持ちになっていたので、心の中で同感していた。


「あ、着きましたよ。ここです」


長い洞窟を抜けると、その先にはたくさんの小人族が生活している様子があった。

談笑する者、なにかを売っている者、子供と遊ぶ者……それは人間の街となにも変わらない風景。

違うのは、いるのが男だけというだけだ。


リオナルド達は上から見下ろしていた。

ふと横を見ると、そこにはスロープのように降りれる場所があった。ここから里の方へ向かうのだろう。


そうして様子を見ているリオナルド達に対して、美女は両手を広げ、満面の笑みでこう言った。


「ようこそ、ボクの故郷。小人族の里へっ!」

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