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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
120/126

第120話『再会』

「ふふっ……ふふふっ……」

「笑うなって言っただろ……?」

「ごめんなさいっ、ついっ」


リオナルドのオークション会場での洋装を思い出して笑うセリナに、リオナルドは不満そうな顔をした。

本人は真面目だからこそ、また面白い。


まぁ、自らあの案を生み出したとは思っていなかったが、まさかエルンスト発案だったとは。

それに、いつも以上に力に頼っているところがある。普段ならリオナルドを殴ったりせず、言葉だけで落ち着かせていたはずだ。

『氷の精霊』の力があるとはいえ、やはりエルンストも平常ではいられなかったのだろう。


リオナルドが、コホン、と顔を赤くしながら咳をする。それを見たセリナは煎茶を飲んで一息。


「まぁ、そのあとはセリナと合流して、あの老人と戦って、セリナと再び別れた。そこから先の話からだな」


セリナがうなずくのを確認したリオナルドは、再びあの時の話を再開し始めたのだった――






「セリナっ!」


リオナルドが叫ぶが、セリナはいきなり現れた恰幅の良い女性にさらわれた。

さらわれたというか、一緒に逃げ出したと言うべきか。これでひとまずセリナは老人の危機を脱したことになるが、あの女性が今度は危害を加えないかどうかはわからない。


だが、リオナルドが『見た』限りでは、少なくとも老人よりは話が分かりそうな人物だった。

それに、老人からセリナを守っていたように感じた。


それはきっと、セリナと一緒にいた女性の存在があるからではないだろうか。


少し灰色のかかった肌に、差し色が入った髪色。セリナと一緒にいた若い女性と似た特徴だ。

そして……リオナルドはもう一人、同じ特徴の持ち主を知っている。

ここに来るまでに出会った美女だ。

この特徴、そして独特の魔力を持っているように感じた。


つまり、人間ではない他の種族の可能性がある。

例えば……小人族。


昔読んだ本に書かれていた特徴に似ている。確信が持てないのは、美女が高身長だったからだ。

小人族の特徴の一つに低身長があるのだが、それに合わない。


しかし、もしあの女性たちが小人族だとするならば、小人族は人間に友好的な種族だ。それならば、ここにいるよりはマシだ。そう思うことにした。


それに今、リオナルドがセリナの身を案じても、なにもできない。


「ふむ、逃げられてしもうたのぅ。まぁええわい。まずは貴様たちからじゃな」


そう言って、老人が刀に手を伸ばすのをリオナルドがとらえた瞬間だった――

鼓膜が割れそうな轟音。小さなガレキが飛ぶくらいの風が辺りを包んだ。


「なっ!なんじゃっ!?」


両腕で防御しつつ、リオナルドはしっかりと理解していた。

なぜなら、その風からなんだか懐かしいものを感じたからだ。つまりこの風の出どころは、リオナルドがよく知る風。


『不本意じゃが、そなたに死なられたら困るからのぅ』


紫の毛並みが風に吹かれて乱れながらも、三つのしっぽが楽しそうに揺れている。

見覚えのあるシルエット。そして声だ。


「貴方が助けてくださるとは光栄ですよ……っ!」

『久しぶりのシャバじゃからな。サービスじゃ』


砂埃が舞い、ガレキが飛び交う。老人の姿も、細身の男の姿も、会場内も風に覆われて何も見えない中、のほほんとした声で『風の精霊』はリオナルドに言った。


『風の精霊』がいつも以上に楽しそうに見える。

こういう時、なにか企んでいそうな意地の悪い精霊だが、今はなんでも良い。助かった。


リオナルドはそのまま、会場の扉があった方へと走る。

風が立ちふさがると思いきや、むしろ背中を後押しするかのように、リオナルドの足を加速させた。


『はてさて。お主のその『目』は今度こそ、全てを見極められるかのぅ。以前のような腑抜けのままなら、ワシ自らその身を切り刻んでやろう』

「………………っ!肝に銘じておきますっ!」


背中から聞こえた冷たい『風の精霊』の声に応えながら、オークション会場から出る。

その次の瞬間――

ガラガラと大きな音を立てて、扉がガレキでふさがれた。この音の大きさだと、部屋の中全てが壊れたのではないだろうか?


「まずい……!」


リオナルドは走り出す。

ここは地下だ。こんな大規模な壊れ方をしたら、他の部屋にも影響するのではないか?そう思ったのだ。

まずはエルンストだ。それからできるなら牢屋に捕まっていた人々も助けたい。

そうして足を魔力で強化して走る。ドレスのスカートが邪魔で、走りながらビリビリと破いた。

これくらいは何度もやっていることだ。たいしたことではない。

そして、来た道を間違えることなく走る。途中誰にも会わなかった。オークション会場で競りをしていた者たちはとっくに逃げた、ということか……


「おっ!リオナルド!こいつで最後だ!急ぐぞっ!」


リオナルドが牢屋があった部屋まで来ると、エルンストが小さな少年を肩に抱えていた。

まさか……


「さすがです!」

「俺を舐めんじゃねぇよっ!」


そうだった。エルンストがオークション会場を追い出されたあと、大人しくしているわけなかった。

その間に牢屋の人々を解放していたのだ。その証拠と言えばいいのか、少年の手に繋がれていた手錠は力任せに鎖だけちぎられている。

……実にエルンストらしいやり方だ。


「あいつには会えたのか!?」

「会えましたがまたはぐれました!無事でした!それからライラから『風』が顕現しているようですっ!」

「あぁっ!?じゃあこの地震はそいつの仕業かっ!なに考えてやがんだっ!?」


走りながらの報連相は基本だ。時間が惜しい時は特に。

そうして二人は出口にまでまっすぐ走り……脱出するっ!

それに合わせるかのように、目の前の工場のような施設が壊れ始める。地下での騒動だ。地盤が緩んだのだろう。


「間一髪だな……っ!」

「これもたぶん……『風』の気まぐれでしょうね……っ!」

「あー、なるほどな……めんどくせぇのが増えたな」


エルンストはそう言って、息を整えながら肩でぐったりしている少年を地面にそっと降ろす。

そのあと、セリナからもらったエルンスト専用の時空の倉を出して、中から捕まっていた人々を出す。

ひどく疲弊している者が多いが、ひとまず全員無事のようだ。


「ちっ。本当に役に立つとは思ってなかったぜ」


それは『西国』へと向かう道中のこと。

セリナがライラに専用の時空の倉を作り出し、それを渡したあと、今度はエルンストに専用のものだと言って渡したのだ。

なんのつもりだ?といぶかしげになるエルンストに、セリナはいつものように手を口に当てくすりと笑った。


「エルンスト様の『守る』という信条に、感銘を受けただけですわ」


なおも眉にしわを寄せるエルンストだったが、これが人を守るために改良された魔道具だと聞いて、しぶしぶ受け取っていた。


「……礼は言わねぇから、お前も言うなよ」

「はい」


ぶすっとしたエルンストに思わず笑いながらも、リオナルドは応えた。

まぁ、時空の倉の研究の過程で出来たもので、ちょうど使ってくれそうなエルンストがいたから実験がてら渡したのだろう、だなんてリオナルドは推測していたのだが、それでもあって良かったことにはかわりないのに……


割と素直に人を褒め、感謝をするエルンストだが、セリナには言いたくないらしい。

第一印象を引きずっているのがよくわかる。そして、エルンストの親友のことでもセリナは間接的に絡んでいて、かつて恨みすらした相手だ。無理もない。


その時だった。

急にした気配のほうへ、リオナルドとエルンストは同時に向く。


「大丈夫ですか!?何が起こったんですか!?」


そこにいたのは、踊り子の服が良く似合うポニーテールの美女。

ここに来るまでに助けた、あの美女だった。


「あのっ!少しですが回復魔法が使えます!その方たちを介抱させてください!」


美女はリオナルドたちが警戒をしているのに気づいたのか、離れたその場で声をあげる。

その表情は実に素直で、言葉と相違ないものだ。

リオナルドはエルンストと目を一瞬合わせたあと、美女に向けて笑みを浮かべた。


「えぇ、ぜひお願いします」

「はいっ!」


美女がすぐに駆けつけ、地面に何かを描き出す。これは……魔法陣か?

セリナだったらどんな効果があるのかわかりそうなものだが、残念ながらリオナルドもエルンストもこういうのには疎い。美女を信じて黙って見ているしかなかった。

もちろん『なにか』するならすぐに剣を抜く。そう思いながらリオナルドは見ていた。


「大地よ……この者に力を……」


美女が手を組んで小さくそう言うと、美女の目の前に描かれた魔法陣が光り出し……その光は空中で小さな粒となって、そこにいる全員の体の中に入っていった。


「これは……」


身体が軽くなったのを感じながら思い出す。見たことのある光景に似ている。

それは、セリナが『北国』でやった『聖女』の祈りだった……


「……ふぅ。少しだけではありますが魔力を回復させました。あとは、教会で聖職者にお願いすると良いと思います」


にこりと優しく笑う美女。それに対してエルンストが厳しい目を彼女に向けていた。

それに気づいたのか、美女は気まずそうにしながら『どうしてそんな目で見るのか?』と疑問を顔に出していた。

本当に素直な性格のようだ。


「あの……」

「すげぇな、その魔法陣」

「え?あ、ありがとうございます」

「それで?こんな大層なことができる美人様は、何故男の街にいる?」


エルンストの瞳が逃がさないと言っているのを見たからか、彼女は困った顔をして……やがて、小さくため息をついた。


「姉を探しているんです……」

「姉?なら余計に男の街に居る理由がわからねぇな」

「簡単に言うと……この国の入り口で離れてしまったんです」


そして言葉は紡がれた。


「ボク、男ですから」

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