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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第一章『東国(ひがしこく)』編
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第12話『遺跡探索01』

朝早くに起きて着替えと朝食を取り準備は万端。

まずは馬車に乗っての移動だった。

あたたかい朝日の心地良さと、朝食のカニごはんが美味しかったなぁと反芻していると、リオナルドから途中で馬車を降りると指示された。そこからは歩きだ。

城下町から離れること数十キロ。地図などなくても行くべき場所がわかる。瘴気が濃いほうへ。それだけで良い。


しかし歩きということは……


「リオナルド様。こちらへ」

「どうした?」


近づいてきたリオナルドに魔法をかける。するとリオナルドの体が少し光り、それはすぐに元に戻った。


「これは……?」

「瘴気から体を守れるよう魔法をかけました」

「そうなのか……ありがとう」


私には常にこの魔法をかけているから問題ないが、リオナルドにはこの瘴気はキツイだろう。

そうして二人で歩き始める。

途中から歩きでといった意味はやはりそういうことかと推測が当たっていたことを確認しながらも、私は何度かまばたきをする。


リオナルドにはどう見えてるかわからないが、私には森の中全体が黒いモヤで覆われているように見えて、全体像がわからない。モヤの正体はもちろん瘴気だ。


ちらりとあたりを見まわす。見えにくい中でも木々が瘴気によって枯れているのが嫌でも目に入った。その近くにある穴にはかつて大木があったのだろう。そのさまは物悲しく感じる。それを助長するかのように、そこらに動物の死体が転がっている。木の実でも取りに来たときに、じわじわと瘴気にやられてここで力尽きたのだろう。


しかし、このせいで遠く離れている街からでも見えたのかと一人納得した。


瘴気を好む植物や動物もいるが、大抵のものは瘴気を浴びると人と同じで魔力を吸い取られ、死ぬか灰のように粉々になって風に流されてしまう。

見たところ半径一キロくらいか。このまま瘴気が増え続ければ街もいずれこうなるだろうということは誰にでもわかる。


説明の時、リオナルドがよりすぐりの魔法使いでもダメだと言っていたが、私の中で『いやその魔法使いの実力不足なのでは?』とか思ってしまったが、この惨状を見る限りそうではなかったようだ。


そして……ついに遺跡にたどりつく。


「これは……すごいな」


この状態の遺跡を見たのは初めてなのだろう。焦っている様子のリオナルドの横で私は遺跡をしっかりと見る。

相変わらず黒いモヤがかかっていて見えにくいが、この大きさの建物を覆う瘴気……これはさすがに……


本来、瘴気は多少ならば周りの自然の魔力によってかき消される。世界は瘴気よりも魔力のほうが溢れているからだ。質よりも量だ。だが、それが逆に押し返して周りを消滅させていっているということは、瘴気を無限に生み出しているなにかがあるのではないだろうか?そして、それは自然の魔力よりも瘴気を多く持っている。


それはなにか入ってみないとわからないが、それをつぶせば……


「リオナルド様。この瘴気はこの建物だけを浄化するだけではダメです。おそらく遺跡の中にこの瘴気を出しているなにかがあるのだと思います。それを浄化しない限り消えないでしょう」

「そうか……じゃあ入って探すしかないな。どうする?手分けして探すか?」


この瘴気を見てそう言えるということは……やはりリオナルドは自分の腕に自信があるのだろう。携えている剣もそこらの普通の剣ではなさそうだし。業物(わざもの)というやつだろうか?詳しくないからよくわからないが。


「いいえ。場所はわかると思います。瘴気が一番濃い場所に行けば良いのですから」


そして私は目を閉じて祈る。ここで死んでしまった魂が無事行きつく場所へと行けるように。その手助けをする祈り……それが『聖女』の祈りだ。

……私はもう『聖女』ではないのだからしなくて良いとはわかっているのに……まだまだこのクセは抜けそうにない。体に染みつくこの習慣がとても忌々しい。


誰がどうなろうがどうでも良いくせに――


「……行きましょうか、リオナルド様」

「あぁ」


そうして私たちは遺跡の入り口に向かい――


……まぁそうだよね、と心の中でため息をつく。


これだけ瘴気が蔓延しているのだ。それを好む魔物がたくさんいるのは当然。

そしてそいつらは当然――


「来ます!」


魔物が一斉に私たちに向かってくる。この奥の元凶を見るまではあまり魔力を消費したくはないが仕方がない、と手を魔物たちにかざして……


「え?」


次の瞬間――

リオナルドが次々と魔物を倒していく姿が目に入った。

正確には魔物が気がついたら悲鳴を上げ倒れていて、リオナルド自身は早すぎて見えない。しかも魔物の傷跡から見る限り、正確に急所を斬って倒しているようだ。それも一撃で。

昔から戦場にいた私だが、これほどの剣技を持っているものは見たことがない。


これは……もしかして……ものすごく楽なのでは……?


「セリナには魔力を温存しておいてほしいからね。ここらの掃除は任せてくれ」


とてもさわやかに微笑むリオナルド。まるでそこには魔物などいなかったとでもいうように。

これは自信があるのもわかる……


「ありがとうございます」


にこ、と微笑んでお礼を言ったあと、私は浄化の粉が入った袋を取り出し一つまみ取ってその場に撒く。

すると黒いモヤが強い風を浴びたかのように霧散していく。

これで入り口はちょっとマシになったかな。

そう思いながら床に落ちた浄化の粉を踏み潰す。こうすることでより細かくなり効果が表れるのだ。


ところで……


「……?どうしたセリナ。なにかあったか?」


一点を見つめる私が気になったリオナルドが少し緊張しながら言う。

私の見つめる先には……ずっと気になっていたものがあった。


「あの、一つ聞きたいことがあるのですが……」

「どうした?なにか見つけたのか?」


真剣な表情で見つめるリオナルドに、私も真剣に見つめて質問した。


「……足の多い魔物って食べたら美味しいのでしょうか?」

「は?」

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