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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
114/130

第114話『女王』

女王が『王』へとちらりと目線を向けると、男は慌てて全員に向けて手を大げさに上げて叫んだ。


「初めに話した通り、ここでのことは他言無用である!今日の裁判はこれで終わりだ!みな解散せよ!」


ざわつく声が少しずつ聞こえるが、警備兵が淡々と誘導していくため、民衆はそれに従っていく。

セリナの背中側、つまり、セリナたちがやってきた扉を通って民衆はゾロゾロと帰っていく。

そういえば途中、セリナたちが通っていない廊下があった。どうやらそこから帰っていくらしい。

まさか全員が、このまま牢屋に戻るわけがないだろう。囚人服を着ているわけでもないし。


真ん中の机に座っていた貴族たちは、セリナたちを睨みながらも部屋の右側にある扉から警護をそれぞれつけて出ていく。

そのあと、白い服を着た者たちがそこから出ていった。


その間セリナたちはというと、女王に目配せを受けた褐色の踊り子たちによって、拘束を解かれていた。縄は切られ、手錠は外される。手首をさすってみたが、特にケガも痕もない。

そして、全ての人間が裁判所からいなくなった頃、ずっとセリナを見続けたままの女王がようやく視線を外す。


「ついてこい」


一言そう言うと女王は左側にある扉のほうへと向かい、その後ろを褐色の踊り子たちが続く。

セリナは全員に一度だけ目配せをすると、女王に続いて歩きだした。

扉が踊り子によって開かれると、そこにはまた違った景色の廊下があった。

無骨な石畳ではなく、白を基調とした石に見えないくらいの美しい廊下。

赤のタペストリーや黄色の装飾品が華やかに飾られているが、豪華というよりも荘厳といったほうが正しい。歴史の厚みを感じる。

先を見ると、一人の男がこちらに向けて頭を下げ立っていた。


「お疲れ様です、女王様」

「形式は良い。行くぞ」

「はい」


やはり短い言葉を男に告げた女王は男の横をすり抜けていく。女王が通ったのを確認した男は、頭を上げ女王に続く。

誰もが口を閉ざしたまま歩く廊下は、短いようで長く感じた。

唯一その雰囲気を感じ取れなかったライラは、純粋に景色の華やかさに顔をせわしなく動かしている。

やがて見える、廊下に負けない豪華な扉が、左右にいる警護兵によって開かれ……


「ご苦労」


部屋の中は廊下に比べてシンプルだった。

白を基調としていること、赤と黄色で装飾されていることまでは同じ。

一番奥の壁に『西国』の国旗が飾られていること、奥の大きな一人分のイスの後ろに鎧と踊り子が複数並んでいること、ろうそくで彩られた少し暗い部屋は、廊下とは違う雰囲気で構成されていた。

女王はイス――玉座の前に立つ。すると、踊り子たちが女王に寄ってきて女王を白いベールで隠す。

その間に、セリナが一番前。その後ろに三人が並び、みなそれぞれの国の形で平伏した。


「そうかしこまらなくて良いわ。わかっていると思うけど、この部屋には魔法がかけられている。外から会話は聞かれない」


砕けた口調になった女王が笑みを含んで言ったのを聞き、セリナたちはゆっくりと礼を解いた。

それに少し遅れて、女王がベールの中から顔を出す。


踊り子のような服だが、使われている装飾が豪華だ。

そして腰に巻かれたベルトには短剣と丸められた黒い鞭。ピアスは魔力増強の魔法がかかっている。

着替えた女王は、先ほどは変装していたからわからなかったが、スラリとした体形がよく引き立つ美女だった。


「さて。それでは詳しく話を聞かせてもらおうじゃない」


ドカッ!と玉座に座ると、先ほどとは違い笑みを浮かべている。その後ろに先ほどの男が立っていた。

腕を組み足を組む女王は、小さく『あぁ』と声をあげる。


「自己紹介が先かしら?私はこの『西国』の王、エルダ。こっちの男は摂政のオルネム。私の右腕よ」

「初めまして、オルネムと申します」


男――オルネムが丁寧に頭を下げる。それに対してセリナも頭を下げた。


摂政と言われて納得した。魔力量は一般人よりはあるものの、一つに束ねている灰色の髪に高身長に細い身体、戦闘向きには見えない闘志。これなら周りにいる兵士のほうがよっぽど強い。

それなのに、顔にも見えている体にも複数の傷があることに違和感があったのだ。

なにやら過去がありそうだが、別に詮索する必要はないだろう。


「改めまして、私はセリナと申します。後ろにいる者は、私に同行している大切な仲間です」

「平伏の仕方から見て『東国』の騎士と『北国』の軍人、それから小人族ね」

「さすがでございます、女王様」

「そして……」


女王はセリナを指さす。その瞳は射抜くように鋭く、真剣だ。


「貴女は見たことあるわ。話すのは初めてだけど。そうよね?『中央国』の伝家の宝刀、『偽物の聖女』セリナ・ハイロンド」


頭を上げたセリナはにこりと笑う。女王の視線による攻撃など、ものともしてないと言うように。


「今は『中央国』からもハイロンド家からも追放、抹殺された身。ただの冒険者、セリナです」


女王――エルダはその言葉とセリナのなにも気にしていない様子に一瞬目を丸くする。そのあとすぐに『あはははっ!』と笑い声をあげた。


「なるほどなるほど!『北国』で『中央国』の意志に反して行動した、という情報は間違ってなさそうねっ!」

「はい。その通りでございます」

「はっきり言ってくれるわねっ!良い!良いわっ!気に入ったわっ!」


セリナの言葉を聞いて、今度は頭を片手で押さえてエルダは笑う。

その後ろでオルネムも笑いをこらえきれなかったようで、くすりと笑みを浮かべていた。


その様子を見てセリナはふと思う。

エルダは『中央国』に良い感情を持っていないのではないか?と。

セリナだけを睨んだ理由に、『中央国』に盾ついた行動を覚えている記憶力。それを気に入ると言ったこと。

なにか因縁めいたものを感じたが、確証のないただのカンだ。すぐに頭から消した。

『女のカン』に頼るなんて、まるでテリアみたいじゃないか。などど、心の中で苦笑いしながら。


「それで?各国の者をゾロゾロと引き連れて、セリナはこの国のなにを見たの?精霊様が原因とは?」

「それは、この国の建国からのお話になります。少々長くなりますが、よろしいでしょうか?」


そう前置きをしてセリナは話した。

感情が意図せず『大地の精霊』によって操られていたこと。

それによって、男女の分かれる国が出来てしまっていたのではないか?ということ。

全てをやり直すため、壁を壊したこと。

『大地の精霊』とゴーレムのこと。


そこまで聞いたエルダは組んだ腕に置かれている手を一定のリズムで動かし、オルネムは驚愕の顔を隠せずにいる。


「これが、私がこの国について知りえた情報です」


しばしの沈黙――

護衛の鎧と踊り子が動揺しているのがわかるが、それでも言葉は出さないし姿勢も崩さない。

今まで見てきた兵たちとは一線を画している。

そんな中、最初に重い口を開いたのはエルダだった。


「反骨精神が強すぎる。それが我が国。そのせいで今までたくさんの犠牲があったわ」


エルダはイスに寄りかかり上を見る。つられてセリナも上を見る。

ろうそくによって揺らめく天井には、なにやら古びた絵画、歴史画だろうか?それが一面びっしりと描かれていた。


二人の男女がゴーレムのようなものと、小さな人間?のようなものに寄り添う絵。

小さな人間たちが争う絵。

鎧や踊り子の衣装のような服の絵。

剣と鞭の絵。

それと魔法陣。あれはアルネスが使っていた古い魔法陣によく似ている。

他にも描かれているが、かすれていてよくわからない。


「セリナ。私のことをどう思った?」

「どう、とは……そうですね、とても美しく強いお方だとお見受けいたしました」

「強い、ね」


エルダが自嘲じみた笑いをする。セリナの回答はどうやら間違っていたようだ。

ならばと、もう一つ思っていたことを口ごもりながらも言う。


「それと……とても、脆さも感じました」


先ほどの裁判所で思ったことだ。

何故、偽の王など表立たせているのか。

自分のことを隠すため?ならば、あの場であのような態度を取るわけがない。

裁判を見る気がなかった?ならば、変装してまで居るわけがない。


では他に考えられることは?

それはこの部屋で思ったのだ。着替えた女王は威厳や圧はあれど、見た目は実にか弱い女性のようだ、と。

腕や足を組んで威圧的になっても、細い女の体は弱く見せ、態度を児戯に感じる者もいるだろう。

特に、魔力を測ることができない者なら。


何故そんなことを考えついたのか。

それは昔のセリナがそれを利用していたからだ。

女性らしい体型、弱く見せる体の角度、怯えた顔、美しくあればあるほど壊れやすそうに見える錯覚。

それを使って生き残ってきた。特に幼い頃は。


女王はセリナの見立てでは四十代だ。王となるにはこの世界では若すぎる。

それが、偽の王を作り出している理由なのではないか?セリナはそう思ったのだ。


「そう、貴女もそう思うのね」

「……失礼いたしました」

「いや、良い。誰もがそう思い、そういう目で見てくるから」


ふぅ、とエルダは息を吐く。

そして先程とは違う、悲しみがこもった瞳でセリナを見た。


「少し昔話につきあってほしい。精霊様に見初められた貴女には、話しておきたいことがある」


そう言うと、エルダは少しだけ笑った……

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