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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
113/127

第113話『茶番』

全員同じ縄で体を結ばれ、一列に並んで歩く。手錠には魔力制御の魔法。セリナにとっては、一目見ただけですぐに取れるものだがしない。


こんな場面の時、昔のセリナだったらどうしていたか……

悲しそうな顔、戸惑うような顔をして、セリナを連れて歩く鎧たちの庇護欲を煽っていただろう。そうして、一人でも味方につけて有利に働く選択肢を増やす。


しかし今は……

一番前を進むライラが、次に進むセリナのほうに向かって来て肩に乗っている。

歩きながら不安そうなライラに顔を摺り寄せ、温かい魔力を送る。大丈夫だよ、という気持ちを込めて。

その後ろにはリオナルド、アルネス、エルンストと続いている。


歩幅の小さいセリナに合わせながら、緊張感のない行進。全員ほがらかな顔だ。

それを見た鎧の一人がイラついているのがわかる。


「おい。もう少しちゃんとしろっ。お前らはこれから裁判にかけられるんだぞっ」


あぁ、今向かっているのは裁判所なのか。ならば、王に合うことは叶わないかもしれないな。


無骨な石畳を進み、階段をのぼり、だんだん綺麗になっていく道を連れられるままに進む。

エルンストの豪快なあくび声がセリナの耳に届いたあたりで……セリナは足を止めた。


大きな両開きの扉が一つ。横には警備の者が二人。いつ動き出しても良いように魔力をためているのがわかる。

なかなかに豪華な扉だ。裁判所に来たのは初めてだが、他の国もこんなものなのだろうか?と思うセリナの問いは、心の中で打ち消された。


「いいか、暴れるなよっ。お前らはここで処遇が決まるんだっ。まぁ、死刑だとは思うけどな」


先ほどの鎧がククク、と笑う。それにつられて他の鎧と踊り子も笑うが、特に誰も気にしない。

それにまたしても苛立ったのか、鎧の一人が非難の声をあげようとしたが、それよりも早く。


「全員、中に入りたまえ」


目の前の扉が開いた。

白を基調とした実に広い部屋だ。百人はゆうに入れるだろう。

何十年、いや、何百年も前からだろうか?

ここであらゆる者が人生の道を決められたと、空気の重さと、壁や床の劣化具合が物語っている。


そんな中、まずセリナの目に入ったのは合計二十人ほどの群衆。

セリナたちが入る道の右側に男、左側に女がイスに座ってセリナたちを注目している。

服装からして民衆か?裁判を見に来た好奇心のある国民、といったところか。


昔からの立場上、人間たちに見られるのは慣れている。歪んだ瞳で見られることも。

気にせずセリナが歩くと、後ろから全員が動き出した。

そして広い部屋の真ん中で止まる。目の前にはまた人間だ。


机が階段のように置いてあり、一番下には男女三人ずつ交互に座っている。

全員同じ白い服で、なにかを書いていたり魔法でこの状況を残していたり、やっていることは様々だ。


その上の段、そこにはまたしても男女三人ずつ左右に分かれて座っている。

服装がやたらと豪華だ。今までのセリナの記憶から考察するに、貴族などの金持ちのように見える。しかも、貴族の中でも発言権のある権力者。

もしそうならなるほど。ここにいる理由がわかる。


そして最後。一番上には一人の男。

歳は六十代くらいだろうか?頭になにやら豪華な彫り物がある王冠を乗せている。あれは『西国』のマークだろうか?そして、ここにいる者の中で一番豪華な服に身を包み、眼光が鋭い。

その王冠を乗せた男がセリナたちを睨みつけ、こう言った。


「ここは裁判所。ワシはこの国の王である。この度の事件は国を揺るがす大事件だ。なのでワシが直々に出向いてやった」


出向いて()()()ね。

それを聞いて、セリナたちはそれぞれの礼のポーズを取り……すぐに直ってしっかりと王を見据えた。


「国王直々にいらしていただき、光栄の極みでございます」


姿勢を正してにこりと笑いながら言うセリナに、王は『うむ』と一言もらした。


「では、まずは事件について説明させていただきます」


一番下の右に座っていた女が立ち上がり、手に持っている分厚い書類を見る。


「この『西国』にあった壁が全て壊されるという事件。攻撃されたのは一か所だけですが、それが決め手となり壁は全壊。街の家屋もそれに巻き込まれる事態となりました。そして謎の巨大なゴーレムも街を跨って暴れていたということです。幸いなことに被害者はゼロ。ですが、国自体は崩壊しております」

「間違いないか?」


王に聞かれてセリナが代表してうなずく。

ゴーレムたちのことまでセリナたちのせいにされたがまぁいい。今となっては些細な話だ。

立っていた女が座る。もしセリナがうなずかなければ、あの分厚い書類の中身をもっと話していたのだろう。若干拍子抜けな顔でいるのを見て、心の中で笑ってしまった。


……さて。どう動かそうか?

とりあえずこの裁判所の違和感を無くすことが先決か。ならば、かき回してやれば良い。

そうセリナが考えついた時、ありがたいことに王から発言権を得ることができた。


「では問おう?なぜこんなことを?」

「歪な国だったからですわ」


セリナの返答に王のみならず、貴族たちも眉をひそめる。


「国を少し散策させてもらいました。そして思ったのです。なんて不気味だと」

「なんだと……?」


貴族の男が怒りをあらわにするが、セリナは変わらず『聖女』のような笑みをしたままだ。


「見てください、この裁判所の中身をっ。なぜ男女に分かれているのですか?国と同じ、なんて不気味なんでしょう。あぁ、恐ろしい。そう思うと壊さずにいられなかったのですっ」


縛られながらも動ける範囲でセリナは動く。

本当は手を広げてやりたかったが、あいにく手錠に繋がれている。それでも十分に動くことはできた。

その仕草はまるで演劇のよう。だがこれは現実。セリナの言葉を聞いて、人間たちが殺気立つ。


「貴様っ!言葉が過ぎるぞっ!」

「なんということを!ひどい言葉ですわっ!」

「これはもう極刑でよろしかろう!すぐに判断をっ!」


貴族たちがセリナに非難の声を、王に決断の声を向ける。それに合わせて、周りから少しずつ声が上がりだす。


「そうだよ。冒険者風情が何言いだすんだ……」

「私たちの因縁も知らないで……」

「そうだっ、女ごときが偉そうに言いやがってっ」

「ちょっと!今のどういう意味!?」

「そのままだよっ!うるせぇから黙ってろっ!」

「なんですって!野蛮な男どもがっ!そっちが黙っててよ!」

「なんだとっ!」


後ろで男女に分かれて座っていた民衆の声がどんどん大きくなる中、セリナは王だけを見つめている。

そんな中リオナルドたちは、なにも言わず事態を見守っている。


おそらく全員感じたのだろう。セリナと同じ違和感を。だからこそセリナの好きにさせてくれている。

その証拠に、セリナと同じくすぐに王への礼を解いていた。

唯一わかっていないライラも、セリナのやることだからか肩で大人しくしている。


「あぁっ、なんて不気味で歪な国なのでしょうっ。王も民も、見ているだけで息苦しくなるっ。この国の風習も、暗部も、なにもかも全てがくだらないっ。これを良しとしている王が信じられませんわっ」


変わらない美しい笑みを浮かべ、演目を一人続けるセリナに王が怯えの表情を初めてする。

――思ったのだろう、国よりもセリナのほうがよっぽど不気味だ、と。


「ねぇ、王様?」


セリナはちらりと横を見た。その視線の先を悟ったのか、王が慌てて声を荒げる。


「ええいっ!全員うるさいぞっ!静かにしろっ!冒険者のたわごとに心を乱すなっ!」


王が叫んでも収拾がつかない。男女に分かれた民衆はお互いをけなし、貴族たちはセリナを罵倒する。

白い服たちはどうしたら良いかわからずに慌て、警護兵たちはなんとかこの場を収めようとしている。


「この事態は『大地の精霊』がもたらしたものです」


あらゆる声が飛び交い混乱するこの広い裁判所で、再び王を見たセリナはあっけらかんとそれを告げると、王は面白いくらいに汗をかき慌てだす。


「なっ……!なにを言っているのだ貴様っ!?」

「私はこの国が崇めている『大地の精霊』が、全ての原因だと申し上げました。わかっているでしょう?王はかつての『勇者』パーティの血筋を引く者。ならば見ましたよね?ゴーレムのそばに『大地の精霊』の存在を」


『中央国』では、かつて『魔王』を倒した『勇者』と『聖女』の子孫が王族だった。

『東国』も『北国』も、そしてこの『西国』も、その『勇者』パーティに力を貸した精霊が国を守り、支えている。

ならば、同じ理屈で全ての国の王族は血を受け継いでいるのではないか?

これはずっとセリナが考えていたことだ。

そしてそれは、王の焦った態度を見ればすぐにわかった。それが正解だと。


「貴様!我が国の精霊様になんということを!許さんっ!死刑だ!死刑にしろっ!」

「そうですわ!こんなやつら、早く処刑して頂戴!」


貴族たちが民衆に負けない声でセリナに向かって叫ぶ。だが王は戸惑うばかりで動かない。

それをセリナは変わらない笑顔で見守る。

やがて、貴族の声に押されたのか王が声を出した。


「そ、そうだなっ。この者たちにはもう弁解の余地はないっ!」

「そうですか。ならば、ご決断を」

「なっ……!」


これから死ぬと言われているのに、それを望むかのようなセリナの言葉。

王はまたしても慌てて、先ほどセリナが視線を向けたほうをちらりと見る。

それは一番下の机に座っている、白い服を着た左から二番目の女だった。


「………………」


女は真剣な顔でセリナをじっと見つめていた。

そう。このあらゆる声が飛び交う裁判所で、唯一なにも話さずセリナたちを観察していた。

そんな女に向けてセリナは礼を取る。今度は完璧な礼を。すると、後ろにいたリオナルドたちもそれぞれの国の礼を取った。

全員が先ほどとは違い、礼を勝手にやめない。


「初めまして、セリナと申します。お会いできて光栄にごさいます」

「………………ふん」


女は鼻を鳴らすとスッと立ち上がり、裁判所を見渡した。


「全員口を閉じよっ!これは命令だっ!」


凛とした部屋の隅々まで通る声に、ピタリと騒がしい声は止んだ。

耳に残る畏怖を感じるような美しく、力強い声に、誰もが声をあげられなくなったのだろう。

それを聞いて、改めて自分のカンは間違っていなかったとセリナは感じた。


「顔を上げよ、冒険者セリナ。今の話は本当か?」


顔を上げると、圧が他とは全く違う人間の女が立っていた。

歳は四十代くらいだろうか?褐色の肌に黒髪。背を正しながらも、腰に手を当てて立つその姿からは威厳をはっきり感じる。

そして今まで出会った王にも感じた、人間を評価するに値するか見極める目。

頂点に立つ人間には必要不可欠なその力を、女から感じた。


セリナが感じたこの裁判所の違和感の正体。一番上で偉そうに座っている王は『偽物』だということだ。

『偽物』に関してはセリナに一日の長がある。誰よりも『本物』と『偽物』を見分ける自信がある。


つまりどういうことかというと……


「はい。私の知ることをお話させてください、女王様」


セリナのはっきりした言葉に女――『西国』の『本物』の王はニヤリと笑ったのだった。

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