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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
112/128

第112話『牢屋』

「やれやれ。腕が使い物にならなくなってしまうのぅ」


言っている言葉とは裏腹に軽い口調で言う老人に対して、誰も戦闘態勢は解かない。

そんな中、老人はちらりと自分が持っていた刀を見る。地面に落ちているそれは氷によって凍結し、一部が壊れている。


「せっかくの業物(わざもの)がもったいない。まぁ、ええじゃろ。手駒もなくなったし、ここは引くとするか」

『させないよっ!』


逃げようとする老人の言葉を聞いて、ライラがウロコを飛ばそうとし……それをさえぎる形でエルンストが氷の斧を掲げる。

その間に、老人は姿を消していた。


「やめとけ。これ以上は誰かが死ぬ」

『え……』


エルンストの低い声にライラが慌てだす。そして、すぐにセリナのほうを向き飛んでいく。

セリナは老人の気配がなくなったのを確認すると、大きく息をして両手を地面につく。

ぽたりぽたりと汗が落ち、ハァハァと荒ぶる息を、そうすることでなんとか落ち着かせようとしていた。


『セリナっ!大丈夫っ!?』


ライラの言葉に、いつものように笑顔で返すことができない。それくらい魔力がなくなっている。

二つの精霊の力を使ったあとの激しい戦闘。初めての経験で無茶をしすぎた。

落ち着いて、冷静に。よく言われていた忌々しい『教育係』の言葉がここで返ってくるとは。


「セリナ様、そのまま地面に手をつけていてください。回復します」


横から聞こえてきた声の主、アルネスに顔を向けることもできず、言われたまま動かずにいると、アルネスはセリナの周りになにやら描きだしたようだった。


「大地よ。この者に力を……」


アルネスの声に同調するようにセリナの周りが優しく光る。

この光は……癒しの魔法と同じ光だ。

それを裏付けるかのように、セリナの呼吸はだんだん落ち着きを取り戻していく。腹部の痛みが和らぎ、魔力が少し戻ってくる。

やがて光はなくなり、動けるようになったセリナは地面から手を離し顔を上げる。


「これは……」


セリナの周りには魔法陣が描かれていた。セリナの知らない魔法陣だ。

だがこの形式は見覚えがある。かなり古い魔法陣の型だ。

セリナがなんとか顔を上げてアルネスを見ると、優しくにこりと笑っていた。しぐさ一つ一つが女らしく、本当に男か疑うくらいだ。


「ありがとうございます、アルネス様」

「いいえ。僕ではこれくらいしか回復できません。地下に行きましょう。回復の泉がありますので」


あぁ、あの泉ね。

何回も入ったことのある泉を思い出し、思わず苦笑いをしながらもセリナは空を見上げた。

現在の『西国』は影に覆われている。その原因のゴーレムたちの頭上に、もう『大地の精霊』は見えなかった。全ての住民の救助は終了したということだろうか?


「……あれ。どうすんだよ」


氷の斧を杖のようにして立ち、同じくゴーレムを見ているエルンストがうんざりしたように言う。

それを見て、アルネスが苦笑いをした。


「精霊様の気分次第……かな?全てを知ればちゃんと戻してくれると思うけど……」


全て……要するに、原因は『大地の精霊』だったというあたりね。

その説明をするのはおそらく自分だろうなとセリナは頭を抱えたい気持ちになったが、それ以上に全ての出来事を把握したい。その時に話せば良いだけだ。


「この場はおばちゃんに全て任せて大丈夫だと思います。さぁ、セリナ様。行きましょう」


立ち上がり手を差し出すアルネスに、手を出そうとして……セリナは止まる。


「私に『様』も敬語もいりません。普段通りでお願いします」

「そういうわけには……いえ、すみません。このままでもいいですか?むしろ僕に敬語などいりません」

「あ……癖なのでこのままで……って、同じ理由になってしまいましたね」

「あははっ、そうですねっ。でも……せめて僕のことは『アルネス』と」

「わかりました、アルネス」


くすりとセリナとアルネスが笑い合う。

姉のテリアと違ってずいぶん話が合うなぁ、なんて思いながら、セリナはアルネスの手を取――


「私が連れていくよ。アルネス、案内してくれ」

「わっ!ちょっ!」


リオナルドがセリナを抱きかかえる。

驚いたが、確かに歩くのもやっとの状態だ。このままリオナルドに任せたほうが良いかもしれない。

それを見て、なぜかアルネスがまた優しく笑う。


「では、我らが里へご案内します」


アルネスが全員を見回してポニーテールをなびかせたその時だった。


「全員動くなっ!」


ふと周りを見ると、セリナたちを囲むように人間がいた。

全員武装をしている。あれはゴーレムくんが愛用している銃と、ゴーレムちゃんが愛用している鞭か。

ということは、鎧を着ているのが男で、踊り子のような服で顔をベールで覆っているのが女か?

……などと考察できるくらいには、数が多いだけの取るに足らない相手である。

だが、全員動かなかった。ライラはセリナが腕輪を通じて止めている。


全員悟ったのだ。服装と装備で。

それを裏づけるかのように、ちらりとセリナがアルネスを見ると、こくんと小さくうなずき、エルンストを見ると氷の装備を解いてあっけらかんとしている。


「この所業はお前たちの仕業か?」


隊長なのだろうか?

鎧の中でも黒い鎧をしている者が声をかけてくる。


「はい」


一瞬目配せをし、リオナルドから降りたセリナが、姿勢を正して言った。動いたからか、銃口がセリナに向く。


「では、全員拘束させてもらおう」


黒いベールと踊り子のような服を着ている者が言う。

その言葉を合図に様々な色の鎧と踊り子が、抵抗しないセリナたちを縄で拘束していく。

ふらりとよろつきながらもセリナは引っ張られながら歩く。リオナルドが心配そうにしていたが、笑顔で返した。

そして、鉄で出来た馬車に全員載せられた。

馬車には左右に一つずつ横長のイスがついていて、男女分かれてそれぞれ座らされる。その間には鎧と踊り子が挟まって座ったためイスが狭くなる。


『セリナぁ……』


縄に繋がれてセリナの膝に座るライラが不安そうにセリナを見上げる。にこりと笑って不安を取り除こうとしたが、それだけでは無理だったようだ。

そのまま馬車に揺られる。しばらくは何事もなく、誰もなにも話さない状況が続いていた。

ややあって……


「おい……おいっ!」

「んがっ!」


エルンストが鎧に揺らされる。それに対して間抜けな声を出して応えるエルンスト。


「寝るんじゃないっ!」

「おー……すまんすまん」


最初はエルンストだった。

次はセリナ、ライラ、リオナルド……そこまで来て、鎧と踊り子は起こすのを諦めたようだった。

それを見て、くすりと笑ったアルネスは同じように目を閉じる。そして眠りについたのだった。






「野菜の雑炊、出汁がきいてて美味しいですね」

「おう、案外いけるな。『北国(ウチ)』はもっとひどいぞ」

「よくご存じですね……もしかして、盗んで食べたんですか?」

「さすがリオナルド。よくわかったな」

「あははっ。さすが大物だなぁっ」

『ねぇねぇ!ボクおかわりほしーい!』

「おい!うるさいと何度言えばわかるんだっ!」


警備員に怒られるが誰も気にしない。

今セリナたちは、向かい合わせの牢屋に男女分かれて入れられている。だが、声が届くので普通に会話をしている。


最初はアルネスが女側に入れられることに不満の声を漏らそうとしたリオナルドだが、アルネスがセリナの回復ができると言ったらすぐに引っ込んだ。

ちなみにセリナの使い魔扱いのライラは、セリナがその力を使わないようにと男側だ。


この牢屋部屋、全体に魔力制御が施してある。

今全員が着ている、白黒ボーダーの囚人服もだ。

普通の人間なら力が出せなくなるくらい強力だが、アルネスは関係なく警備の目を盗みセリナを回復した。

そうして数日が経過し、セリナも含めた全員が完全に回復し始めていた。


――そう、あの時。

鎧と踊り子が『西国』の警備の者だと、服装でピンと来た全員が思ったこと。


捕まれば、もしかしたらこの国の王に会えるのではないか?


これだけの大事件の原因である。王が直接出向いてきてもおかしくない。

そうじゃなくても、勝手に王の元まで運んでくれるというのだ。これに乗っからない手はない。

そんなわけで今いるのは、王城の近くの刑務所の地下にある牢屋の中。

まったりとした時間を過ごしていた時、いつもとは違う時間にやってきた鎧に言われた一言でセリナは立ち上がった。


「出ろ。これからお前たちの処分を決める」


はてさて。王は来ているのかどうか、楽しみだ。

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