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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
108/113

第108話『覚醒』

『西国』の中心部の壁が壊れていく。

それを目にした『大地の精霊』はようやくケンカをやめる。

ゴーレムが特別なだけで、壁の破片は国に害をなす。その脅威から『西国』の者たちを守るために『大地の精霊』は動いたのだ。


テリアとアルネスの姉弟ケンカも止まり、リオナルドの声もなくなった。

おばちゃんは眷属として『大地の精霊』の手伝いをするためか、慌ててゴーレムちゃんの頭上を開けて、普通の人間では死ぬであろうスピードで地上に轟音を立てて降り立ち、走る。


セリナはなんとか仰向けになる。

壊れた壁の破片が飛び、土煙が舞い、轟音や悲鳴や叫び声が聞こえてくる。

そんな中、セリナの瞳はその上を見ていた。綺麗な、とても綺麗な青空。ついさっきまで地下にいたセリナにはまぶしいくらいだ。


喧騒と呼ぶにはあまりにも騒がしい光景の中、セリナは自然を身体全部で感じていた。

……これがセリナがいつも踏みしめていた大地。見慣れた大地。

そう思うと笑顔になった。嬉しくなったのだ。


地下で感じた大地の息吹が、セリナにとっての当たり前の場所に在ることに。


その瞬間――

セリナの胸元で揺れる花、ギンバイカが急に成長を始めた。花弁、茎、葉、全てがセリナを守るように包み始めたのだ。

優しい力に包まれたセリナは、一瞬驚いたがすぐに瞳を閉じその力に身をゆだねた。

セリナの体を支えながら持ち上げる大きな葉に、頭を少しこすりつける。声を出す代わりにその動きで伝えたかったのだ。

ありがとう、と――


『これは……驚いたのぅ』


包まれた花の外から『風の精霊』の声が聞こえたので、セリナはそっと目を開けた。それと同時にセリナを包む葉は開き、壁よりも高く伸びた場所にセリナを連れていったことを示していた。

痛む腕を使いながらもなんとか起き上がり、改めて『西国』の光景を見る。


『ふむ、あの時の『精霊王』の目は間違っていなかったということかのぅ』


セリナの目に映った光景。

それは『西国』中心部全体が『大地の精霊』の力だけではなく、セリナがいる場所から伸びる茎やその他の花、木々によって守られている様子だった。

それがわかったのは、木々たちにセリナの魔力が混ざっているからだった。

なにより、中心部を囲っているかつて隕石が落ちた山。そこにセリナの力が巡らされている。


まるで『西国』はセリナによって守られているように……


「私がやったの……?」


無意識の行動だ。大地が力を貸してくれただけ。

ギンバイカは再びセリナの胸元に戻っている。


『存在する大地から『大地の精霊』の力を引き出すことを覚えたんじゃな』


いつの間にかセリナの横にふわりと浮かぶ『風の精霊』が『クカカ』と面白そうに笑う。

その言葉を聞いたセリナは首を横に振り、それを見た『風の精霊』が不思議そうな顔をする。


「私は引き出したんじゃない。頼っただけです」


一瞬驚きの顔を見せた『風の精霊』が、また面白そうにニヤリと笑った。


『良い』


いつもの意地の悪い笑みではなかったことにセリナが驚いた次の瞬間、『風の精霊』は風を巻き起こして自身の体を包む。


「……っ!」


近くで巻き起こる風に腕で防御をしながら一瞬目を閉じ、再びセリナが目を開けた時……


『……あれ?ここどこ?ボクここでなにしてるの?』

「……っ、ライラ……!」

『セリナ……あっ!ケガしてる!大丈夫なの!?なにが起こったの!?』


()()()が心配そうに慌てて飛びついてきたのを、セリナは痛む両腕で少し強めに抱きしめた。


『セリナ?』

「大丈夫です。私は大丈夫。ライラが無事で良かった……!」


ライラはわけがわからないといった様子でも、なんとか前足を伸ばしてセリナの頭を撫でようとし、届かなかったからか、セリナの頬に触れる。

それを感じ、ライラに心配をかけまいとセリナは湧き上がってきた涙をこぼさないように努めた。


「セリナちゃああああんっ!大丈夫かあああいっ!?」


地上からおばちゃんのとてつもなく大きな声が聞こえる。

壁の上にいるセリナに届く声……ちらりと下を見ると、周りにいる者たちが耳をふさいでいた。テリアは倒れている。

それを見て、セリナはくすりと笑った。


「行きましょうか」

『……どこに?』

「全てを終わらせに、です」


にこりとライラに笑顔を見せたセリナは、葉に手を置き願う。下に降ろしてほしい、と。

すると、葉はゆっくりと動き出しその高度をどんどん落としていき、やがて地上に降りられるくらいの高さになる。

そんな中、セリナは腕を治し始めた。

残念だが、この短い時間ではダメージは全て取れなかった。

魔力も減ったままだが、回復アイテムは地下に置いてきてしまったし、今は自然回復を待つしかない。


「セリナ……!大丈夫か……!」


地面に足をつけ立ち上がったセリナに、リオナルドが駆け寄ってくる。

にこりと笑顔で返事をし、周りを確認する。

そこにはおばちゃんにテリア、リオナルドと……


「……んだよ。俺だよ」

「エルンスト様?」


ミニチュア版ゴーレムくんのような鎧に包まれ、目だけがかろうじて見えるモノから、不満そうなエルンストの声が聞こえた。


「こんなんじゃ筋肉が全く見えねぇじゃねぇか。俺は認めねぇ。こんなの認めねぇ……」

「えぇーっ。すごくカッコいいのに」


なにやらブツブツ言っているエルンストの横で応える人物。セリナの知らない顔だ。


鎧エルンストよりは小さいが、リオナルドよりは少し高い身長だろうか?

黄色に近い金髪にオレンジの差し色の長いポニーテール。人間より少し灰色に近い肌色。

濃い緑の大きな瞳に、美しいメイクがとても合っている。

胸は大きく、腰は細い。スタイル抜群のセリナに負けず劣らずの美女だ。

着ているのは『西国』に売っている踊り子のような服。となると、店で買ったものか?


そこまで見てセリナは思った。ちぐはぐだ、と。

なぜならば――


「姉さん大丈夫?そろそろ起きて」


エルンストから離れた美女は、手を出して起き上がらせた。耳をふさいで倒れているテリアを。

その様子を見て、確信したセリナは問いかけた。


「貴女、いえ、貴方がテリアの弟さんですか?」


美女はそれが正解だと言わんばかりに、にこりと優しい笑みをセリナに向けたあと、セリナの前まで歩いて……両膝と片手に作ったこぶしを、地面につける。

そう、まるで騎士のようにひざまずいたのだ。


「初めまして。アルネスと申します。お会いできて光栄ですセリナ様」


ゴーレムくんから聞こえていた中性的な声と同じ。あの時よりも、さらにはっきりとした声だ。


やはりこの人物がテリアの弟、アルネス。


そうなると彼も小人族のはず。しかし、特徴の一つである低身長が彼と一致しない。これは一体……?


「まぁまっ。とりあえずゆっくりできるところへ行こうかねっ!積もる話も色々あるだろうし!……だがその前に、この国の安全確認からかねぇ」


おばちゃんがパンパンっ!と大きく手を叩くのを見てセリナは見上げる。

はるか上空、ゴーレムたちの頭上から姿を出した『大地の精霊』(男女)が、忙しそうに右往左往していた。

それに加えセリナの魔力がこもった木々が、国にいる者たちを守っていることをセリナは知っている。


この様子なら特に問題なさそうではある。建物は壁の破片で壊れまくっているけど。


しかし……

下から見上げるゴーレムたちの圧がとんでもない。

『西国』の中心部ギリギリ外にあるようだが、近くにいるように見え、中心部全体に大きな影を落としている。


セリナはふぅ、と一息つき、全員を見回した。


「話したいこと、聞きたいこと、やること、まだたくさんあります。一つずつ片付けていきましょう」

「……じゃあ、まずはこちらの相手からにしてもらおうかのう?」


セリナの言葉に応えた声は、セリナたちがいる場所から少し離れたところから聞こえた。

次の瞬間――


「避けろっ!」


リオナルドの叫びで全員がその場から離れる。

たくさんの壁のガレキの向こうから飛んでくる斬撃の嵐。それを全員が間一髪で避ける。


「……後にしていただけませんか?忙しいんです」


セリナが戦闘態勢を取りながらガレキの上を見上げる。

そこに立つ人物は、飄々としながらも剣を鞘に納めながら、しわがれたその顔でひどく歪んだ笑顔を向けた。


「老人をそう無下にするんじゃない。のう、『偽物の聖女』よ」

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