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偽物の聖女  作者: ゆきもち
第四章『西国(にしこく)』編
105/111

第105話『傑作』

整理しよう。

セリナ、テリア、おばちゃんは今『大地の精霊』の力によって空を飛んでいる。

空を飛ぶこと自体は、セリナでも出来ることだ。そう驚くことではない。


場所は『西国』の真上。

大きな山に落ちた隕石の跡、残った山の外周を自然の要塞にして、その中に国を作る。

聞いていた通り、そこにはいびつな円ではあるが街が確かにある。

そして街は、大きく分けて三つに分断されている。

男の街、女の街、男女の街だ。大きく分厚く硬い壁がそれを成し遂げている。


その『西国』の周り。そこは山だらけだ。少しだけ開けた場所に、ぽつりぽつりと村や町があるがそれだけ。この国に来るまでに、休憩地点としてセリナたちはそのいくつかを通ってきた。


大小さまざまな山々は、自然の驚異を表すかのようにそびえ立っている。まるで花を生けるときに使う剣山のように、その地への侵入を拒んでいる。


……とまぁ、ここまでは今までの情報でわかっていたこと。

別にセリナとテリアは、そのことで混乱しているわけではない。

その人間を寄せつけようとしない山脈。

そこに街一つくらいは入るであろう穴が大きな地鳴りとともに開き、その下から現れたのだ。


ゴーレムが。


もう一度言おう。


『西国』らしい踊り子のような衣装を身にまとい、花や葉、美しい飾りで彩られた三頭身のゴーレムが、荒々しい山脈がただの背景と化すほどの存在感を放って、セリナたちの前に堂々と現れたのだ。


石土(こくど)人形』と書いてゴーレムと読むそれは、召喚士と呼ばれるものが使う割とポピュラーな魔法だ。


土や粘土、石や岩で作られるのが一般的ではあるものの、金銀銅など召喚士によって素材は様々だ。そして自分の代わりになにかをやらせる。戦闘や雑用、その他使いかたは無限大だ。

……とは言うものの、命令を聞く精度、大きさ、見た目は召喚士の魔力量と操作次第。

使う者の腕が試される魔法の一つだろう。


そのゴーレムが今、山脈をゆうに超えた身長で立っていた。

今セリナたちがいる空中に届きそうなくらいの大きさ。さすがに雲よりは低いが、それでも四百メートルはあるのではないか……?


故に、もう一度セリナは思った。

なんだあれ?と。


「おお!あれは『大地の精霊』さまの傑作!ゴーレムちゃんじゃないかい!」


ゴーレムちゃん!?


「まさかこの目で見ることができるなんてねぇ……っ!生きていて良かった……!」


涙をほろりと流し感動するおばちゃんの近くで、なにも言えず浮かぶことしかできないセリナとテリア。

そんな二人におばちゃんは気づき、手を広げて大声を張る。


「奇跡だよっ!こんな奇跡に出会えたんだよっ!もっと喜ぼうっ!ねっ、そう思うだろう!?」

「……え。あ、そうですねぇ」

「これもセリナちゃんの愛の力だねぇっ!」

「お役に立てたみたいで良かったです」


混乱したままのテリアと、即座ににこりと笑うセリナ。

それを見て、おばちゃんはうんうんと嬉しそうに首を縦に振った。


――そして、感極まったおばちゃんは語りだす……


「ゴーレムちゃんはね、かつて『大地の精霊』様が人間を模したものを作ったところから始まるんだ。どうしてかって?『大地の精霊』様が、勇者一行に力を貸してから、人間、いや、この大地に生きる者についての考えを改めようと思ってくださったからなんだ。そして、交流をちゃんとできるようにとの気持ちを込められ、ゴーレムを作ろうとされたのさ。でもね。最初に作られたものはあまり良いものではなかったそうなんだ。それでも『大地の精霊』様はめげなかったんだ。そうっ。それが『大地の精霊』様の巨大な愛なのさっ。すごいだろう?おばちゃんこの話を聞いた時はそりゃあもうびっくりだよっ。それからたくさん努力されたのさっ。上手く作るために『大地の精霊』様はかつての勇者一行の一人に協力を仰いだそうだ。精霊様が人間に願うなんてそりゃあ歴史にも類を見ないことだろうねぇ。それだけ『大地の精霊』様の愛が深いってことさね。そうして何度も間違いながら出来ていった最初のゴーレムは人間そっくりだったそうだよ。だがね、出来上がったのは人間を模した『なにか』でしかなかったのさ。それでは本来の目的である生きる者との交流はうまく出来なかった……悲しみに暮れる日々だったそうだよ……でもゴーレムは手を貸している勇者一行ではあるものの『大地の精霊』様が、まさに人間と交流してできたもの。だからそれを無視することができなかったんだねぇ。そうしてその原初のゴーレムを永遠にしておけるようにとできたのが、ゴーレムちゃんってわけさっ!ゴーレムちゃんの中にはその原初のゴーレムが入っているらしく、あのゴーレムちゃんこそ『大地の精霊』さまの人間への愛の証。あの大きさは『大地の精霊』様の愛の形というわけさ。そう考えると納得する大きさだべ?アタシも初めて見たけど、本当に感動してるところさねっ!あぁ、これが精霊と生きとし生ける者、つまりアタシたちを繋ぐ愛の架け橋のようなもの!それをこの目で見れるなんて本当に嬉しいよアタシはっ……!」


――長いっ!


かつて教会や貴族のありがたい言葉も、きちんと姿勢を正し、微笑みながら聞き流していたセリナだったが……

おばちゃんの熱の入った話は、ちゃんと聞いておいたほうが良いのか?そう思って耳を傾けてみたものの、ひどく後悔した。


だが……

まだまだおばちゃんの、特に聞かなくても良い語りは続く――


「いや、感動している場合じゃないねっ。えーと、どこまで話したっけ……あぁ、そうそう。『大地の精霊』様はゴーレムちゃんを作った。それだけじゃ『大地の精霊』様の愛はとどまらなかったのさっ。ゴーレム作りでは人間と交流できないと知った『大地の精霊』様は、直接人間と交流しようと思われたのさっ。でもその時にはもう精霊の存在を知る者は神と崇める時代。その場に顕現されたとしても信じてはもらえない。それに『大地の精霊』様が顕現するということは、誰かの魔力をたくさん借りるということ。これじゃあ人間と交流どころか滅ぼしてしまいかねない。だから『大地の精霊』様はやめたのさ。悲しい話さね。だけど『大地の精霊』様は負けなかったっ。なにをしたかって?『大地の精霊』様は待ったのさ。自分と交流できる人間が現れるのをね。これも深い深い愛がなせる業だべさっ。切ないだろう?でもそれでも『大地の精霊』さまの愛にはそんな悲しみなど、道端に転がる石程度のものだったと語ったとのちに言われているのさ。アタシはここでまた感動したものさね。そして『大地の精霊』様の眷属であることに誇りすらもったものさ。さらにね――」


――うん、もういいです。


要するに、精霊以外と交流しようとした『大地の精霊』が、人間を模したゴーレムを作ってみたけど失敗した。だから今度は人間と直接話そうとしたけど、それも失敗した。

それだけの話だ。


ちなみに、セリナの耳にもう入らなくなった今もまだ、おばちゃんの熱のこもった話は続いている。

ちらりと横を見ると、テリアが空を見上げており、文字通り上の空だ。慣れているのだろう。瞬時にこの姿勢になったようだった。


歳を取った女の話は長くなる。昔、戦場で男たちが自分の嫁に対してうんざりしながらそう言っていたのをセリナは思い出す。そしてこれか、と納得する。


そんなことを考えていると、いきなりグンッ!と体が、いや、セリナたちを包んでいる透明な球体が突如動き出した。


「ふおおおおっ!今度はなんですかぁぁあああっ!?」

「その時だよっ!おばちゃんは言ってやったのさっ!『そんなんじゃいつまでたってもその子の本当の親にはなれないよ』ってね!あの時はアタシも若かったからそんな陳腐な言葉しかでなかった!でも、それが良かったんだろうねぇ。途端に泣き出して――」


何故この状況でまだ話せる!?

いや、そんなことはどうでも良い!どこに連れていかれているっ?


勢い良く宙を飛ぶセリナたちが着いた先は、ゴーレムちゃんの真上。そこで急にピタリと止まり、セリナはなんとかその場にとどまり、テリアは透明な壁にぶつかり、おばちゃんは気にせず話し続けている。

そして……ゴーレムちゃんの頭上が丸く開いたかと思うと、先ほどの勢いはどこへやらと言わんばかりのゆっくりした速度で、セリナたちをゴーレムちゃんの中に運んだ。


『良く来てくれました』


セリナの足が降り立った瞬間、パチンっ!となにかが壊れる音が鳴り、頭上の穴が閉まっていく。

それと同時に『大地の精霊』の声が聞こえた。


ここは……ゴーレムちゃんの頭の中だろうか?

外から見たゴーレムちゃんの目に当たる部分が、横長の長方形になっているのをセリナは覚えていた。それが窓のようになって今、セリナの目の前で外の景色を映しているように見えた。

周りの壁は綺麗に磨かれていて一瞬わからないが、ちゃんと見ると土と粘土で出来ている。


そして、三人が入っても余裕な大きさの丸い空洞。

窓とは反対方向、セリナたちの真後ろに『大地の精霊』はそっと佇んでいた。


「な、なんてことだい……!まさかゴーレムちゃんの中に入れるなんて……っ!」


我に返ったおばちゃんが、また別の意味でどこかに行ってしまっている横で、セリナは『大地の精霊』をしっかりと見据えた。テリアも眼鏡を直しながら立ち上がり、同じく『大地の精霊』を見ている。


『私が目覚めた時、もう一つの『大地の精霊』の目覚めも感じました。ですが、私の言葉ではなかなか姿を現さないでしょう』

「……それはどうしてですか?」


セリナの質問に『大地の精霊』は、悲しげな顔をする。

そして、とても……とてもつらそうな声で答えた。


『ケンカ中だからです』

「……はい?」


思わず突っ込んでしまったセリナを尻目に、涙を流さん勢いで『大地の精霊』は下を向き、セリナたちから視線を外す。


『実は私たち……ケンカ別れをしていたんです。そして、そのまま眠りにつきました。だから向こうが拗ねてしまっている今、私の言葉は届かないかと』


……えーと?精霊がケンカ?


『ですがっ、向こうが謝れば私だって謝ったんです!なのに、頑固でいつまでもグダグダ言うから、気がついたら国の男ですら、私の恨みの対象になっていたんですっ』

「はい?恨んだ?」

『でも向こうも同じですよっ!女を恨みながら眠りについたんですからっ!』


待て待て待てっ。

女側にいる『大地の精霊』の片割れが男を恨みながら眠りについた?逆側は女を恨みながら?

確か各国はそこにいる精霊の力を受け、影響されているはずだ。

『東国』ではリオナルドが、『北国』ではエルンストが、そのようなことを実際それぞれの精霊に言われていた。


……ということはつまり?


「もしかして……この国の人間が異性を恨むようになった原因って貴女たちですか?」

『え?』


セリナの言葉に『大地の精霊』が止まる。

ケンカして怒りのままに眠りについた。ならば、この『西国』がどうなっているか『大地の精霊』は知らない可能性が高い。

セリナはにこりと笑って、窓の外……『西国』を指さした。


「見えますか?綺麗に男女に分かれているでしょう?」


『大地の精霊』は黙って『西国』を見る。泣き顔が焦りの顔にどんどん変わっていき……しばしの沈黙。

言い訳を考えているのか、謝罪をしようとしているのか……

うんうん唸っているところを見るに、この『大地の精霊』は本当に謝るのが苦手なんだな、とセリナは心の中で呆れた。


……いや、違うな。

セリナは『大地の精霊を』改めて見ながら考える。


精霊にとって人間は取るに足らない存在だ。間違いを犯したからといって謝る必要などないと感じているのかもしれない。

人間だって、無意識に微生物を踏んでいても謝りはしないだろう。雑草を踏んでも謝らないだろう。

そんな感覚なのかもしれない。


その時だった――


「……っ!?」


再び轟音が鳴り、ゴーレムちゃんの中でも振動を感じる。鳥が一斉に飛び去り、揺れに多少の頭痛すら感じる。


『来ましたね……』


『大地の精霊』の言葉がセリナの耳に届き、その視線の先を見ると……

今度は男側の山脈が揺れたかと思うと、下からゆっくりと出てきた。


ゴーレムが。


もう一度言おう。


ゴーレムだと判別できるのは顔の部分だけ。

黒い鎧が全身を覆い、手や背中には武器を携え、それ以外にもこれでもかと武装された、ゴーレムちゃんとほぼ変わらない大きさのゴーレムが、二つの目を赤く光らせ立っていた。


「あれはっ!『大地の精霊』様の傑作!ゴーレムくんじゃないかいっ!」


ゴーレムくんっ!?


こういうのをデジャブとでもいうのだろうか?そんなことをどこか遠くで思いながらも、セリナはおばちゃんの言葉にツッコミを入れざるを得なかった。

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