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ナバレスタ ダンジョン百景  作者: ろくろだ まさはる
6/6

第五景:宝剣 後編

◇登場人物◇


◇アルマン:王城守備隊長/騎士

◇バーミル:王弟/大公

◇フードの男:盗賊


◇パスカール三世:王

大きく口を開けた入口の前には、王家の守護者である戦神の像が祀られていた。

元々は王族の霊廟であったこの洞窟だが、百数十年前にダンジョンに飲み込まれ、その時からここは王家にとって忌まわしき場所へと変貌した。


今、その入口の前には王弟であるバーミルと騎士であり王城守備隊長であるアルマン。

そしてそれぞれが率いる精鋭の部下と冒険者が立っていた。


賊の目的地が判明した時、真っ先に名乗りを上げたのがバーミルだった。


「王族として今回の蛮行は到底見逃されるものではない、しかしながら王自らが動くことはできない。かくなる上は王弟である私が赴き、宝剣を取り戻し我が国の威光を示そうではないか!」


それに続いたのがアルマンで、王に陳情し今回の汚名を雪ぐ機会を与えて欲しいと懇願した。

その言を受け、王命により二人に賊の討伐と宝剣奪還の任務が与えられたのだ。

時間と場所を鑑み少数精鋭での最短での宝剣奪還、それが彼等の使命である。


そして、問題は賊が逃げ込んだ場所である。

死者の迷宮はその性質上、その名の通り不死者(アンデッド)が多い。

霊廟に祀られた多くの死者が、迷宮の力により別の存在へと作り変えられてしまっているのだ。

物理攻撃の効きにくい、不死者へと。

過去に何度もこの不快な迷宮を排除すべく騎士たちが乗り込んだが、結果は散々だった。

切ろうが叩こうが向かってくる不死者に騎士の剣と心は折れ、その都度敗走しているのだ。


本来ならば、今回の失態も内々に対応したかったが、事が事である。


「これは国の威信に関わる大事であります、己が矜持より目的を果たすことが最優先ではないでしょうか」


そう告げるアルマンの言葉に王は頷く。


「して、アルマンよ。実際のところどうするのじゃ?今までのやり方では以前の二の舞いであるぞ」

「偉大なる王よ、それについて私に考えがございます」

「考えとな?よい、申してみよ」

「専門家を雇います」

「専門家とな?」

「はっ!迷宮攻略の専門家、即ち・・・・冒険者でございます」


バーミルは不服そうな顔を隠そうともしなかった。





3階層目に降り立つ頃には、バーミルとその部下達は疲労困憊になっていた。

襲ってくる敵は冒険者が受け持ち、万が一を考えアルマン達騎士団の精鋭がバーミル一行の護衛はしたが、移動は己が足で行わなければならない。

加えて、いつ敵が襲ってくるかも知れぬ緊張感と恐怖で、バーミル一行は体力と気力を削り取られていった。


公が休息がしたいと仰っている、そう言ったのはバーミルに付き従う護衛の一人だった。

この緊急時、しかも低階層で休息など。他の誰もがそう思ったが王弟の言である以上従う他は無い。

仕方なく冒険者のリーダーである戦士(ウォーリアー)狩人(ハンター)がそれぞれ一行の前後を固め、通路での休息となった。

気を良くしたのだろうか、休息をとったバーミルから冒険者と騎士団に高級品である果実水が下賜(かし)された。

王弟からの賜り物である、皆有り難くそれを飲み干す。


それから暫く経った時だった、戦士の前方の闇が動き出す。

見間違えか?と目を凝らす戦士の目線の先、迷宮奥の影がゆらりと動きフードを目深に被った男が姿を表す。

敵意を感じ戦士は剣を抜こうとするも、何故か体が動かない。

男はそのままゆっくりと移動し、戦士の前に立ち(おもむ)ろにその顔に拳を振るった。


意識が遠のく瞬間、戦士の目に写ったのは同じく気絶した仲間と護衛達、そして騎士団達が転がっていた。

この場に居なくなった者が二人居ることを知らずに。





ゴウンッ!という音と共に昇降機が止まった。

バーミルが連れて来られたのは地下50階、彼等のパーティーでは到底到達できない深層である。

フードの男に促されバーミルは昇降機から降りる。

降りた先は、迷宮無いとは思えぬ広い空間だった。


「フッ・・・フハッ・・・フハハハハハッ!!」


瞬間、バーミルは声高らかに笑い出した。

その笑い声がフロアに響き渡る。

それはそうだろう、まさかこんなにも簡単に事が運ぶとは思っていなかったのだ。

正直、アルマンが冒険者を雇うと言い出した時は面倒だと思ったが、蓋を開けてみればなんて事はない。

無能な冒険者に、無能な騎士隊長、恐るるに足らず。

やはり自分の計画は完璧であった、バーミルは己の計画を自画自賛し計画を次に移すことにした。

ゆっくりと上昇している昇降機に気づきもせずに。


さて、とバーミルはフードの男に目を移す。

男は頷くと背負っていたものをバーミルに差し出した。

それは紛れもなく盗まれた宝剣で、男が城の宝物庫からバーミルの依頼で盗み出したものだ。

宝剣を手に持ち恍惚の表情を浮かべるバーミル。

この剣は王位継承の証、つまりはこの剣を持つものが王位に就く資格がある。

これを持ち帰れば兄を王位から失脚させられるだろう。

宝剣を盗まれた愚鈍な王と、死者の迷宮からそれを取り返した聡明な王弟。

どちらが優れているか一目瞭然なのだから。


男の咳払いで我に返ったバーミルは、不快な顔を隠そうともせず腰に吊り下げていた革袋を放り投げる。

報酬の後金に加え、3階に残してきた者の始末料も含まれている。

男にはまだまだ使い途があるのだ。

王弟である自分のみ生き残り王都に宝剣を持ち帰り、他の者は迷宮で死を遂げた。

宝剣奪還の尊い犠牲として名を残すだろう、それがバーミルの筋書きだ。

帰りは単独で帰るため、転移の巻物(スクロール)を用意してある。

男を見送り、自分の世界に浸るバーミルの足元に何かが転がる。

黒い布から覗く目を大きく見開いた、今しがた見送った男の首だった。

振り向くと、アルマンが立っていた。





アルマンは王族を憎んでいた。

先代の王の下策により騎士団長だった父は失脚させられ、アルマン自身も許嫁を現王であるパスカール三世の妾として奪われている。

それでも忠誠を誓ったフリをしていたのは、このような日を待ち望んでいたからだ。

そして、目の前に居る男は賊を使って宝剣を盗んだどころか、その責任をアルマンに負わせようとしたのだ。

王族とはなんと卑怯で傲慢なのだろうか。


城での宝剣盗難の時から怪しいとは思っていた。

なぜなら、宝物庫の扉にこじ開けられた形跡はなく、鍵穴に不審な傷もなかった。

だとすれば賊は鍵を使って侵入したと考えざるを得ない。

鍵を持つものは王族のみ。

しかも盗まれた品物は継承権の証である宝剣ならば、必然的に賊の黒幕が分かるというもの。

馬鹿な男だと思った。

敢えて王には提言しなかった、王もその事には気づいている節があったから。

気づいてなくとも、それを教えてやる義理は無いのだ。


目の前にいる王弟を自称する男は失禁し、腰を抜かしていた。

それでも必死に宝剣を抜こうとしていたが、どうやら抜けないらしい。

聞いたことがあった、宝剣はその資質があるもの以外は鞘から抜くことができないと。

そのため、王位継承式で用いる宝剣は良く出来た模造刀なのだ。

剣に選ばれない、こんな男が王位継承の資格を持つこと自体、不遜なのではないか。

自分ならばどうか・・・・。

そう思い、尚も引き抜こうと抗う男から剣を奪い取ると、アルマンは宝剣の(つか)に手をかけた。

その剣はアルマンの意思に逆らうこと無く、ゆっくりと音もなくその刀身を顕にする。

アルマンには資質があり、資格を得たのだ。





宝剣には謂れがあった。


「決して抜くべからず」


宝剣の力は抜いた者の根源の力に由来するのだ、と。

心に光ある者が抜けば光に、心に闇がある者が抜けば、闇に。

そして、その力を解放する事自体が王家で禁忌とされてきた。

故に、式典で使う宝剣は模造刀なのだ。

もちろん、資質無き者に抜く事すらできないが。


宝剣から溢れ出した闇がアルマンを覆っていた。

呻き声を上げ、悶え苦しむアルマン。

眼前で起こるその光景から逃げるように、バーミルは這い(つくば)りながら懐に仕舞った巻物を出す。

それを広げれば魔法が発動し、瞬く間に彼は王都近くにある転移門へと移動できるだろう。

今がそのチャンスだった。

急ぎ紐を解き、巻物を広げた瞬間・・・バーミルの右手が胴体から離れた。

アルマンが宝剣を振るい、バーミルに切りつけたのだ。

しかし、右手を残しバーミルの身体は虚空に消えた。

巻物の魔法が発動し、間一髪のところで王弟は難を逃れたのだ。


アルマンの心には憎しみが満たされていた。

引き抜いた剣にから流れ込んだ力はアルマンの全身を覆った。

その力に呼応するように、侵食されるように広がった憎しみは、全身を包み込み彼の身体を黒く染め上げる。

彼は消えかける意識の中で、この憎しみに身を委ねる事にした。

最早、この世界に未練はない。

ただ、そこにいる虫けらは始末しよう、と。


そこには漆黒の鎧を纏った、禍々しい騎士の姿があった。

アルマンであった騎士は這い蹲る生き物を一瞥すると剣を振るう。

まるで全てを憎むかのように振り下ろされた剣は、生き物の一部を切り落としただけであった。

そこに悔しさも感慨もなく、騎士は踵を返し広間から消えた。


その日、死者の迷宮に新たに憎悪を纏った騎士が放たれた。

ナバレスタ ダンジョン百景:第五景、その後編を公開させていただきました。

宝剣にまつわるお話でした。


お読み頂き、感想頂けると嬉しいです。

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